五人の青年は戦死した。1 |
作者:
牛乳inゼリー
2008年06月20日(金) 17時49分23秒公開
ID:kejpHuAJ82I
|
日本の戦況は悪化の一途をたどる。負けは見えているといっても過言ではないだろう。 アメリカ、中国、南北朝鮮を敵に回し、日本は第二次太平洋戦争の戦火の中にあった。 北朝鮮との拗れから発展したこの戦争は、朝鮮の戦艦が日本国籍の漁船を銃撃、大破させたことから始まる。(第三好漁丸銃撃事件) 日本は朝鮮に対抗するために、アメリカに協力を要請。日米共同戦同盟の宣言をするが、アメリカが資源を独占し、日本への援助を行わなかったことや、派遣した軍隊が誤って日本軍を攻撃する米軍事件をきっかけに、対立し、日米共同戦同盟は破棄される。 また同時期に、中国が朝鮮側に参戦。その数ヵ月後にアメリカも朝鮮側に参戦し、反日戦線同盟が結ばれた。 日本は徴兵制度を復活させ、15歳以上の男子、そして志願する女子を次々と戦場に送り込んだ。 彼らもこの戦争の犠牲者である。 序 「はあ、この学校に行くのも今日が最後かぁ」 清水聖夜がいつも通りの大声で言った。 一番窓際の席に4人の青年と1人の少女が集まっている。清水聖夜は椅子に座り、ほかの4人はそれを囲むように立っていた。 「光栄なことでしょ。この国のために尽くせる持ち場を与えてもらえるんだから」 青年のうちの一人、メガネをかけた小長谷光流が答えた。いいながら、人差し指でメガネを上げる。 「わかってるよ。でも、名残惜しいなって」 「みんなそうだぜ?」 今度はスポーティな体躯の小野龍丸が答えた。 「あと1年で卒業だったのに、もっと学校生活を楽しみたいのにって」 「ううー……それを言われちゃうとな……」 聖夜がそういって、みんな沈黙した。 暖かい風が吹き込む。自然と溜息が零れた。 「先輩!!」 教室の外で声がした。1年の陣内幸介の声だ。身長が低く幼く見えるが、彼も今日でこの学校を離れる。 「今行くよ」 多少目つきの鋭い、寡黙な芝原将悟が、軽くこちらに手を振って教室を出て行った。 「うぅ……うう……」 光流の彼女の眞鍋美子が泣き出した。 しかし光流は慰めもせずにただ、彼女の頭を強めに叩いた。 「いたっ…」 美子がこちらを見上げる。 光流は言った。 「泣くなら、もう一度ココに帰って来た時にしよう」 帰ってこられるかなんて、わからないけれど。 「大丈夫。帰ってくるさ。そのときは戦争も終わって、この会話もきっと笑い話になってる」 聖夜も言った。 民主主義の今のご時勢、200年前の戦争のように、天皇のために命を落とそうと考える人はいない。いや、その当時も、実際にそのような考えの人がいたかどうかわからない。 しかし、この第二次太平洋戦争で戦地に行くことを拒むものは少なかった。近所の目や 国の武力に対する恐れ、理由は多々あるが、一番の理由は、日本人としての誇りだろう。 みんな信じているのだ。日本が勝つことを。 強制されていないからこそ、人々の思いは膨れ、国に対する愛情が深まる。 青年たちの目に迷いはなかった。 聖夜は、風が吹き込むたびに顔にかかる髪の毛を、うざったいといわんばかりにかきあ げる。 そう、日本はこの戦争に勝つのだ。 ――― 「先輩、戦地に行っても、俺のこと忘れないでください」 幸介は、将悟に向かって振り絞るように言った。男同士だというのにまるで恋人のよう な台詞だが、別に将悟のことを汚濁っているわけではなかった。 幸介は、中学生の頃イジメを受けていた。しかも相当酷いもので、今でも体中に多くの痣が残っている。しかし、中2になったある日、イジメで行かされた夜の体育館で、将悟の練習を目撃したのだ。この中学のバスケといえば、かなり強いことで有名だった。その主将である将悟が、こんな練習をしていることを知ってどこか親近感を感じ心ひかれた。 次の年からバスケ部に入部し、厳しい練習に耐えた。いつの間にか、イジメはなくなっていた。 さらに次の年、将悟と同じ高校を受験し見事に合格した。 ずっと憧れていて、ようやく同じ部活でプレイできるようになったのに、この戦火のせいで、また遠い存在になってしまうのだ。 幸介にとってそれは耐え難い事実だった。 5月といえども温暖化のせいでかなり暑い。教室よりはまだいいが、廊下もかなり暑かった。 ぽむ、将悟は幸介の頭に手を置いた。そしてまるで幼い子供を慰めるかのように撫でる。 「う……」 幸介は、その瞬間口から吐き出しそうになったすべての言葉を飲み込んだ。 目から、口から、溢れる思いを、すべて心に押し込んだ。 将悟は、幸介の頭に置いた手で、幸介の顔をこちらに向かせた。その顔はとても優しく、和やかだ。明日には戦地に向かうなど、到底思えない。 「大丈夫さ」 将悟は静かに口を開いた。 「この戦争が終わればすぐに帰ってくる。そうしたら、また一緒にバスケをしよう。」 そして、こちらに微笑んだ。 「……はい!」 幸介も、目元の滴を落とさぬように、そっと微笑んだ。 ――― 「花火でもやろうか」 六人のケータイに聖夜からのメールが入っていた。この時期に花火なんかあるのだろうか。そう思ったが詮索はやめて、とりあえずみんな、指定された川原に足を運んだ。 あたりは、日が沈みすっかり暗くなっている。 バケツと、去年の花火の残りを持って、聖夜は待っていた。 「これ、もう使えないんじゃない?」 美子が心配そうに口を開いた。しかし聖夜は自信たっぷりに、 「大丈夫、大丈夫。たぶんまだ使えるて」 といった。そしておもむろにバケツに川の水を汲むと、取り出した花火にライターで火をつけた。 噴射する、三色の光。 「うわぁ……」 光流が思わず感嘆の声を上げる。 それを見て、龍丸も花火を取り出して火をつけた。光がまた噴射される。 「きれい……」 幸介も声を上げた。 次々花咲いてはすぐに消える花火に、自分たちを重ねながら、彼らは6人で過ごす最後の夜を楽しんだ。 明日になれば、もう会えなくなる。 まずは、芝原将悟の話。 |
|
■一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集 |