秋風の贈り物
作者: 夜空   2008年10月14日(火) 18時28分10秒公開   ID:GsI.sHKJduw
「ねえ、ママ……」
「なあに?」

 ニッコリ微笑む母の顔を見て、
 少女は少し黙った後、ニコッと笑った。

「うんん、なんでもないッ!」
「そうなの? ……なら、いいけど」

 そう言うと母は、また優しく微笑んだ。
 少女も微笑んだ。
 微笑んだ後、少女の瞳はゆっくりと地面へと向かった。

 ヒューっと音をたてて顔にあたる風が冷たい。
その冷たい風が、もうすぐ秋も終わる。っと告げているような気がした。

『秋になったら、お庭の落ち葉を集めて、焼き芋しようか?』
 母は、夏の終わりに言ったこの言葉を、覚えているだろうか。

(『覚えてる?』っと聞く気はない。やらないなら覚えていないのだ。)

 少女は前をしっかりと向き、
母の背中を追いかけた。

「ちょっと、八百屋さんに言って、にんじんかって来るね。一緒に行く?」
「……。いい! 八百屋さんの隣のおもちゃ屋さんにいる」
「そう? すぐ戻ってくるからね」
「分かったっ」

 少女は おもちゃ屋さんのショーウィンドに寄りかかった。
ガラスなだけに、背中が冷たい。
 なんとなく、ショーウィンドを覗き込んだ。
 そこにあったのは、可愛い女の子の着せ替え人形と、着せ替えようの可愛い洋服。

 一瞬にして目を奪われた。
綺麗な人形の顔をじっと見つめる。

(去年よりも、可愛くなってる……)

 去年の誕生日プレゼントに、この人形が欲しいとせがんだが、
『すぐに大きくなるから飽きちゃうよ?』
っと言われ、買ってもらえなかったのだ。

 忘れかけていた悲しみが、ドット押し寄せてきて、涙がこみ上げた。
「欲しかったな……」
ぽそりと呟いてみる。

 人通りの多いこの道だけど、
誰も少女の呟きに耳を貸さなかった。









 思い出した去年の悲しみと、
 外のこの寒さ。
 きっと忘れられている、
 母との約束。










少女には、辛すぎた。












 泣きだしそうになったとき、誰かが肩を叩いた。
涙を慌ててこすり、振り向いた。

 そこには母がいた。
ニッコリと暖かな微笑を向けてくれている。

「鼻水でてる。風ひいた? 大丈夫?」
「うん!」

 反射的に笑顔で頷いた。
母に心配して欲しくない。
顔をしかめて欲しくない。
それだけだった。

「じゃあ、帰ろうか?」
「はあい」

 母の後について歩く。
家では弟や、妹が待っている。
まだ子供だからって甘えていられない。
早く帰らなくちゃ、と少女の足は自然と速くなっていた。












 ふと、少女の左手が温かくなった。
左を見ると、母がしっかりと手をつないでいた。
ビックリして目をパチパチさせる。

「手、つないで帰ろうか」
「ママ……」
「さ、帰ろう?」
「……うんッ!」

 嬉しくて嬉しくて、思わず母に抱きついた。
母は、優しく微笑み、少女を優しく包み込んだ。

母は温かかった。
とっても、とっても。














 きっと母が手をつないできたのは、
 少女が寒いだろうなっと、思ったからだろう。
 少女は思った。

  ――秋風のおかげかな――













○月×日 土曜日

 きのうはお母さんといっしょにお買いものに行きました。さむかったけど、お母さんと手をつないだから温かかったです。
 今日は、やきいもをしました。とってもおいしかったです。
 お母さんが、やくそくをおぼえていてくれたのが、とてもうれしかったです。
 また、おとうとやいもうともいっしょに焼き芋をやりたいなとおもいました。













                  ――END
■作者からのメッセージ
中1になって、小さいころのことなんてよく覚えていないので、変な文章になっているかもしれません;
でも、ちょっとでも、子供っぽさ? 幼さ? が、出ていれば嬉しいです。

読んでいただきありがとうございました。
ご感想・アドバイス、お待ちしています。
                 by 夜空

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