〜醜聞〜 | |
作者:
カオル
URL: http://www.ab.auone-net.jp/~kaka/
2011年10月24日(月) 19時30分04秒公開
ID:P4s2KG9zUIE
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―――絶対に、逃がさない! 私は危険を覚悟の上で、相手の車の前方に張りつき、何としても中にいる人物の顔を見ようとした。 「何をするのッ!」 いくぶん甲高い声と共に、中にいた人物が観念したように顔を出した。 「まったく、あなたという人は・・・」 それは、私のよく知っている人物だった。 「冥さんッ!」 最近の某ファーストフード店の内装は、かなりシックなモノに変わってきている。今、私の前に座いってる人物の来ている衣装でも、さほどの違和感はない。二階席で、トレイの上に乗ったお互いの飲み物を挟むように私達は座っていた。そして、このような場所に入るのは、何年ぶりかしら? そんな言葉を口にしながらこの女性は、この手の店のコーヒーの味も随分マシになったものだとしきりに感心している。 「・・・ばれてしまっては、仕方がないわね」 ここ数日間に渡る違和感、私を監視するような視線。一体どういう事なのか? 「確かに私はあなたを見張っていたわ、主に塾の帰りにね」 「どうして、そんな事を?」 「あの男宛てに、怪文書が届いたのよ・・・」 まあ、あの男宛ての怪文書なんて、決して珍しいことではないわ。 あの男には敵が多い。私がこんなふうに云うのもなんだけど、今まで散々“狩魔”流を駆使してきたのだもの、当然と云えば当然だわ―――。そんな風に云いながら目の前の女性は皮の手袋を脇の下に押し込むように腕を組んだ。 「でも、なぜ冥さんが私を?」 「その怪文書に、あなたの名前が出ていたのよ」 あの男にとって、怪文書自体はけっして珍しいものではなかったが、その文章には彼の助手を自称する少女の事も書かれていた。どのような方法でその存在を知ったのかは分からないが、かなりの言葉を使っての中傷がなされており、少なくともそれは17歳の少女の心を傷つけるには十分な内容だった。しかし、女は敢えてその事には触れなかった。 あの男は最初、警察による彼女の警護も考えたそうだ。しかし、怪文書に名前が出ているだけではそういう訳にもいかなかったのだろう。私は彼から彼女の警護を頼まれた時、初めは断った。私だって、自分の仕事がある。刑事の張り込みのような真似などしている程、ヒマではない。 しかし、そんな私に彼は、怪文書の発信者が分かるまででいいと、頭を下げて頼んで来た。 「でも、わざわざ・・・どうして?」 「言ったでしょ? 彼には敵が多いって」 その時、私の携帯電話ではない着信音が鳴った。目の前の女性がポケットからそれを取り出し通話と話し始めしばらくした後、私を見てからソレを切った。 「今し方、怪文書の発信者が分かったそうよ」 どうやらただの脅しにしか過ぎないようだから、安心するといいわ。そう云いながら両腕を上げて身体を伸ばした。 「―――これで私も、ようやくお役御免になったわッ」 その晩の帰り、私は女検事が運転する車で家の近くまで送ってもらった。そして、彼女は私を車から降ろす間際に、こんな注意を与えた。 「あなた気を付けた方がいいわよ、少し遠回りになっても帰りは明るい道を選びなさい。たまたま、私が見張っていたからよかったけど、あの日、あなたの後を付けていた男がいたわ・・・多分、痴漢ね・・・もっとも、手を出す前に私が後ろからムチで引っぱたいてやったけど」 私は、ようやくあの夜の真実を知る事が出来た。 彼女を無事に自宅まで、送り届けた後、私はハンドルを握りながら一人、溜息をついた。 全く厄介だわ、どうしてこの私があの男の為に一条美雲のお守をしなければならなかったのか。聞けば、登校途中にも監視の目があったとか・・・多分、他にもお守役がいたのね。まあ、あの男がこんな事を頼めるのは私の他には、ビミョウな色合いのコートを着る刑事くらいしか考えられないけど―――。 それにしても、あの男も随分、変わったわね。以前は、あれほどプライドが高かったのに、私に頭を下げるようになるなんて、これも全ては一条美雲の為なのかしら? もし、そうなら・・・少し焼けるわね。 んッ、でもそう云えば彼、この前の事件でもヒゲに頭を下げていたような―――。 まあ、あの男も少しは人間が丸くなった・・・そう云う事ね。 END |
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