モノ書きの気持ち |
作者:
消しゴム
2008年03月15日(土) 23時37分14秒公開
ID:gSb0P7TAWjM
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僕はそこにある得点ボードを静かに凝視した。 小説の投稿サイトだ。僕はアニメが大好きで、ドラマや映画も好きだった。 でも、生憎絵は上手くない、人を引っ張るような人望も無い、責任感も無い、カリスマ性も無い。 幼い頃見た夢は、早々にしぼんだ。しぼむ、というよりかは、パンパンに膨れ上がった風船を小枝で突き割ったような、急に道が消えた。 創作が好きだった。絵は下手で、でも、好きだった。自分の世界を認めてもらいたかった。 ある時ネットでブログの更新をしていたとき、ブログ友達が偶然、小説を書いているのを見た。 それ自体、別に珍しくなかった。何気なくスクロールして、作者の感想欄を見た。 『私、小説が好きなんです。今は下手だけど、そのうち本を出すのが夢なんですよ』 活字で、確かに聞こえないはずの声が、明るく、柔らかく僕の耳でこだました。 少し、不思議な感覚のまま、さらにスクロールした。 『これを読んで、少しでも私の世界、共感してもらえたら嬉しいな〜』 文字を見て、ここまで心に響いた事はなかった。 自分と同じような人が居るんだ……。世界を、認めてもらいたいんだ。創作にはまだ、この手が残っていた。 気がつけば、感情の嵐が、僕の脳裏を駆け巡っていた。 同じだ。口の中で伝わるはずの無い言葉が、名も知らない彼女に確かに伝わったような気がした。 その日から僕は、悪い頭をフル回転させ、本に読みふけった。 知らない世界、まだ無い世界。作者の思いまで明確には分からなかったけど、読むだけで、気持ちだけがどんどん膨れ上がる。 ――書いて見たい……。 ――自分の腕を、確かめてみたい……。 僕はもう、夢中で書き上げた。そして、暗闇の中、手探りで探すように、このサイトを見つけたんだ。 やはり、迷いはあった。どう思うんだろう、この話。馬鹿にされるだろうか? でも、それでも……。 気がつくと、僕のパソコンの画面は既に送信完了画面へと変わっていた。 暫く、僕は待った。これほどの緊張、久しぶりだった。 今、僕の作ったお話、誰かが読んでるのかな。テストを取り上げられて、友人に見られるような気恥ずかしさ、でもちゃんと送ったという勇気に似た思い。 一日たって、僕はサイトを開いた。 得点は……十点満点中たったの三点。 力作だったんだけどなぁ、何がいけなかったんだろう……? 力の限り、尽くしたつもりだった。 疑念と、予想もせぬ点数に不安も混じらせながら、自分の書いた作品タイトルをクリックした。 感想、と簡素に書かれた場所をクリックすると、その下にコメントが出てくる。 感想というよりかは、酷評の嵐。 『文が下手すぎ、何も伝わってこない』 『もう少し、改善の余地がある。が、あまりに描写が少なすぎる』 『今世紀最大の駄作。一度ちゃんと勉強してから来てください』 分かってた。自分には、才能が無い。それは、ブログを見る前から、知っていた。 自慢じゃないが、勉強も、運動も出来ない。居るんだ、そういう人間は。 何をやってもだめ。勝手に夢を描いては、すぐ途切れる。 泣かない。だって分かってて投稿したんだ。いかにそれは努力した物でも、僕はそれを認めた。 自分には、向いていない。そういう結論のもと、無理やり納得して、僕は布団についた。 最初に投稿した作品が、世界(ネット)に送られて、二週間近くたったころだった。 例のブログ友達が、また更新していた。 『やっぱり、小説は難しいなぁ(汗)けど、やっぱり書くのは楽しい。怒られるのは悲しくて、とても悔しいけど……』 ああ、なんだ。彼女もやはり、得体の知れない彼らにこっぴどくお叱りを受けたんだ。 『でもね、読んでくれてるんだって。そう思ったらなんか、もっと書きたくなったんだ!』 へぇ、そういう考え方、あるんだ。驚き、と言うよりかは半ば馬鹿にした思いで、彼女の文字を追った。 説得力は確かにある。でも、僕はそんなに強くない。 痛いのは嫌だし、辛いのも悲しいのもまっぴらゴメンだった。 戻る、を押して、検索画面で好きなアニメのサイトを開こうとして、なぜか指が止まった。 そして、いつか思った、焦がれるほど魅力的な、お話を思い出した。 そういえば、彼らにコメントを返していなかった。 あのサイトでは、コメントを貰ったらそれを返す、という利用契約があった。 でも、なんて書こう? 感想有難う。馬鹿にするな。読んでくれて有難う。感想どうも。 ありきたりな言葉が、脳裏を掠めた。 気がつくと、自分の小説の、コメント欄を見据えていた。 嫌だった、感想がもっと増えていた。嫌悪感に襲われ、思わず消してしまおうかと思った。 それでも、目は文字を追っていた。意思に反して、念入りに、文字を見ていた。 『面白いと思いますよ、けど、ちょっと雑な気がしますね……』 『こんなのがあると、サイト自体のレベルが下がった気がする』 どれもこれも、辛口な批判的なものが多い。でも、返信しなきゃ。 何を書けばいいんだろう……。戻ろうか、マウスを動かしクリックしようとした時、彼女の言葉が蘇る。 『読んでくれる』 口の中が乾ききっていて、その言葉は上手く出ないけど、その呪文を心のうちで何度も、間を置きながら唱えてみる事にした。 「読んで、くれる、僕の話を……読んで」 口から言葉が零れ落ちる。じんわりと目頭が熱くなった。そして、お礼の文を送った。 『拝啓、ご拝読の皆様。さまざまな感想を、どうも有難うございます』 単語をつなぎ、言葉にする。 『これからは、アドバイスを参考に、日々精進したいです』 どうせいつやるかも分からない、なのにはっきり断言した。 僕はどうしてあんな文を書いたのか分からなかった。ご機嫌取りじゃない。 あれは僕の本心なのか、あの子にただ感化されただけなのか。 ――分からない、でも正しい道だって信じれる。 翌日、僕は投稿サイトを開いた。コメントに文が追加されていた。 少し、驚いたような言い方だった。 『へぇ、てっきり俺は、あんたが言い返すと思っていたよ』 指は、止まらない。確かに、自分でもそう思っていた。でも、違う。 今なら、彼女の力なしで、僕は文を書くことが出来る。 拝啓皆様へ。僕は、皆の世界を知りたいです。僕の世界を皆に知ってほしいです。 独りよがりな面、皆さんに見てもらって、改正が出来る。 とても、頼りになります。最後まで、読んでくれたんだ。こんな批評が来るってことは、途中で嫌気が差してたんですよね。 でも、最後まで読んで、感想をくれてとても嬉しいです。 拝啓皆様。小説って、何の為に書くんでしょう。満足したいから、それとも他人と世界を共有したいから? 僕は……両方です。 |
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