双子と狼
作者: 10join   2009年06月04日(木) 13時51分25秒公開   ID:yI0DTBIFyLM
3月26日 午後9時50分 銀河貿易10階
 おれの名前は謎賀無限。謎賀探偵団の団長だ。
 おれは謎賀零樹。無限の双子の弟で副団長だ。
「おい双子くんよお。本当にヘルジョーカーは来るんだろうな?」
 どことなくオオカミっぽい男がおれたちに話しかけてきた。
 こいつは狼士龍。国際捜査官だ。多くの部下を率いている。
「あいつは予告状を出したからには必ずやってくる」
「予告通りに法廷で盗みをやってこともあるんだぜ」
 おれたちの言葉にロウはありえないという顔をした。
 実際にヤツの犯行を見たことがないなら仕方ないか。
「それは日本の法廷の警備が甘かったんだろう?オレと部下たちの力で必ず捕らえてやるぜ」
「残念ながらそれはムリだろうな」
「会えるかどうかも怪しいもんだ」
 ロウはおれたちをにらみつけた。
 次に言うことはすぐ予想できる。
「なんだと!?オレと部下がヘルジョーカーに会えないほど無能だってのか!普通警察の前に姿を現すって聞いたぜ」
「普通ならな。今回ヤツは警察の前に姿をさらす必要がないんだ」
「ターゲットへの警備が薄すぎるからな。理由はわかってるだろ」
 ロウはすぐに俺たちが言いたいことを悟ったようだ。
 わかって当然だ。ロウはあれを見て来たんだからな。

「狙われたのが密輸品だからか。でも本当に国宝級のイヤリングなんかが密輸されてるのか?」
「双子いわく、道化が狙うもの必ずそこにあり」
「ヘルジョーカーがあるって言ったら絶対ある」
 この場合はふたごじゃなくてそうしって読むんだ。
 密かにロウの言い回しをモノマネしていたりする。
「そうかよ。それでなんでオレたちは10階に来てるんだ?」
「そりゃ貿易した物を一時的に保管する倉庫があるからだ」
「密輸するなら何か他の者に隠して輸入するのが常識だろ」
 まあ国際捜査官のロウには言わなくてもわかるだろう。
 単におれたちの実力をためしてみたっていう所だろう。
「それがわかってるだけにどの輸入品の倉庫かわからないのがつらいな。そのせいで階段で待機しないといけなくなった」
「「しかもロウのご自慢の部下は全員狙われた方に張り付いてる」」
「狼子曰く、犯罪者からは決して目を離すべからず!」
 ついに本家の狼子の言葉が出てきたな。本当に言ったのかは知らないけど。
 ロウの家系に伝わるタイホ学は現代でも通じるものもあるかもしれないな。
「そのためにはヘルジョーカーを逃がすことのもやむなしって事か」
「まあいいか。ヘルジョーカーは泳がしておいた方が都合がいいし」
「アマイな!警察がそんな気構えだから取り逃がしたりするんだ」
「双子曰く、警察は道化を捕らえるものにあらず。その獲物を捕らえるものなり」
「警察の仕事はヘルジョーカーじゃなくて狙われた獲物を捕まえることなんだよ」
 まあ必然的にそうなるだろうな。ヘルジョーカーを現場で捕まえるのは不可能だ。
 警察はヘルジョーカーが逃げた後に残した証拠でターゲットを捕まえるしかない。
「「あ、もう時間だな。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1」」
 予告時間ちょうどにいつもの曲が流れてきた。

「マジで曲が流れるのか。この曲が聞こえるところにヤツがいるんだな?」
「いや、もう曲が聞こえるところにはいないだろう」
「多分スピーカーでも仕掛けてるんじゃないのか?」
 おれたちの言葉にロウは顔をうつむけた。
 逃げられたのがよっぽど悔しいんだろう。
「それじゃ曲が流れてる所に行く意味ないんじゃないか?」
「「密輸品の隠し場所がわかるだろ」」
 おれたちの言葉にロウはハッとしたような顔をした。
 自分がここに来た理由をやっと思い出したみたいだ。
「そうだな。行くぞお前ら」
「「了解」」
 
 曲が聞こえた所にはやっぱりスピーカーがセットしてあった。
 ついでに引き出しの二重構造がすぐバレるようになっていた。
「本当に密輸品の隠し場所がわかりやすくなってるな。部下に連絡して調べさせとくぜ。で、ヘルジョーカーがどこに行ったかわかるか?」
「ヒマつぶしに密輸の書類を荒らしてるだろうな」
「多分書類は資料室の中に隠されてるんだろうさ」
「狼子曰く、木を隠すなら森の中だ!」
「「大分伐採されてるだろうけどな」」
 
 資料室についてすぐおれたちはある違和感に気付いた。
 荒らされた資料の上に三本足のカラスのカードがある。
「ヤタガラスまで来てたのかよ。資料が何枚かなくなってやがる」
「忍び込んでたヤタガラスに会ってそのまま一緒に逃げたわけか」
 初めからヤタガラスがヘルジョーカーと組んでたはずがないことはおれたちが一番よく知ってる。
 狙いは初代が狙ってた密輸組織の情報をリークするのと、ヘルジョーカーの弟子になる事だろう。
「それで一体ヘルジョーカーはどうやって逃げたんだよ?」
「「当然窓からだ」」
「アマイな!人は空を飛ばないぜ!」
「ヘルジョーカーにはハンググライダーがある」
「ヤタガラスに翼を生やして逃げたんだろうさ」
「アオオーーン!」
 ロウがなぜか悔しそうに吠えた。
 情報が少ないから仕方ないだろ。
「「ま、とりあえず今度ヤタガラスに会いに行ってみるか」」
「は?居場所知ってるのかよ。なんで捕まえないんだ?」
「双子曰く、道化師は招待されてから捕らえよ」
「捕らえるのはあいつが予告状通りに来た時だ」
 ロウはおれたちの言葉に首をひねった。
 何か気になることでもあるってことか?
「それって警察でも通じるルールなのか?」
「「さあな。それじゃ後は頼んだ」」
「わかってる。犯罪者は必ず捕まえるぜ。それじゃまた会おうぜ双子くん!」
「「ああ。また会おうなロウ!」」
 おれたちはロウに別れを告げて家に戻ることにした。
 明日にでも空悟のアジトに行って見ることにしよう。

     おわり
 
■作者からのメッセージ
密輸組織の活動ならあいつがいないといけないと思って書いてみました。

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