大好きなもの
作者: 幸   2009年07月30日(木) 01時14分40秒公開   ID:4L8/384DMeM
「うう・・ここ、どこかなあ・・」
―――殺し屋です。
聞きなれない自己紹介をされてから、どのくらいの時間が経っただろう。
なるほどくんとはみちゃん、荷星さんと喋ったのが、随分昔のことに感じる。
「とにかく・・何か手がかりを探そう。そして、お姉ちゃんに見てもらうんだ!」
閉じ込められた倉庫の扉をあのサザエのカードで開けて、
壁を伝って歩いてきたら、この部屋に着いた。
もちろん、この部屋にある扉も開けようとしたけど・・・・
「ここはさすがに開かないかあ・・。もうちょっとやせてたら、
このちっちゃな窓・・入れたかもな。」
恨めしそうに、ドアの下についている窓を見た。
「・・・・これは・・クマさんだね。切れ目がいっぱい入ってるけど。」
置物かな?何かの手がかりになるかも!
もしかしたら指紋とか・・・・
・・あーあ・・あたし、似てきたなあ―――なるほどくんに。
自分の思想に、思わず笑みがこぼれる。
こんな状況でも笑うことができるのは、きっと―――信じてるからだよね。
あたしも、ぼやぼやしてられないよ!
「えっと・・あとは・・・・これ、女の人だよね。ちょっときれいだな。」
テーブルの上にある写真立てには、優しく微笑む女の人の写真が入っていた。
<愛をこめて・・・・ユリエ>
そう書かれたきれいな文字に、会った事もないユリエさんの幸せそうな笑顔が想像できた。
「他に・・何かあるかな・・」
「困りますね・・勝手に出歩かれては。」
「きゃああああああああッ!」
びっくりして、床に座り込んだ。
「弁護士さんは・・失敗したようですねえ・・」
今、この人が<弁護士>と呼ぶのは1人しかいない。
「な・・なるほどくんが・・・・?」
ウソだよ・・!だって、なるほどくんは・・いつだってあたしのピンチは
助けてくれたんだよ?
「今から彼に連絡を取ります。」
そう言って通信機を取り出した。
あまり機械に強くないから、その名前が分からない。
なんだっけな・・トラ・・とらん・・・・
(もしもしッ!こちら、成歩堂!)
通信機を通じて聞こえるなるほどくんの声が、とても懐かしく聞こえた。
「弁護士さん・・これは電話ではありませんよ。」
あくまで、穏やかな声。
<殺し屋>などと聞かなければ、絶対に考えられない、その正体・・・・
「失礼。」
ピッ
「どうやら電波が悪いようです・・また後ほどかけなおすとしましょう。
あなたには、戻っていただきますよ。」
殺し屋とは思えないほどの優しい力で腕を引っ張られた。
それが、またちょっと怖かったり・・・・
もと来た道を戻って、倉庫に連れ戻された。
「おとなしくしていることです。」
それだけ言って、出て行った。
「・・・・なるほどくぅん・・」
あたし・・どうなっちゃうの・・?
会いたいよ。なるほどくん・・はみちゃん、
御剣検事、イトノコさん、やっぱりさん・・
1年なんて、短すぎる。でも、大事な思い出はたくさんあるんだ。
倉院の里にいたころは、決してなかった日々。
みんなではしゃいで、気づけば毎日笑ってた気がする。
それが―――幸せだった。
毎日笑う、なんて―――そんなこと?
そう思うのが普通、だよね。でも、あたしは違った。
本家―――その立場が、あたしから人を遠ざけていった。
イヤではなかった。それが、あたしに課せられた生まれ持っての運命。
―――そう、思えば。
でもその反面、里を出たお姉ちゃんがいきいきしていることにも気づいてた。
ああ、何か、あたしの見たことのない世界があるんだろうなって。
・・ちょっと、うらやましかった。
だから・・・・嬉しかったんだ。
毎日、心から笑えるっていうことが新鮮で。
・・もう、できないのかな・・
「ありがとう、って・・言っておけばよかった・・」
いまさら気づいても遅いんだよね・・・・
「・・・・ん・・?」
ポケットに・・なんか違和感が・・
「あ。これ・・写真・・」
あの時、思わず入れたんだ!
「ペン・・は・・・・」
ごめんなさいユリエさん、後ろに書かせてください。

``なるほどくんへ・・・・

「う・・ぅぇえん・・」
書き終わったとたん、大粒の涙があふれてきた。
現実味が、急に増してきて・・・・
お姉ちゃんも、おばさまもいなくなって・・今度は、あたしが・・
みんなを失うのか。
こんなメッセージじゃ足りないよ。
言いたいことが・・・・伝えたいことが、山ほどあるのに―――

「う・・」
起き上がったそこは、もうあの倉庫じゃなかった。
「眠らされたんだっけ・・・・」
ほこりっぽい部屋には、小さな窓。
お姉ちゃんに見てもらうほうが早いな・・

霊媒から意識を取り戻したあたしの前には、
一枚の紙。
お姉ちゃんのきれいな字がつづられていた。

<真宵、信じるの。なるほどくんは、約束してくれたわ。
 あなた・・真宵を、必ず助ける・・・・
 彼が約束を破ったことがあったかしら?
 あなたが1番見てるはずよ。
 決して人を裏切らない、その姿を、ね。>

―――夢を、見た。
なるほどくんがいて、はみちゃんがいて、御剣検事がいて、イトノコさんがいて、
やっぱりさんがいて、お姉ちゃんがいて。
笑ってた・・・・みんな。
あたしが、大好きな―――笑顔。
バンッ!!
「救助者、確保ーーーッス!」
「い・・イトノコさん・・?」
まだ、夢の続き・・?寝ぼけていたあたしに、現実味のある言葉が返ってきた。
「アンタ!成歩堂龍一が、やったッスよ!」
・・・・なるほどくん?
「王都楼を有罪にして、アンタも助けたッス!まさに、ミラクルッス!」
・・・・・・・・・・・・・・
「?どうしたッスか?」
「う・・うえ・・うええええええん!」
「うわわわわ!泣いちゃダメッス!アンタはよく頑張ったッス!」
ねえ、お姉ちゃん?
あたし、思ったんだ。もし、なるほどくんと会ってなかったら、どうなってたんだろう。
「ほら、会いに行くッス!」
こんなにも優しい人たちに囲まれて・・・・
たまに誘拐されるくらい、文句も言えないね。
「真宵ちゃん!」
ねえ、なるほどくん。
あたしね、夢を見たんだ。
夢には、大好きなものが出るんだって―――知ってる?
あたしの大好きなものは、みんなの笑顔だったよ。
■作者からのメッセージ
書いていて、途中でなんだか分からなくなってしまって・・・・
おかしいところがあったら、指摘をお待ちしています!
最後まで読んでいただけたら嬉しいです。

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