Treasonable Children -ep1- |
作者:
世界の住民
2007年08月21日(火) 01時12分09秒公開
ID:zq0.ZFLG29I
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「ほら! 行くわよみんな! 急いで!」 彼女の、リーダーの掛け声で、俺らはついに誰も入ることが許されなかった「」の内部に足を踏み入れた―― 物語の舞台は、都内有数の進学校、せいが丘高校である。この学校には、それはそれは大きな「陰謀」がうずまいていて―― 「絶対におかしいわよ! 生徒会は狂ってるわ!」 昼休み、誰もが静かに、のんびりと過ごしたいこの時間に一人、めちゃくちゃやかましい奴がいる。 「ねえ、明仁はどう思う?」 俺はテキトーに「そう思う」と答えた。こち亀を読みながら、である。答えた直後、俺の額に何かが飛んでくる……赤い旗だ。 「な、何すんだよ! 陽子!」 俺がこち亀を落とすと、陽子はすばやくそれを拾い上げた。 「これ、没収だから。人民議会終了のち、返します」 おいおい、これだからこの女は困る……俺を無理やり連れ出してこの空き教室に引きずりこんだだけじゃないか、全く。 白百合 陽子はまるでお嬢様のようないでたちだ。髪型はポニーテール、しかも高級な髪飾りをつけている。鼻が高く、目が大きい。その美貌から男子からは人気らしいが…… 俺だったらこんな女、ごめんだね。 「……何ボーっとしてるんだよ! 明仁!」 後ろを振り向くと、そこには髪を逆立て、学ランのボタンを全部開けた男、コイツの名は、高宮 行彦である。 「陽子ちゃ〜ん、どうだい、革命運動は進んでるかい?」 行彦が陽子に話しかける。少し笑いながら「もちろんよ」と陽子は答えた。行彦は俺が陽子にこの会合のメンバーにされるさい、面白そうだとついてきた奴だ。元々、中学のころからクラスが一緒だったわけだから仲良くなるのに時間はかからなかった。 「……ごめん、遅くなったようだね」 俺らが話している中、またもう一人の生徒が入ってきた。メガネをかけ整った髪にきちんと着ている制服、優等生を絵に描いたような奴だ。 「遅えぞ! 祐樹!」 行彦は祐樹の肩に手を回す。祐樹は少しニヤリとしたあとすばやく振りほどいた。 「やれやれ、行彦。お前肩をまわす癖、やめといたほうがいいと思うよ。女子に嫌われるって、絶対」 川瀬祐樹は行彦と中学時代、塾とクラスが一緒でなぜか親友同士である。俺も行彦つながりで祐樹と仲がよくなった。こいつも、やはり俺が陽子に連行されているのを見て面白そうだと言ってここに来た。 「全員そろったわね! じゃあ倉林! 号令をかけて」 倉林……俺の苗字だ。陽子には昔から「苗字で呼ぶな」と言ってあるのにな。 「起立! これより……えっと、人民……最高、なんだっけ?」 俺の額に赤旗が飛んできた。本日二発目。 「あなた、記憶力あんの? いい? 人民最高連邦会議よ!」 ――もう何だっていいだろう! 「今日の議題は、生徒会についてです!」 陽子が高らかに宣言する。そして、俺ら三人にプリントを渡した。 そこにはこう書かれている。 ”我らが暴く! 生徒会の秘密!”がタイトルである。 「生徒会の秘密……この学校、生徒会謎多いもんな」 これは俺だ。確かに、生徒会には謎が多い。教師、校長、PTAとのつながりが噂されている。しかし、一切の情報はシャットアウトされていて、会長、副会長、書記、会計、生徒監視役で構成される役員たちは、堅く口を閉ざしたままだ。 「……こいつらさ、授業以外、クラスにいることほとんどねえもんな」 行彦が言った。陽子のプリントの役員リストを見ると、クラスで目立たない奴ばかりである。 「あいつらこそ、私たちの敵なのよ! 絶対、暴いてやるんだから!」 髪を払って、高々と陽子が宣言する。 あの宣言で一度、会合……じゃない、最高なんとか会議を中断された。続きは放課後にやることに決まった。 「あ〜 たるい」 思わず声が出てしまうほどに、授業は退屈である。俺はふと、斜め前の席に座る女子生徒、上原優を見る。おとなしく、あまり目立たない印象だが、陽子のリストだと書記だそうだ。 (……ありえないだろ、こんな女子が……) さて、授業が終わり、俺は例の最高何とか会議場へ向かう。俺の教室からは相当遠いというところがまた嫌なんだよなあ…… 十分かけて会議場に着いた。まず、俺はポケットから「同志証人手帳」なるものを扉の前で取り出す。 「おい、陽子いるかあ?」 しばらくして、中から陽子が出てきた。相変わらずの美貌だ、と言いたいのだが…… 「はい、手帳見せてね」 なんでわざわざこんなもん見せなきゃいけないんだ? 真っ赤な手帳で本当に恥ずかしいんですけど。 「はい、倉林同志と認めます。中へどうぞ」 陽子が手まねきする。ため息をついて入ると既に二人ともそろっていた。 「遅かったじゃないか、明仁」 「遅えよ、さぼったのかと思ったぞ」 さぼれたら、さぼってるよ、と心の中でつぶやきながら椅子に座った。 「はい! 全員そろったみたいだから、始めるわよ!」 陽子の号令とともに、俺らは起立、礼をして座る。俺はすぐさま、隠し持っていたゲームをこっそりやり始めた。 「議題は……昼間話した、生徒会の秘密のことよ、ね? 明仁君?」 突然俺の名前が呼ばれてはっと、上を向く。俺の視線の先には不気味に微笑む陽子がいた。しかも、なぜか片手に赤旗が…… 次に瞬間、赤旗が飛んできた。俺は額命中を覚悟したが、奴の狙いは俺の……ゲームだった。 バキッと音がする。俺が目を開けると、俺のPSPが完全にいかれていた。 「よ、陽子! 何すんだよ!」 「会議にそんなもの、持ち込むからでしょ?」 陽子が少し微笑む。その笑顔は美しい。表面上は。 壊れたPSPをしまう。そして俺はひとつため息をして、陽子の戯言を聞くことにする。他の二人の様子を見ると、祐樹は真剣に聞き入っている様子(昔からこういうの好きな奴だった)で、行彦は足を机にのせ、ニヤニヤしながら陽子のほうを見ている。まあ、陽子を滑稽な奴、としか見ていないんだろうが。 「まあ、おバカさんはほっといて、お話を続けるわよ。私が調べたところ、生徒会の役員は週に一回、必ず役員会を開くのよ。別名、「アンタッチャブル」は絶対に他の生徒には知られてない場所でね」 おバカさんはどっちだ! と言おうとした瞬間、祐樹が手を上げた。 「議長、よろしいかな?」 「どうぞ」 祐樹が立ち上がり、自らのメモを読みながら話し始めた。 「……まず、役員たちが会合としている場所ですが、僕の調べだと、不特定なようです。つまり、毎週、会議場所を変えているんですよ」 ここで行彦が口を出した。 「じゃあ、どうすんだよ? わかんねえじゃん」 突然、陽子が立ち上がった。赤旗を持ちながら。 「……革命にはいかなる手段も使うのよ。そう、役員会が開かれるのは明日! その日、一日中、役員をマークするのよ! いいわね?」 つまり、こういうことだ。 役員を一日中、見張る。そして放課後、連中の後を追って会議場所を探す、というわけだ。まあ、原始的すぎるような気がするが。 「……異議はない? ないわね? じゃ、次よ、祐樹、他に調べたことは?」 祐樹が立ち上がる。またしてもメモを取り出した。 「はい、議長。生徒会の決算報告書を入手しました。みんなにも配るからまわして」 俺と行彦、そして陽子に一枚の紙が配られる。その紙には、たくさんの項目と数字が並べられている。部会費、旅行費、会費……さまざまだ。 しばらく眺めていると、俺は異変に気がつく。 「おい、祐樹。この「支出報告」の部分……なんだこの「役員支出」って」 「そう、その通りなんだよ、明仁」 祐樹は机を思いっきりたたきつけた。行彦は思わずのけぞる。陽子でさえも、びくっとする。 「この役員支出は明らかにいらない! つまり、こいつらもしかしたら……」 「金を失敬している、ってわけか。それに支出額のほとんどはこいつだ」 行彦が笑みを浮かべながら言った。実は行彦、学校トップの成績なのだ。まあ、俺ほどではないけどな。 その後も、この役員支出が何なのか、議論が続いた。どこで手にいれたのかを祐樹に聞くと、先生にもらったそうだ。資料が信用できるかどうか疑問だけどな。 「おそらく、役員は何か先生や学校法人から何か仕事を任されているのでは?」という祐樹説と、「役員が欲望を満たしているだけ」という俺の説が最後まで生き残った。いずれにせよ許されるべきではない、と陽子は熱く語った。 「生徒会役員の立場を乱用する、極めて悪質だわ! 我々人民の金をむさぼって何が楽しいのかしら! 人民最高連邦会議は絶対に……」 「あのさあ」 行彦が熱弁中、口を挟んだ。なんて恐ろしいことを…… 「何よ」 「その、人民何とか会議ってやめない? かっこわるいっつうか、痛いっつうかさ」 陽子の表情がおそろしい形相に変わっていく。だが、俺も賛同を表明する。 「そうそ、ダセエし、痛々しいし、何より、バカな団体だと思われるしな」 この発言の瞬間、陽子はキッと俺のほうをにらむ。そして赤い旗を三個、俺に投げつけてきた。 「うわ! やめろ!」 陽子は涙目でこっちを見る。やがて、そのままこの空き教室を抜けて走り去った。 祐樹はやれやれ、とため息をつくと資料を片付け始めた。行彦はあくびをした後、伸びをして、鞄から漫画を取り出す。俺はボーっとしたまま動かない。 「あ〜あ、泣かしちゃった」 行彦があきれたように言う。 とりあえず、会合は一時中断、ということになった。陽子が泣き出すことはあまりめずらしくない。だいたいの原因だが。 三人で誰もいない廊下を歩く。もう夕方になっている。教師もほとんど見ない。 その途中、祐樹が立ち止まった。 「どうした?」 俺が聞くと、祐樹がしーっと静かにしろ、という合図を送る。 「……話し声がする。だれだ?」 確かに、何か聞こえる。行彦もうなずく。気づいているようだ。 足音を立てないようにその声のほうに向かう。緊張してか、手に汗がにじむ。 その時、誰かの影がこちらに歩いてくるのが見えた。 「……あれ、誰だ?」 行彦がひそひそ声で聞く。 「し、知らねえよ」 誰かが近づいてくる。俺らも歩く。どんどん俺らの距離は縮まっていく…… 「あ、お前は!」 最初に気づいたのは俺だった。その顔には見覚えがあったからだ。 「……こ、こんにちは」 正体は、うちのクラスの上原優だった。なあんだ、という感じである。 「あれ、なんでこんな時間までいんの?」 俺が聞くと、上原は下を向いた。 「いや、その……図書室で借り物を……」 言い終わった後、上原は走り去っていった―― 別にどおってことなかったわけだ。陽子とでも顔を合わせたらどうしようか、と思っていたが…… 「やれやれ、陽子じゃなくて良かったよ」 「いや……どうやらそうでもなさそうだ」 祐樹が笑みを浮かべる。どういうこと? と聞いてみる。 「あいつ、生徒会の書記だったよね?」 「ああ、そういえばそうだったな。でもそれがどうかしたか?」 俺が言うと、祐樹はあきれた顔で言う。 「そんな奴がこんな時間にうろうろしているなんて、あやしくないか?」 でも、と俺は反論した。 「図書室に行ってたんだろ?」 いや、それはない、と行彦が口を出す。 「今日は図書室は開いてないんだよ。さっき、雑誌借りに行こうとしたら閉まってた」 廊下は静まりかえっている。さっきの話し声はなんだったのか? 今、聞こえてこないのは何故なのか? そういえば、上原は鞄も持っていないのに教室とは違う方向に向かった。 祐樹はくるりと振る向いた。 「……この先ってさ、確か社会科教室があるよな?」 行彦がああ、とうなずく。 「確かあそこはなぜか放課後、生徒は入れないとか言うな……」 「でも、あっちから確かに声がしたぞ」 これは俺だ。 「よし、なら行ってみようじゃないか」 向こうを少し見てから、祐樹は俺と行彦に静かに告げた。 ――be continued―― |
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