We can fly in the sky(邦題:空も飛べるはず) | |
作者:
世界の住民
2007年08月15日(水) 19時35分30秒公開
ID:RQEbdimm8QA
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――それは、一目惚れだった―― 俺が彼女に一目惚れしたのは、屋上のフェンスを乗り越えて立ち尽くしている彼女を見たときであった。それまでは、本当に存在を知らなかったほどだ。 都会の中堅高校に通う俺にとって、この出来事はかなりの驚きであった。今から記す物語は、平凡で全てが何気なく終わるだろうと思っていた高校生のストーリーである。 暇である……ただそれだけの理由だ。それ以外は何もいらなかった。 昼休みに皆と戯れたあと、とりあえず5時間目の授業はサボることにした。何度も言うようだが暇だったからだ。真面目な連中からは、授業あるのに暇ということはないだろう! とお叱りの声もきそうだが。 さて、どこでサボろうか……とりあえず中庭にしようと思うのだがそれでは三年の教室からでは時間がかかる。ではどうする……とその時、 「お前、授業サボんの?」 我が友が声をかけてきた。しかも核心をついた内容に一瞬とまどう。 「ま、まあな。つまんねえし、暇じゃね?」 友人は少し笑みを浮かべる。そして、「わかった。協力する」と言って席に戻った。俺はというと、すぐに教室を抜け出した。目指すは……屋上だ! 何故屋上を目指したかはわからない。娯楽はないし、風が冷たくて寒いし、特にメリットを感じられるような場所ではない。ただ、三年生の教室からは近い、ということと、先生にばれないように、かつ、迅速にいける場所は屋上しかないのだ。 階段を駆け上がる。早く走ると結構疲れるものだな、と実感する。帰宅部なので運動はあまりやらないからな。 ゼエゼエと息を荒くしながら屋上の扉にたどりつく。途中、一度転んだのでついた掌がヒリヒリする。……まあ、いい。 そして、大きな扉を開く。 ――そこには、まぶしい太陽と緑のフェンス、陸上で使うトラック、そして校旗があった。そして、肌につめたい風が当たる。 とりあえず、歩き出す。誰もいないことを確認してまず左側を歩くことにした。しばらく歩いていると……そこには…… 一人の女子生徒がフェンスを越えているのが見えた……長い髪をなびかせ、フェンスの向こう側に登っている。 (おいおい、マジかよ) おそらく、いや、確実に死ぬつもりだろう。とりあえず走って後を追いかける。だが、努力空しく、既にフェンスの向こう側に彼女はいた。もう、降り始めている。 俺が、その場所にたどり着いたとき、女子生徒はすでにフェンスの向こう側に立っていた。後ろ姿しかわからないが、黒く長い髪が特徴的だった。 「あ、あの〜」 俺の声に気づいたのか彼女はこちらをすぐに振り向いた。その瞬間、俺は―― 「どうして、ここにいるの?」 きりっとした、それでいて大きな瞳に見つめられると何も言えなくなってしまう。その顔はとても端整な顔立ちで人形のようだった。 「いや、サボろうとしただけなんだ」 「そう」 彼女は一言、そう返事した。靴の色から、彼女は三年生であることがわかった。 「私、もう死ぬから」 はっきりと、俺にそう宣言する。そのあと、そっぽを向いた。ここで、はい、そうですかはいくらなんでもまずい。説得してみるか。 「どうして、死にたいんだよ?」 とりあえず、自殺の理由を聞いてみることにする。いきなり「やめろよ!」だとかえって衝動をあおるだけだと、何かの本で読んだ記憶があったからだ。 「あなたには関係ないでしょ」 やはり一言で切られてしまった。せめて二文はしゃべろうぜ、句点一個は悲しすぎるだろう? こっちが。 「そういえば、名前なんていうの? クラスは?」 場を和ませよう、それからが説得の勝負だ! ……何かの本に書いてあった気が。すると彼女はこちらを再び振り向き無表情のままで言う。 「名前が知りたければ、まず、そちらから名乗るものでしょ?」 俺ですか? ま、そんなにとくな情報でもないと思うがなあ。 「大崎英明、クラスはC。これでいい?」 「本当に名乗るんだ」 少し彼女は笑う。バカにされたようだがこれで説得できるのではないだろうか。 突然、ホテルの従業員がやるようにスカートあたりに手を組んでお辞儀をした。 「南山優華です。よろしくお願いします」 そして顔を上げた瞬間、また笑った。 「それで、どうして死にたいんだよ?」 優華に再び聞く。おかしな自己紹介からしばらくの沈黙を経て、だ。俺としては彼女を救いたいと思っている。なんせ「一目惚れ」した相手だ。 だが、彼女はまた黙り込んでしまった。 「何でもいいけどさ、死んだら終わりなんだぜ。全部」 俺のこの一言に優華はにらみながら言い返す。 「何も知らない人間に言われたくありません」 お前が教えてくれないからだろう、と突っ込みたくもなったがここはこらえなくてはならない。これもどこかの本で読んだ気が…… 俺はかなり短気だ。実は、俺は一年のときは部活に入っていたのだ。だが、先輩のなめた態度に怒ってしまい、ボコボコにしてしまった。そのせいで退部になった。 そんな俺だが、ここは耐えるのだ。 「まあまあ、なら教えてくれよ、理由をさ」 優華はそっぽを向いてしまった。やがて、言葉が返ってくる。 「だってさ、君には関係ないでしょ? ならいいじゃない、私が死んだって、別に」 この言葉に、俺の何かが切れた。 「ああ、そうかい。わかったよ、死んじまえよ!」 彼女はまたこちらを振り向いた。今度は少し悲しそうな目で。 「ねえ、空を飛んでみたいと思ったことある?」 「は?」 なかなかおかしなことを言う女だなあ。でもあの目でそれを言われると黙っているわけにも行かないだろう。 「……まあ、時々そんなことを思うけどな」 「私さ、ずっと飛んでみたかったんだよ。空をね。でも案外難しくてさ」 何を言ってるのか、よくわからない……なんてことあるわけないだろう! こいつ、本当に死ぬ気なのだ。 「実際、空飛べたら怖いだろ? だからやめとけ、そういうことは……」 俺が言い終わる前に、彼女は俺から目をそらし、天を仰いだ。やがて、何かぼそぼそ歌っている。 「……君と出会った奇跡がこの胸にあふれてる……きっと今は、自由に……」 こんな状況でスピッツなんか歌うなよ。自殺寸前の奴が歌う歌じゃないぞ。 「ていうか、スピッツ歌ってないでこっち向け!」 優華は再びこっちを見た。その目には涙が……俺は一瞬何も言えなくなってしまった。 「もう嫌なんだよ、こんなの。だから、空を飛ぶの。それで遠くの国に行くの」 ここで、俺は考える。とりあえず、どこかで読んだことのある本のことを思い出してみる。でも、無理だ。空を飛ぶの、なんて言われて対処法があるだろうか? 「なら俺も一緒にその国へ行ってやるよ」 もうわけがわからなくなっていた俺は、自分でもよくわからないことを言い始めた。 俺はフェンスを上り始める。彼女はというとボーっと俺のほうを見ている。高所恐怖症の俺だが、このときは気にならなかった。 そして、フェンスを乗り越え、ゆっくり下っていく。下には一目惚れした彼女がいる。そう、俺は何としても彼女を守り抜くのだ。必ずな! それから、俺は優華の隣に下りる。しばらく二人とも無言だった。 「ねえ、本当に私と来てくれるの?」 「ああ」 まずはっきりさせておこう。俺は優華に一目惚れした。学年が同じだが、クラスが違うので、会ったこともないし話したこともない。だから一目惚れでいいのだろう。これが、彼女を助けたい理由だ。 「どうしてこんな変な女にかまうの? ほっとけばいいじゃない」 「人が自殺しそうな時、ほっとくバカがいるか?」 彼女はこちらを向いた。もはやほとんど二人の間に距離がない。心拍数は無論、上がってきた。 「……やさしいんだね。大崎君って。君が恋人だったら良かったのに」 「そいつはどうも」 この台詞から、だんだんと自殺の真意が見え始めてきた。一応俺の仮説が正しいかどうか確認してみる。 「俺が恋人ってさ、他にもいるのかよ、恋人」 少し間をおいて、優華は話し始めた。不思議と涙はなく、笑顔だった。 「うん、いた、よ。ついさっきまでね。でも二股みたいでさ、さっき振られちゃった」 どうやら、失恋が原因という俺の仮説は正しいようだ。 「それにね、恋人に理由を聞こうとしたら、死ねって言われたんだ」 だから死ぬのか? それはあまりにも悲しすぎないか? とりあえず、優華の手を握ってみる。生温かい感触がした。 「お前、そんなでいいのかよ」 手を握る強さ少し強くなる。俺は続けた。 「その恋人は最低な奴だ。誰もがそう思ってくれるさ。お前が死んだら、お前の負けなんだぜ。そんなの悔しいだろう?」 優華は黙ったまま、俺の話を聞いている。目から涙があふれている。 「……私だって、嫌だよ、でも、もう行くしかないんだよ。遠くへ」 とりあえず手を離した。ここからは本などどうでもいい。俺流でいく。 「じゃあさ、俺から先にいくから」 そう言うと、俺は走り幅飛びのように手を伸ばしぶんぶん縦にふる。すると優華は少しビクっとした。 「え、君も飛ぶつもりなの?」 俺は笑う。 「当たり前だろ。じゃなきゃ、こっち来た意味ないだろ?」 仕方ないのだよ、もう。 俺が飛び降りれば、おそらく彼女は下を見るだろう。そして俺の姿を見て絶叫するはずだ。そうすれば怖くなって逃げ出す。これで救えるというわけだ。それほどまでに、俺は優華を救いたいと思った。このときは。 「じゃあな、先に待ってるぜ!」 俺は勢いよく飛び出した。さらば、my life! ――でも、待てよ? 何か大切なことを忘れていないか? 俺はあくまでも彼女が恐怖心のあまり逃げる、という前提のもとに行動したわけだ。もしそうじゃなかったらどうする? 結局飛んでしまったら、俺、犬死じゃないのか? 俺は急いで体の向きを変えた。幸い、高く飛んだだけで前に進んだわけじゃなかったので、なんとか屋上につかまることは出来た。 だが、危険な状況は変わらない。今、俺は屋上の縁につかまり、手を放したらまっさかさまだった。 「た、助けてくれ! 怖い! 頼む!」 さっきまでの勇気はどうしたのか、とにかく怖い。多分、小便たらしてる。 優華は呆然としている。俺は助けを求める。 「は、早く掴んでくれ、手が……」 優華ははっとして、俺の手を掴んだ。 「ひ、引っ張ってくれ、早く!」 そのとき、強い風が吹いた。少しぐらつく。俺はがたがた震えながら引っ張られる力を利用して上った。 冷たい風が吹く。汗まみれのシャツがひんやり冷たい。 「何で、何であんなことしたのよ!」 優華がグーで俺の肩をたたく。俺はその手を掴んで言った。 「は? お前がやろうとしたことをやったまでだけどな」 そう言うと、彼女は黙ってしまった。俺は少し笑う。 「ま、いいじゃないか。もう空を飛びたいなんて思わないだろ?」 気がつくと夕方になっていた。もう学校は終わっているのだろう。俺と優華は同じ位置にずっといる。座りながら、二人で夕日をながめていた。 「まあ、人生山あり谷さ。いいことあるって。そのうちいい彼氏だって見つかるさ」 「うん、いい彼氏見つかったよ」 「え? 誰だよ?」 優華は微笑んでこちらを向いた。そして唇の人差し指を持ってきて 「内緒だよ! 君にはね!」 ――やれやれ、可愛い女だな。本当に 彼女はまた、あの歌を口ずさんでいる。俺も一緒に歌っていた。 ――君と出会った奇跡が、この胸にあふれてる。きっと今は自由に―― そう、きっと俺たちは、優華と俺は、自由に ――空も飛べるはずなんだ―― Written and Produced by 世界の住民 special thanks 草野正宗(SPITZ) BONUS TRACK「坊ちゃまの死」 「ぎゃははっははっははっはは! 僕様は世界で一番偉いんだぞ! 偉いんだぞ!」 執事の私が言うのもなんではございますが、坊ちゃまは頭がおかしくなられている。そのせいで私もなんども危険な目にあってきたのです。 この日、坊ちゃまは私に銃をよこせ、と命令されました。私は拒否したのですがそれもかないませんでした。 坊ちゃまは何とこんなことを言われたのです。 「僕様、誰か打ってみたい」 なんということ、こんな猟奇的殺人鬼が言うような言葉が坊ちゃまから聞くことになるとはじいやは悲しゅうございます。しかし今日は奥様もだんな様も仕事で…… 「じいや! あそこに薄汚いガキがいるよ! 打っていいよね!」 そう申されましても、私からはい、ということは出来ないのでございまして…… 「もういい! 打ってやるよ! それ!」 なんと本当に市民に向かって打たれたのです。市民の子の肩に弾丸が命中。苦しそうにもだえています。すると、坊ちゃまは ⇒To Be Continued... |
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