真夜中のロジック
作者: カオル   URL: http://www.ab.auone-net.jp/~kaka/   2012年10月28日(日) 19時43分35秒公開   ID:P4s2KG9zUIE
「あのう今、大丈夫ですか?」

一日の終わり。あらゆるものから解放され、ようやくこの身を寝具に沈めた瞬間、傍らに置いてあったタッチ型携帯から着信音が鳴った。メールならまだしも、このような時間に通話してくるとは。いささかウンザリした気持ちでそれを手に取る。時代の波に押し流されるように、私もそれまで使用していたタイプのものから、新しい機種に買い替えた。この手のモノの進歩は本当に凄まじい。好むと好まざるとに関わらず今を生きる我々にとって、このような技術と無縁ではいられない。“ウイルス”と云う名の感染により、いつ犯罪者にさせられるか分からない御時世だ。

「ミクモくん、どうしたのだ、こんな時間に?」

以前のそれより大きくなった画面の表示に出てきた名前を呼ぶ。彼女は私の助手を自称する17歳の高校生だ。勿論、そのような存在を認めた訳ではないのだが、父親の跡を継ぎ大ドロボウを名乗る彼女は何かと私のテリトリーの中に入り込んで来る。
「……御剣さんは、どう思いますか?」
ある程度の忍耐力を持って話しを聞き終えた後、彼女はそう聞き返して来た。話の内容は実にたわい無いもので、彼女のお友達とやらが同い年の男子から告白を受けたそうだが、当人には他に意中の者がいるらしい。夜中に何を電話してくるかと思えば全く――私が彼女くらいの頃はもっと勉学に集中したものだが。
「ならば、断ればいいだろう」
何故かような話しを私にしてくるのか? このような話しこそ、彼女の“お友達”にするべきだろう。
「友達は別に彼の事、嫌いじゃないんです。彼、最近すごく頑張っていて人間的にも成長しているし」
だったら付き合ってみるといい……若干のイラつきと呆れを通り越し、投げやりな調子で話す私に対し、少し上ずった声が返って来た。
「でも彼女、他に気になる人がいるんです! その人、スゴ〜ク年寄りくさかったり、しゃべる事もお説教っぽいし、いつも不機嫌そうにしてるし、無愛想だし」
ムキになってまくしたてる彼女の言葉に、ふと笑みがこぼれる。
「……いいところ無し、だな」
しかし、彼女は急に前言を否定して来た。
「そんな事無いですッ、その人とっても頼りになるし本当は、おじいちゃ……ううん、お父さんみたいに優しいし」

「ミクモ君」

しばし思考した後、私は自分の考えを伝えた。
「君の友人が思っている程に相手の男は完璧な存在ではないだろう……ましてや父親の代わりになど、なれるはずも無い」
これは大変にシンプルでありながら奥の深いロジック。厳しく追求する事は出来ないが、そうかと言って曖昧な態度も許されない。女性と云うものは、このような思いがけぬ問いを男に仕掛けて来るものなのか。
「そう……ですよね」
 長い沈黙を経て彼女からのおやすみの挨拶を聞いた後、私は静かにそれを置いた。


―――さて、これからどうしたものか。



END


■作者からのメッセージ
年下から慕われるのは、いいものです。

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