白いシャツと嵐の夜
作者: カオル   URL: http://www.ab.auone-net.jp/~kaka/   2013年01月27日(日) 02時41分13秒公開   ID:P4s2KG9zUIE
「それはそうと・・・家にはキチンと連絡したのか? 君の母上は何と言っていた?」

今、バスルームから戻って来た少女が長い黒髪をタオルで拭い男の目の前に座っている。白い男モノのシャツにほんのりとピンク色に染まった肌。まるでワンピースのような着丈になっているとは言え下着以外は何も身に付けてはいない。
大荒れの天候で公共の交通機関が軒並みストップし家に帰れなくなった少女を仕方なく自宅へと連れて帰り、適当に引っ張り出した自分の白いシャツを着替え代わりにと差し出したまでは良かったが・・・さて、これからどうしたものか。
二人きりの部屋でこのような姿の女の子と一緒ならフツー男は、よこしまな妄想を抱きそうだが男性は眉間にシワを寄せながら問いただすように聞いて来る。この場で男が見せた優しさ、それは英国製のティーポットに葉茶を浮かべティーカップに注ぎ入れる程度。少女の方はと言うと、こちらに着くまでは非常にはしゃいでいたが、男性から詰問されるかのような態度を見せられ急に押し黙ってしまった。
激しく吹く風が街の木々を揺らし大量に降る雨が部屋の窓ガラスを叩きつける。二人して簡単な食事をとる間も、男はこの状況を報道するテレビの画像に見入っていた。そして、就寝を考える段になって自分のベッドを譲ろうとする男に対して少女が云う。
「御剣さんはベッドで寝て下さい。私がソファーで寝ます!」
幾度、説得するもその主張は変わらない。
「君をソファーに寝かせて私だけ、と言うわけには行かないだろう」
「だったら・・・私は床で寝ます!」
気がつけば、意地になって主張する少女の目尻に光るモノがある。室内の明かりに照らされ白いシャツに少女の身体のラインが透けて見えた。これぐらいの年齢ならば、もう子供扱いは許されない。言い換えれば相手の少女から自分は“男性”として見られている、と思っていいだろう。
「もう少し、起きていられるかね?」
自分の至らなさを悔いるように男が穏やかな口調で話し掛けた。
「君は・・・チェスは出来たか?」
男が部屋の隅から取り出したモノを見て少女は静かに首を振った。将棋や五目並べなら子供の頃に遊んだ覚えはあるけれど、チェスは未だによく解らない。
「将棋もチェスも相手の王様を取りに行くゲームだ。ただ、そこに至るまでのルールが違うだけだ」
そう云うと、ひとつひとつの駒を説明しながら丁寧に並べ始めた。
男ものの白いシャツ。異性の前でこのような姿なるには勇気がいる。女性は嫌いな人の前では決してそのような姿を見せない、絶対に―――。


ゲームを通じ少女の御機嫌が直ったところで、男はベッドの中央に線を作り背中を向けた。
「越境するな」
しかし、残り半分の面積に収まった彼女がその言葉を守り切ったかどうかは知る由もない。次第に激しく吹く風は穏やかになり、降る雨の音が気にならなくなった頃、ようやく夜が明け始めていた。


END
■作者からのメッセージ
ミツミク、彼シャツ妄想です。

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