封じ給え*解され給え
作者: 天   2007年04月26日(木) 17時23分41秒公開   ID:WCPHrW52QgE



自分の頬に流れているものが涙であると、

こいつは気付いているんだろうか。

気付いていないのなら、

おれが、気付かせてやりたいと。

そう思うのは、なんでだろう。


こいつが愛しいからとか

こいつが心配だからだとか

そんなんじゃなくて

そんなんじゃなくて


もっと、なんというか



おれの特別上級任務遂行のため、とか?


         封じ給え*解され給え









岡崎勇次。おれの名前だ。

ここでおっかなびっくり。重大な告白をしようと思う。

「特別上級任務」。さーて、みんなこれ知ってる?

知らないと思うから今説明するんだけどな。

えーと。とりあえず言っちゃうと、おれは普通の人間じゃないんだよね。

まあ身体の構造とかはほぼ人間とおんなじだし?おれは別に魔法使ったりもできないし?

体術や銃戦だって、ある程度のことは出来ても誰にでも勝てるって程でもないし?

異一般人の中での、普通、って感じ?

今から考えると、何でおれが特別上級任務遂行者なんかに選ばれちゃったんだか。

まあ、おれが「普通」だかららしいんだけどね。

ちょっとややこい話になるけど、どうか最後まで付いて来てくれよ?







人間世界に紛れ込んでる、異一般人が居る。

異一般人、という言葉の用法が合ってるのかは問題じゃないぞ?

・・・ええと、詳しく言うと。

「新人間開発研究所」ってとこで研究「される」側の立場に居る、異一般人5678。それがおれ。

・・・もっとややこしくなった?まあまあ、話が進んできたら分かるさ。

何でおれが研究されることになったかとか、そういうことは全然話されてない。

ただ、おれに特別な力とやらはない。他の「研究対象」たちには使えるやつも居るが。

よくよく考えれば、おれは一般人なのかもしれない。

「上の人」がおれを「研究対象である」と言ったから、おれは異一般人なわけだ。

まあ、そこらへんはどれだけ考えてもいたちごっこなので、そろそろ「特別上級任務」について話そう。

研究所上層部、通称「上の人」からの特別上級任務。その内容は、



「東沢いちの能力管理と、その能力の封印」


能力管理?封印?
・・・正直、


「なんだそれ」
その内容を聞いた時のファーストリアクションは、そんな感じだった。




「「なんだそれ」って・・・感動ないですねー・・・・」

「うっさい。なんでおれが特別上級任務なんか受けなきゃいけないんだよ。ただでさえお
れは研究対象の中でも珍しい「一般人」なんだぞ」

「今回のは特別なんですよ。特別だからこそ、あなたみたいな「普通」が選ばれた」

やんわりとした笑みを見せる、川相テツ。こいつは苦労人と優男の代名詞だと思う。
こいつのモテ武勇伝は数え切れない程あるが、それはまた今度の話にしよう。

「あ?どーいう風に特別なんだよ。つか東沢いちって誰」

「・・・・あの。一応全部、この前の集会で言ってましたよ?」

「寝てる時に言われたことなんて、覚えてるわけねえだろうよ」

「・・・分かりました。説明、します」

小さな溜息を落としてから、川相はモテ要素の一つとなる童顔を少しばかり真面目にさせた。

「東沢いちは、能力者の可能性が高い重要人物です」

「重要人物・・・?そんなにすげー能力持ってんのか?」

「それが、分からないんです」

「は?」

「分からない。東沢いちの能力は、まだ分かっていないんです」

川相は、肩を落として見せた。おれは、むむ、と眉を顰める。

「それなら観察なり強制研究なりそればいいだろ」

「そういう訳にもいかないんです。何でも東沢いちは、無限未知の能力を秘めているかもしれないらしいんですよ」

「そんなバケモノの能力をおれが管理して封印しろって?無茶言うなよ」

本音だった。なんだっておれみたいな「一般人」がバケモノの世話なんかせにゃならん。

「無限未知の能力者の隣にエリート能力者を置いたら、もしかすると異常反応を起こすかもしれません。だから、「普通の一般人」と周波数が1番似ているあなたが選ばれた」

「・・・むかつく話だな。おれが何の変哲もないただの一般人だから選ばれたってか?」

「そういうことになりますね」

おれは心の底から息を吐いた。


面倒くさいことになったと、しみじみ思いながら。



「岡崎勇次です。宜しくお願いします」
転校初日、自己紹介での営業スマイルは思った以上に効果があった。
「ねね、勇次くんってどこ住んでるのっ?」
「食べ物って何が好きなのかなっ」
「えーっ一人暮らし?!かっこいー!」
「へえ以外!甘党なんだーっかわいいーww」
きゃあきゃあと騒ぐ女子。うぜえ
「君たちのが可愛いよ」
やけに高い声が、教室に響く。
自分で言って、さすがにさむい。
おれは愛想笑いを貼り付かせたまま、1番近くの女子に声をかけた。
「ねえ、東沢いちってこのクラス?」
「え?・・・なんで?」
「へ?あ、あー。この学校だって聞いたから」
思わぬ返事に、言い訳が曖昧になるが、幸い何も気付かれていないようだ。
「えっと、・・あの子だけど」
少し戸惑うように指された人差し指の方向には、机に突っ伏す茶色があった。



昼休みになっても、茶色は机に突っ伏したままだった。
おれは、静かに近づくと正面から肩を叩いた。
「ね」
「・・・・・ん、ん?」
茶色の髪が流れて、整った顔が上を向く。
まだ寝ぼけているらしく、目がうつろだ。
「・・・だれ」
「・・あの。一応今日転校して来て、朝に前で自己紹介したんだけど」
「寝てる時に言われたことなんて、覚えてるわけないじゃん」
聞いたことのあるような台詞に口元が引きつるが、精一杯口元には温和な笑みを浮かばせる。
「その茶髪、地毛なんだってねー。いやー綺麗」
「色素が薄いだけ」
確かによく見てみると、目も茶色がかっている。
「で?」
「へ?」
「名前。あんた誰?」
「あ、あー。うん。岡崎勇次・・」
「東沢いち」
それだけ言うと、会話は終了とでも言いたいのか、そいつはまた机に突っ伏した。
・・・・・なに、こいつ。
まじ調子狂う。



おれは、大して柔らかくもないベッドにダイブした。
「んっだよあいつ・・・もうちょい楽しそうにするとか出来ねーのかよっ」
時折誰かと喋っているのを見るので、孤立しているわけではなさそうだが。
それでも、喋っているのは二言三言。
「おいおい・・・このままじゃ封印どころか能力確認も出来ねえじゃんかよ・・・!」
特別上級任務だぞ・・・ふざけんな!
おれは、目を閉じて考える。
どうすりゃいい・・・・喋らない任務対象と、おれはどうコミュニケーションをとればいい・・・。
・・・おれは、ゆっくり、大きく、息を吐いた。
「おれが甘い言葉の1つ2つ言ってやれば、きっとあいつも喋るさ!」
大きな間違い。



「な、いちって笑ったら可愛いと思うんだけど」
「どうも」
「てか、笑ってないときも可愛いよなー」
「どうも」
「え、えっと。おれ今日教科書忘れちゃったんだよねー」
「隣の人に見せて貰えば」
「いちに貸して貰いたいなーなんてー・・・」
「むり」
撃沈。

「なんであいつ笑わないの・・・・!!」
おれは、いちの背中を見ながら呟く。
「岡崎。あいつ止めといたほうがいいぜ」
振り向くと、後ろの席の橋本が首を振っていた。
「あいつ、顔はいいけど性格まじだめだ」
「そ、そうなのか?」
「ああ。止めとけ止めとけ」
顔の前で手を横に振って見せる。
いちは、相変わらず机に突っ伏していた。
■作者からのメッセージ
初めましてだと思います天です!
この話は結構前に考えてたんですが、なかなか文字にする機会がなかったので今!(

えーと、只今新中一として慌しい日々を送っておりますので次いつ来れるか分かりませんが、覚えていて下さると有り難いです。
それでもって長い目で見て下さるともっと有り難いです((


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