if… from 「金の斧」 |
作者:
世界の住民
2007年03月28日(水) 23時17分38秒公開
ID:NGJGZaRbRmo
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「君が落としたのは、金の斧? 銀の斧? それとも……」 湖から出てきた男は、ふるぼけた安っぽい斧を取り出した。 「これ?」 男は微笑んだ。そして、目の前の樵を見た。 樵が落としたのは、最後に出した安っぽい斧だった。だが、彼は考える。 (こいつは何も知らないんだろ? なら金の斧でいいじゃないか?) 湖の男は、正直、全然賢そうじゃない。ただの村の若者と変わらない。 だが、湖から出てきて、斧を取り出す奴が普通の人間とは思えない。 (う〜む、ここは正直に話すべきか? でも……) 湖の若者は、三本の斧でお手玉みたいにして遊んでいる。やがて、金の斧が落ちる。 「あ、いけね、落としちゃった」 その時、樵の目の色が変わった。明らかに動揺しているようだ。一方、若者は自分が着ている真っ白なローブをいじっていた。 「あ、あの、もう戻ってこないんでしょうか? 金の斧」 樵が聞いた。すると、若者はにやにやし出した。 「あれ、君、金の斧だったの? 落としたやつ?」 「いや、その……」 「別に違うんでしょ? ならよくない?」 そう言うと、若者は銀の斧と安物の斧をかち合わせて遊び始めた。 「えい! そりゃ!」 銀の斧と安物の斧がぶつかり合っている。銀の斧がどんどん傷ついている。 「あ、ああ……」 樵は何てことを、という目で見た。村には金はおろか、銀すらない。そのため、売ればどれだけになるのか……おそらくとんでもない金額に…… 「あ、あの〜」 樵は遊んでいる若者に話しかけた。若者は振り向く。 「どうしたの?」 樵はつばを飲んだ。 「いや、あの、その、銀の斧、傷つきますよ?」 すると、若者はまたケラケラ笑い出した。遊びはまだ続いている。 「え、あれが君が落としたやつだったの?」 樵は必死で考えた。もし、ここで違うと答えたら、あいまいな返答をしたら、金どころか銀すら手に入らなくなってしまう! かといって、そうです、というのは……樵だって「うそはダメ」くらい知っている。今まで「正直者」「真面目」で通ってきたのだ。 ……だが、あまりにも勿体無いじゃないか? 金じゃないんだし、銀くらい…… ――今まで立派にやってきた、一回くらい―― 「どうしたの?」 若者は樵を見て、聞いた。樵は息を大きく吸って、言った。 「あの……その斧、銀の斧が……僕が落としたものです!」 すると、若者は微笑んだ。 「本当に? そうなの?」 「はい! そうです! それが僕の……」 その時、銀の斧も安っぽい斧も消えた。若者から笑顔も消えた。 「え……」 樵は唖然とした。やがて、若者は樵から背を向けて、言い放った。 「愚か者め、この……大うそつきが!」 若者は樵にすばやく向き直った。そして、手をかざした。 「大うそつきものよ。貴様は正直者だと言うから試したのだぞ! 愚か者! 地獄に落ちろ!」 樵はまばゆい光に包まれ、消えていった…… |
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