暗黒物語〜黒兎〜
作者: カロカロ   2008年01月14日(月) 02時58分16秒公開   ID:H/wjZ/WVp3A
昔々、ある所に真っ黒なウサギがいました。

真っ黒なウサギはとっても人見知りのウサギで、森には友達が数人いる程度でした。

でも、ウサギは幸せでした。

何故なら、例え数人でも自分の周りに心から安心できる存在がいたからです。



ウサギの友達はカエルや鳥、はたまたコウモリまで個性豊かです。

しかし、彼らは皆ウサギの優しさに引かれていて、皆仲良くしていました。

そんなある日です。

森に、他の森から一匹の狐が迷いこみました。

森の動物達は皆、よそ者の狐を無視したり、嘘をついたりしてイジメました。

もう狐が心も身体もボロボロになってヨタヨタと歩いていると、木でできた家を見つけました。

表札には、こう書かれています。



『優しい白兎の家』



狐はワラにもすがる思いで、家の扉を叩きます。

「ああ、心優しく白いウサギさん、白いウサギさん。 どうかこの扉を開けてはくれないだろうか? 私はもう心も身体もヘトヘトだ。 一時でいい、どうか中で休ませておくれ」

すると、中からウサギが答えます。

「それは無理だよ狐さん。 もし開けたら、きっと僕は死んでしまう。 君に悪気がなくても、きっと僕は死んでしまう」

狐は、それでも扉を叩きます。

「ウサギさん、ウサギさん。 決して君を傷つけない。 決して君に嫌な思いはさせない。 だからどうか扉を開けておくれ」



しばらくして、ウサギは溜息をつき扉を開けました。

喜びながら狐が家に入ると、待っていたのは白ではなく、黒いウサギでした。

狐は、軽い気持ちでウサギに聞きます。

「ウサギさん、ウサギさん。 どうして貴方は黒いのですか? 心優しい白いウサギさんではないのですか?」



ウサギは、狐に温かい飲み物をあげるといいました。

「ああ、僕は白いウサギさ。 でも、もう白ではないし、優しくもできないんだ」

「でもウサギさん、貴方は私を中にいれてくれたではありませんか。 それなのに優しくないのですか?」

と、、不意に狐のお中がグ〜となりました。 無理もありません。 狐は今朝から何も食べてないのです。

それに気付くと、ウサギは困ったように家の中を見回します。



「ああ、どうしよう。 君はお腹を空かしているのに、家にはパンもないしチョコもない。 昨日、友達のカエルさんが困っていたから全部あげちゃったんだ」

「そんなのいりません。 私はこのスープで充分ですよ」

「いいえ、ダメです。 それに貴方は寒そうだ。 でも、温かいコートも何もかも、鳥さんにあげちゃったからないんだ。 なんとか貴方を喜ばせたいんだけど…」

「今のままでも充分ですよ、ウサギさん」



しかし、ウサギは聞きません。黒い身体を揺らしながら家の中を探し回ります。

狐は困った顔をして見ていると、ある事に気付きました。

ウサギの通った後に、赤い染みができていたのです。

「ウサギさんウサギさん。 その染みはなんですか?」

「ああ、これは昨日お腹の空いたコウモリさんに血をあげたんだ。 でも困った事にそれから血が止まらなくて…」

「えっ?」



狐がよく理解できずにいると、 ウサギは思いついたかのように言いました。

「そうだ! まだ僕にはたった一つだけ君に優しくできる事があったんだ。 コレなら、君はお腹も空かないし寒くない!」

「えっと、あの……」

「待ってて、今すぐできるから」

「あ、はい」

狐が頷くとウサギはニッコリと笑って、自分の爪で腹を裂きました。

たちまちウサギの足元は血の海です。

でも、ウサギは満足そうにいいました。

「僕が死ねば、君は僕の肉でお腹が膨れる。 そして、食べ終わったあとの毛皮で温かいコートができる。 いい考えでしょ?」

「う、うぁああああぁあ!!」

「なんで怖がるの? さっきは頷いてくれたじゃないか。 ここまできてそれは無しだよ。 ほら、食べてよ。 ねえ……」



暗い暗い森の奥。 暗い暗い優しさ。

これを異常というか、過剰というか、はたまた狂気というかは貴方次第。

昔々の事だから……。



■作者からのメッセージ
短編を書いてみました。
今回は童話のように書いてみようと思い、意識して書いたのですが……。
きっと所々ダメな部分があると思います。
それでも評価していただけたら幸いです。

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