双子と八咫烏 |
作者:
10join
2009年06月21日(日) 19時28分18秒公開
ID:yI0DTBIFyLM
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3月27日 午前6時11分 ヘルジョーカーのアジト わたしは目を覚ますと部屋の様子がいつもと違っていた。というより家具の配置とか種類とかも違うような感じがした。 「そう言えば昨日からヘルジョーカーのアジトでお世話になってるんだった」 わたしはそうつぶやいて時計を見た。まだ起きるのには少し早いとも思ったけど二度寝する気分じゃない。わたしは着替えて、顔を洗ってからリビングの方に向かった。 「おはよう美雲ちゃん。結構早起きだな」 リビングでは空悟さんが朝のニュース番組を見ながら座っていた。 「おはようございます空悟さん。なぜか早く目が覚めちゃったんです」 「昨日あんなことがあったからだろう。まだ興奮がさめてないのかもな」 空悟さんは眠そうにそんなことを言った。なんか他人事みたいだね。やっぱりヘルジョーカーは別人格だからなのかな? 『次のニュースです。昨日銀河貿易に盗みに入ったヘルジョーカーが、今日未明国宝級のイヤリングをその国の大使館に返しました』 え?いつの間にそんなことをしてたの? 「昨日美雲ちゃんの歓迎会が終わった後返してきたんだ。その時にはもう寝てたみたいだけど」 いつの間にそんなことしてたの?さすがヘルジョーカーって所かな。 『なおそのイヤリングはこれまで通り切札美術館に収められるようです。大使は「切札美術館に収めたほうが国の宣伝になる」と発表しています』 前にそんな大使に会ったことがあるんだけど。大使って大体そんな人なのかな。 『この事件にはヤタガラスも関わっているとのことです。現場にはヤタガラスのカードがあり、このテレビ局を始めとした多くのマスコミに密輸の書類が届けられたようです』 わたしの代わりにそんなことまでやってくれてたんだ。今度からは自分でできるようにならないとね。 「そろそろ朝食の時間だな。美雲ちゃんはみんなを起こしてきてくれ。オレは朝ご飯を作るから」 仮面の絵札のご飯って空悟さんが作ってたんだ。なんか意外かも。 「わかりました。それじゃ呼んできますね」 わたしが仮面の絵札の人たちを起こしてからしばらくすると、空悟さんがトーストとベーコンエッグにコンソメスープといったような洋風な朝食を持ってきた。 「それじゃいただきます」 「「「「「いただきまーす」」」」」 わたしたちはあいさつをして朝ご飯を食べた。かなりおいしかった。 ピンポーン! 朝食を食べ終わってしばらくくつろいでると、玄関のチャイムを鳴らす音がした。 「はーい」 わたしが出るとそこには銀髪で紫の目をした双子がいた。確かヘルジョーカーのライバルの謎賀無限と零樹って人だったっけ。 「ふーん。君が二代目ヤタガラスか」 「やっぱり空悟の所にいると思った」 それってつまり無限さんと零樹さんはヘルジョーカーの正体を知ってるってこと? 「よう無限に零樹。昨日は珍しく会わなかったな」 空悟さんはわたしの心配をよそにそんな軽口をたたいた。 「お前が密輸品なんか狙うから警備できなかったんだよ」 「国際捜査官のロウもお前に会いたがってたみたいだぞ」 へー。ウルフもあそこにいたんだ。ウルフ元気にしてるのかな? 「ってそんなフレンドリーでいいんですか空悟さん。この人たち有名な探偵ですよ?!」 「大丈夫。こいつらは公私混同はしない。無限と零樹はヘルジョーカーと探偵として対峙しないときは気心の知れた親友って所だ」 そ、そうなんだ。でも警察にヘルジョーカーの正体とか居場所とかを知らせないのって探偵としての立場が悪くなるんじゃないの? 「その心配もない。白夜っていう警視の周りにいるやつらはみんなオレの正体を知ってるから」 「警察にも正体知られてるんですか?!そこまで正体バレてたら危険でしょう」 「「「人に会うたびにヤタガラスを名乗ってる君に言われたくない」」」 三人の息が合ったつっこみが返ってきた。これからは人に会うたびに名乗るのは控えるようにしようかな。 「まあ上がってけ。コーヒーぐらいなら淹れるから」 空悟さんがそう言うと無限さんと零樹さんは遠慮なくリビングに入った。もうすっかり慣れてるみたい。 「「それにしても美雲ちゃんはなんでヘルジョーカーの弟子になったんだ?」」 無限さんと零樹さんはコーヒーカップを置いてからそう聞いてきた。 「だってヘルジョーカーって今をときめく怪盗じゃないですか。大ドロボウとして修行をつむには一番です。それにヘルジョーカーとヤタガラスってどこか似てますし」 「確かにヘルジョーカーも真実を導き出してるよな」 「予告状を出してるし、直接警察を動かしてるけど」 無限さんと零樹さんも納得したような顔をした。 「もちろんそれもあります。でもヤタガラスには3つの捕まらない秘密があるんです。一つは盗みに入る建物の構造を熟知している」 「サイバージャックの情報力ならそれぐらい楽にわかる。アリュールクイーンが誘惑して吐かせたり、トレースエースが幹部とかに変身して潜入することもある」 「2つ目はかなりの盗みのノウハウがある」 「こればっかりは本能みたいなものだ。生まれつき身体にすりこまれてるって言ってもいいかもしれない」 「3つ目は証拠を全く残さない」 「それは基本だろう。狙った相手の証拠はかなり散らかしていくけど」 空悟さんはうなずきながら補足した。 「このようにヤタガラスも仮面の絵札も似たようなチームなんです」 「「なるほど。意外に共通点あるんだな」」 無限さんと零樹さんはそう言いながらクッキーに手を伸ばした。行動まで同時ってどれだけ息が合ってるんだろう。 「「ロウに聞いたんだけど現場の状況を実体化できる機械を持ってるんだって?」」 「はい。ぬすみちゃんっていいます」 わたしはふところからぬすみちゃんを取り出した。 「へえ。それがその実体化する機械か」 「これには電子猟犬も真っ青だろうな」 デジタルハウンドドッグ?なんなんですかそれ? 「医学ミステリー小説に出てくる警視正のコードネームだ。そいつはDMAっていうソフトでパソコン上で事件の状況を再現できる機械を使って事件を解決してるんだ。ちょっと違うけどプロジェクターが必要なぬすみちゃんだと言っていい」 つまりそのDMAは空間に立体映像をうかべたりはできないってことだね。 「「ちょっと見せてくれるか?」」 「ダメです。これは義賊の切札なのでよっぽどのことがない限り使いません」 わたしがそう言うと無限さんと零樹さんは少し残念そうな顔をした。 「そうか。義賊の切札なら仕方ないか」 「もしその時が来たらやってみてくれ」 「はい。わかりました」 それからわたしと空悟さんは無限さんと零樹さんと適当な雑談をして盛り上がった。 「「それじゃおれたちはここらへんで失礼するか」」 しばらく話してから無限さんと零樹さんは席を立った。もう少しいてくれてもいいんだけどな。 「そうか。それなら見送るよ」 空悟さんが見送りに行ったのでわたしも見送った。 「「じゃあな。またお邪魔させてもらうよ」」 「ああ。またな」 「また来て下さいね」 わたしと空悟さんが手を振ったら無限さんと零樹さんも手を振った。 「今度は予告の場所で会うことになるんでしょうか?」 「だろうな。その時は敵として戦うことになる」 「一体いつまでそうやって戦うことになるんでしょう?」 わたしがそう言うと空悟さんは不敵に笑った。 「オレたちが盗む相手がいなくなるまでだ」 それってずいぶん気が長い話だね。 「いつかそんな日がくるといいですね」 「ああ」 わたしたちはお互いの気持ちを感じながら無限さんと零樹さんが帰った方向を見つめていた。 おわり |
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