ワンちゃんは犬神さま?!第一章 前編
作者: イナエ ノマ   2007年05月06日(日) 16時24分01秒公開   ID:Zy4aK5meajg
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 登場人物の読み紹介………

 浅木 紗亜乃 あさき さあの

 西野 葵   にしの あおい

 西園寺 麗莱 さいおんじ れいら

 赤城 栞   あかぎ しおり

 銀雷     ぎんらい

 姫呼     ひめこ

 七緒     ななお

 龍癒     りゅうゆ

 水劉     すいりゅう

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 第一章 不思議な転校生 (前編)


「いってきま〜す!」
 朝、私の気分はいつも晴れやかだった。どうしてか、って?
 決まってるじゃない、あの犬たちから解放される唯一のひとときなんだもん。だって、私の家の犬たちは何?大食らいでいつも蹴りかかってくる♂(銀雷)と、エロ本大好き、スケベ大魔王の、同じく♂(七緒)と、すぐ寝るおやすみ3秒君のまたまた同じく♂(龍癒)がいるのよ?・・・あ、後の2匹?
 ふわふわしてて、お上品な唯一の♀犬の姫呼ちゃんと、ちっちゃくて大人しくて可愛らしい♂子犬の水劉ちゃん。
 ……この2匹はOKなの。良い子だし。
「さーあーのっ。迎えに来たよー」
 向こうの方から女の子が2人手を振りながらやって来る。……葵ちゃんと麗莱ちゃんだ。
「どうしたの?いつもより疲れてるみたいに見えるけど…紗亜乃ちゃん、大丈夫?」
 にこにこ微笑みながら、麗莱ちゃんが心配そうに尋ねてくる。……多分昨日、銀雷に蹴られまくったから、かな。
「……い、いろいろあってね」
「具合が悪くなったりしたら無理しないで言いなよ、紗亜乃」
「ありがとう、葵ちゃん麗莱ちゃん」
 ……でも、もしそうなっても、家にはぎりぎりまで帰りたくないよ。
「……あれ?」
 ふっと、なにか冷たいものが横切っていったように感じた。
(ホントに風邪ひいたかなぁ?)
「ん、紗亜乃?どうかした?」
 ふと立ち止まってしまった私に、葵ちゃんが尋ねてくる。
「う、ううん。何でもない」
 葵ちゃんはそう?とだけ返し、また歩き出す。
 別にその後は何も問題なく、私たちは通学路を歩いていった。

 私たちの通う『第二皐月小学校』は、かなり古い学校だ。田舎にあるせいもあるけれど、人数も30名ほどとかなり少ない。
 私のクラスは2階にある6−A。(A組といってもB組以降はないけど。)6年生は全部で、7人。人数が少ないだけにみんなやっぱり仲がいい。そんな小さな小学校の教室に今日は朝からいきなり凄いニュースが飛び込んできた。
「おい、浅木、聞いたか?ウチのクラスに転校生が来るんだとよ」
「転校生?転校生ってあの転校生?」
 白井という男子が嬉しそうに話しかけてくる。
 私は、こんな田舎の小さな学校に転校生が来るなんて 信じられなくて思わず白井に聞き返した。
「他にどんな『転校生』がいるんだよ」
「ほんとに?やったあ!!」
 その時、ガラガラっと扉が開き先生が入ってきた。担任の工藤 弘先生だ。
「今日はみんなに一つ良いお知らせがあるぞ」
 先生も嬉しいのか楽しげに話をしている。私は、みんな知ってるよ、と思いつつもやっぱりわくわくしていた。
 先生は、扉を開けて廊下へと出て行った。多分、その転校生に教室に入るように促しているんだと思う。
 そして先生と一緒に入ってきたのは、私よりも少し背の低そうな綺麗な顔立ちの女の子だった。
「赤城 栞です。これからよろしくお願いします」
 少女はにこっと笑い、頭を下げた。……でも、とても可愛い子なんだけど、何となく私は嫌な感じがした。
 白井や、他の男子はヒソヒソと何やら話していたが、葵ちゃんや麗莱ちゃんは真顔で自己紹介を聞いている。
「どうせだから、みんなも自己紹介しようか」
 笑顔で先生が言う。
「じゃあ、はじめに西園寺さん」
 はい、と言って、麗莱ちゃんが立ち上がった。
「私の名前は西園寺 麗莱です。フルートを習っています。間由良さん、よろしくお願いしますね」
 麗莱ちゃんの自己紹介が終わると、ぱちぱちとやる気のない拍手が起こる。
 その後も自己紹介が続き、最後に私の番が来た。
「次、浅木さん」
「は、はい」
 私は椅子をガタンと鳴らして、立ち上がった。
「浅木 紗亜乃です。家は神社で、ここから少し行った丘の上にあります。仲良くしてください」
 ……一応簡潔に、失礼のないように言ったつもりだった。が、
「………ッ」
 それを聞いた栞ちゃんは、一瞬、ハッとした表情になった。
(私、何か変なこと言った?)
「はい、みんな早く仲良くなって下さいね。
 それじゃあ赤城さんは……お、浅木さんの隣が空いてるな。それじゃあそこに座ってもらおうか」
 先生はいつも以上ににこにこして口早にそう言う。そして、えーと…と言いつつ私たちを見回した。
「よし、白井君。用具室から机を運ぶのを手伝ってくれ。それ以外の人は自由にしていていいぞー。あ、でも教室からは出たらダメだぞ」
 先生に言われ、白井はしぶしぶ教室から出ていった。きっと栞ちゃんと一番に話したかったんだと思う。
 ……栞ちゃん、私の隣なのかぁ。どうせなら白井の隣にしてあげればいいのに。
 何か、何かおかしな感じがするんだよなぁ…他の人と、何かが違う感じが。
「……浅木さん、ですよね?」
「は、はいぃッ!!」
 急に話しかけられたことに驚いて思わず声が裏返った。
(あ、栞ちゃんか……)
 なぜか、背中がゾクゾクする。
「浅木さんの家って、まわりに大きな杉の木が何本も生えてたりする?」
「え……?」
 なぜ、急にそんなことを話し始めたのかわからず、一瞬言葉に詰まってしまった。
「あ……ごめんなさい。急にこんなこと聞いちゃって。困っちゃったよね?」
「ううん、そんなことないよ」
 私はそう返したけど、まあ、確かに困った。
 …昔、家には杉の木が沢山あったって話はお父さんから聞いたことがある。けど、今は神社のまわりに杉の木は一本もない。理由は数十年も前に全て切り倒されてしまっているからだった。
「でも、どうして急に?」
 私が問い返すと、栞ちゃんはまた一瞬、今度は困ったような顔になる。
「……えっと、前に家族でこの町に来たことがあって、その時に行った神社に木がいっぱい生えてたから、それが浅木さんの家だったのかなぁ、と思って」
 変だ、と思った。
「……えっとね、前はあったんだけど、今はないんだ」
 え、と栞ちゃんは驚いた顔をする。
「そ、そうなんだ。ごめんね、変なこと聞いて」
「全然。それと、私のことは紗亜乃でいいよ。」
 私のその言葉を聞いた栞ちゃんは不気味なくらいにっこり笑った。
「ありがとう!…ねぇ、今度遊びに行っていい?」
「い、いいけど……。」
 何か色々不気味だった。いや本当に。と、そのとき席に着けー、と先生と白井が入ってきた。
「それじゃあ後でね。紗亜乃」
 栞ちゃんはそれだけ言うと、先生の方へ向かっていった。



 ただいまの時刻11時27分。自分の誕生日を時計で見ると、何となく嬉しいのはどうしてなんだろ?。
私は今家にいる。何学校サボってんだって?・・・はい、サボっているわけではありません。断じて違います。本当です。あの後体調不良で早退したわけで、サボっているわけではありません。断じて違います。本当に、本当だから!!
 それじゃあ、本題に入る……って、言いたいところだけど。
 ……何か、地響きが聞こえる。
「紗亜乃ーッ!!大丈夫か?」
 あー、問題の人物登場。銀雷。(て、いうか、ダッシュしてきたの?)
 もう平気だけど、こいつの顔を見ただけでまた熱が上がってきたような気がするんだよね。
 私は自分の部屋のベッドで横になっていた。もう、たいしたこと無いのに、帰りなさいって言われるし。
「ありがとう平気だか……」
「さ−ちゃ−ん」
 私の声を遮って現れたのは、ふーよふーよ、と楽しそうに空中散歩をしている水劉ちゃんだった。
「ど−したの?」
 凍り付いた私と銀雷を見て、水劉ちゃんは不思議そうな顔をした。……こりゃ、また−……。
 あ、言い忘れてた。この水劉ちゃんには超能力がある。それもとんでもないくらいすごいんだよね……。
 水劉ちゃんの超能力はエスパー現象を引き起こすというもので、初めのうちは空中散歩をして遊んでいるだけっだのに、その内にテレビやソファーなどまで浮かすようになってしまって……。
 これは数日前の話。その悲劇は水劉ちゃんの超能力によって引き起こされてしまったのだった。まあ、それはたまたま私がスカートをはいていたために凄い騒ぎになったんだけど。
 その日私は、テレビの前のソファーに腰掛けていた。テレビを見ていたのだ。
 そこを水劉ちゃんが悪戯して、私の座っていたソファーを浮かしてしまい、驚いて私はバランスを失って空中に放り出されたのだった。
 慌てて水劉ちゃんは私が床に落ちてしまわないように、と私を宙に浮かした……んだけど、そのとき直前まで見ていたテレビが私には上下逆さまに見えた。
 そしてそのそばで七緒がにやけていて……と言えば多分情景がわかると思う。
 私がその後どのような行動をとったかは想像にお任せします。
 てか、まあそんなわけで。
 水劉がどんな姿でやってきたかというと、ふわふわと宙に浮きながら……いや、ふわふわと宙に浮いた卓袱台にのってやって来たのだった。
 水劉ちゃんは音も立てずに私の部屋に降りる。
「さ−ちゃん、だいじょうぶ?」
「う、うん……もう平気だよ」
「水劉、お前また…」
 銀雷が呆れた声を出したその時、突然、姫呼たち残りの3匹が私の部屋に入ってきた。
「銀雷……」
「ああ」
 えーと、何か深刻そうなんだけど、一体何?
「……近くに妖が現れたな」
 エロ本を読んでヘラヘラしている七緒までが、今は深刻そうな顔をしている。
 ……妖って一体何?
「妖力からして、どうやら子供のようだけど」
 いつも笑顔の姫呼までが声のトーンを一つ低くしている。
「一旦、人の姿に戻って備えた方が良くないか?」
「うん。でもおそらくねらいは、さ−ちゃんだよね」
 ……私?
「あのさ、お取り込み中、悪いんだけどさ、妖とか私がねらいとか…何?」
 頭の中がハテナのパレードになり、たまらず私は口を開いた。
「前に妖怪だの犬神だのって言ってたけどさ」
 銀雷たちは顔を見合わせ、姫呼が話し始めた。
「そういえば、紗亜乃ちゃんには詳しく話していなかったものね。
 今から数百年前になるのかしら。
 ……昔ここの土地は妖怪に占領されていたの。人々を殺し、残虐の限りを尽くしていた妖怪たちは少しずつ勢力を伸ばし、国、全土にまで手をかけようとしていたわ。
 その行動に激怒した神は天界から妖怪のいる土地へ5匹の犬神を送り込んだ……それが銀雷、七緒、龍癒、私、そして劉代という水劉ちゃんのお父さま。
 悪戦苦闘の末、私たちは親玉とその配下の4匹の妖怪を封じることに成功したわ。けれど、その戦いで水劉ちゃんのお父さまが亡くなられてしまって……
 しかも、その補充要員として天界からやって来た、水劉ちゃんをも伴って私たち5匹の犬神とその妖怪が石版に封じ込められてしまったの。それで……」
「ちょ、ちょっと待って。」
 私は姫呼の話を遮った。
「つまり、私があなた達を解放したと同時に5匹の妖怪を復活させてしまったってこと?」
 ・・・それはかなりやばい気がした。ところが姫呼は微笑んで、ええ、まあと言った。
「でも紗亜乃ちゃんは悪くないのよ。
 確かに私たちはあのまま眠っているはずだった。けど、紗亜乃ちゃんが石版を落とさなかったとしても、そのうち妖怪の力が爆発して封印は解けていたわ。
 むしろ、そうなってしまったときの方が力が余計に大きくなってしまって危険だったはずだしね」
 私はすっごくほっとした。でも、お姉さんのようなとっても優しい姫呼の言葉だが、感動できない理由が1つある。
 ……それは姫呼が私より遙かに小さい犬、だから。こういう姿だったらどんなにジーンと来るような台詞を言われても逆に笑ってしまいそうになるんだよね……姫呼には悪いんだけど。
 それはさておき。
「でも、こうして私たちと妖怪は数日前に復活してしまった。逃げた妖怪はさっき言った通り、5匹。その中で近くまで来ていたと思われるのは……」
「『石妖狐』、だな……ふ、ふわ〜ああああ」
 珍しく龍癒が口を開いた。
 ……いしようこ?なんじゃそりゃ。
「そう、ね。子供の」
「それはどんな奴なの?」
 今度は頭の中がハテナがさらに踊り始めたが、振り払った。
「ん〜とねぇ、その目を合わせたひとを石にしちゃうんだよ〜」
 水劉ちゃんが一生懸命考えながら話してくれる。やっぱり、かわいい。
「その妖怪だけに限ったことじゃないが、奴らはお前を狙っている。同時に石も」
 ……へ?銀雷、何言ってんの?

⇒To Be Continued...

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