暁の世界 1 |
作者:
カイト
2008年03月12日(水) 22時46分30秒公開
ID:ExoD9QFWKiU
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第1話「出会い」 自らの幸福のために、他人を不幸にする。 人間はどれくらい、その行動を実施してきたのだろう。知って行う者も知らずに行う者もいる。 そして、小さな幸福を手に入れるために、他人に取り返しをつかないほど大きい不幸を渡した人間もいるだろう。間接的か直接的か不幸に遭わせた人間は大半が罪を感じずに平然と生きている。 だが、その行動に罪は無い。人は幸せのために、純粋に忠実に行動していい権利がある。 ここに、1人の青年がいる。 騎士に憧れ、広い世界に飛び出した純粋な青年。彼は何の幸福を得て、誰を不幸にするのだろうか? または誰かを幸福にさせるために、自らを不幸にするのか。彼の行動次第で、大きく結末はかわってくる。 見てみようではないか、彼の冒険を、人生を、行動を。 「おい、この女どうするつもりなんだ?」 賊の1人が相方にむけて言った。無頼漢とも言える男の視線は、担いでいる少女の方にあった。 「雇われ者は黙って届ければいいんだよ、その後の事は俺たちに関係ねぇしな」 「まったくだ」 無頼漢は声を出して豪快に笑った。担がれている少女は目を閉じていて、意識を失っているようだった。ピンクともいえる赤い髪に白いローブを羽織り、小柄な体格のようだ。賊は並んで近くの都市に向かって進んでいる。 その賊2人の背後には、ラグナという男がいた。決して賊の仲間ではなく、むしろ立場は逆の存在だ。ラグナは木で出来た剣を片方の賊に向け振り下ろした。 直撃。間の抜けた声の後、賊はゆっくりと倒れた。目は白く、何かに唖然とした表情だった。もう1人の無頼漢が気づくと、距離をとった。 「ギルドの連中か!? 行動が早すぎるだろ!!」 そんな言葉を出しながら、無頼漢が担いでいた少女を放り投げると、腰にさしていた刀身が曲がった剣を抜く。ラグナもすぐに木剣を構え直した。 様子を見るという選択肢はラグナになかった。無頼漢へ向け素早く突きを繰り出す、がいきなりの攻撃のためかわされてしまった。 そしてかわした体勢のまま、無頼漢はラグナへ剣を振り下ろす。 稲妻のような衝撃が走る。背中をやられたとラグナは瞬時に判断できた。背中に痛みが生じ、苦痛の声が漏れる。無頼漢の振り下ろしは致命傷こそならなかったものの、男の緊張をほぐすのには十分だったようだ。 襲われた時よりも落ち着いて、余裕の表情だ。 「なんだ、ギルドの奴じゃないのか……じゃあ安心だなぁ!!」 そう言うと、無頼漢は再び剣を振り下ろしてきた。安心したのが行動を単調にしたのか、ラグナがよける事は容易であった。回避。 そしてラグナはさっき無頼漢がやった事と同じようによけた体勢の後、木剣を振り下ろした。狙いは頭、的確に当てる事を考える。 「がッ……か」 無頼漢は頭からの衝撃に声を出したあと、震えながら倒れた。ラグナは息を荒くしながら木剣を握りしめていたが、すぐに緊張が解けて座り込んだ。 「よかった。危ないところだった……ッ!」 緊張が解けたと同時に再び背中の苦痛が襲ってくる。ラグナは顔を歪め、体が震えだした。近くの町に行かなければ。ラグナはそう思った。 (あの子は……大丈夫だろうか?) 次に考えたのは少女の事だった。ラグナは倒れていた場所へ視線を向ける。だが、そこには少女など存在しなかった。 「あれ?」 ラグナは疑問の声を出す。状況が理解できない中、いきなり背中の痛みが和らいでいった。痛みが麻痺しているわけではない、その和らぎは優しく、安心できるものだった。 ラグナは後ろを向いた。すると、さっき誘拐されていた少女が後ろに座っている。ラグナは思わず声を上げた。 「うわ! お前」 「静かにして、集中できなくなる」 少女に言葉を遮られ、ラグナは渋々黙る。少女は背中の傷の近くに手を伸ばし、手の周りには光で包まれ、傷が光で見えなかった。 光が消えると同時に、和らぎが消える。そして、服は斬られた後が残っているのに、背中の傷は痕すら残さずに消えていってしまった。痛みもない。 ラグナはとっさの状況に理解できないようだが、少女が顔を近づけて言った。 「助けてもらったお礼ね」 「はぁ、どうも」 ラグナは間の抜けた返事をする。少女は笑顔になると、立ち上がった。とりあえずラグナもつられて立ち上がる。少女は一瞬不思議そうな顔をするが、まじまじとラグナの顔を見た。何か見られると、気持ち悪い…… 「キミ……名前は?」 少女が尋ねてくる。ラグナは答えた。 「俺はラグナ。ラドゥス王国の騎士を目指しているんだ!」 「別に夢まで聞いてはいないけど……」 自然と夢まで出しているラグナに、少女は呆れる。 「私はスローネ。で質問なんだけど……ホントに騎士を目指しているの?」 「ああ、もちろん。今だって騎士登用試験がある場所へ向かっている最中なんだ。へへ、かっこいいだろ」 ラグナは威張るように言った。だがスローネという少女は呆れ顔をさらに呆れさせた。そして、少女は言った。 「嘘じゃないよね? 」 その言葉にラグナは顔をしかめさせた。スローネは続ける。 「騎士っていうのは王国を守るための組織。努力を積んだ人の一握りが選ばれるエリート集団なの」 そこまでならラグナでも知っている事だった。だからこそ騎士になってやろうと決意していたのだ。更にスローネは続けた。 「キミはあの程度の賊に傷を負い辛うじて勝った。その程度の実力じゃ騎士にはなれないと私は思うよ」 「あの程度の賊に誘拐されて、その程度の男に助けられた女の台詞か?」 ラグナは思わず言い返した。スローネは顔を赤くすると、必死に言い訳を並び始めた。 「あ、あれは少し油断しただけで……そう! 別の事に気をとられていたの」 「ふーん」 「あ、信じてないでしょ!」 見ていて滑稽だった。ラグナはそう思いながら、「信じている」と言う。さすがに可哀想になってきたからだ。 「……まぁ言い過ぎちゃったね。ゴメン」 とスローネは謝った。そして、その直後に何かを閃いたような表情を作った。今度は何を言うつもりだ? スローネが口を開いた。 「キミ、『ギルド』に入らない?」 「『ギルド』?」 ラグナは首を傾げる。自分で言うのもなんだが、あまり世界は詳しくなかった。田舎と呼べるような場所で生きてきたからかもしれない。スローネはギルドを知らない事に若干の驚きを見せるが、すぐに再び口を開いた。 「『ギルド』っていうのは、世界各地にある大規模な人助け集団みたいなもの。困った人からくる依頼をこなすのが仕事よ」 「へぇ……『ギルド』」 大規模・世界各地・人助け集団。キーワードが頭の中でぐるぐる回っている。ラグナは今、騎士のなるのとギルドに入るのとで秤をかけていた。 何と弱い意志だ。ラグナは自分でそう思った。 「騎士だって、『ギルド』に入って鍛えてから挑むのも手じゃない? 私はその方が良いと思うし、それに……」 「それに?」 ラグナは尋ねるが、スローネは手も一緒に首を振り、何でもないと答えた。 「そうか。うーん、どうしよっかなー」 そう言いながら、ラグナは腕を組んで考え込むポーズをした。実はもう答えは決まっていたのだが、いきなり考えを変える発言が嫌だった。だから、こんな行動をする。ラグナは決めたような表情を作ると、言った。 「俺、『ギルド』に入るよ」 「決まりね!」 スローネは手をパン! と叩くと、手を伸ばしてきた。 「何だ、この手?」 「握手。これから一緒に活動する仲だしね」 「あれ? お前も入っているのか!?」 ラグナは驚く。スローネは今さらといった顔を出した後、笑顔を見せた。 「よろしく頼むぜ、スローネ!」 「こちらこそ、よろしくねラグナ」 ラグナも手を伸ばし、互いに相手の手を握る。それと同時に、強い風が2人を通り抜けた。 〜こうして始まる。悲しみと憎悪によって組み合わさる、希望の物語が〜 |
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