ONE
作者: 国村 裁臣   2009年03月17日(火) 19時33分55秒公開   ID:./hD4fJD4PA
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1、時間よ止まれ!

 時間が止まればいいのになあと、思うことがよくある。
 実際どうなんだろう? よく漫画とかで「時間よとまれ!」と言って、周りの人間がみんな止まってしまうのだ。
 でもおかしい。人間の心臓や脳の活動まで止まる。血のめぐりも止まったら死ぬことは確実だし、瞬きしなければ、目は干からびてしまう!

「私はイカサマなどいたしません」
「はあ……」
 ここに、怪しげな商人がいた。学校の帰り道に突然話しかけられて、いきなり
「時間を止められますよ?」
 最初はインチキくさかったが、段々試してみるかぐらいの気持ちにはなっていた。
「この時計を止めるだけなんですね?」
「ええ。そうです」
 ニヤニヤする男。少し不気味に思ったが、僕は内心わくわくしていた。
「全体的に、誰もが納得するように時間を止められます。では、ごきげんよう」
 そう言って、男はいなくなってしまった。
 まあいいさ。こいつで時間を止めて、やりたい放題してやる!
「時間よ! 止まれ!」
 カチっとストップボタンを押した。

 
 確かに時間は止まった。
「ママー。あのおにいちゃん固まってるよ。まるで時間が止まったみたい!」
「し! 見るんじゃありません!」

 でも止まったのは僕だけだった。周りの人たちは普通に歩いている。
 確かに矛盾はしていなかった。だっておそらく、今の僕の状態をこと細かに説明し、どうしてそうなったのかを言えば、世界中の人が「確かに時間が止まってる」と誰もが言うはずだ。僕だって言える。 
 だんだん目が干からびていくのを感じながら、僕はそう思った――


2、箱

 キャプテンは世界で有力な海賊の長だった。
 彼は巨大船を乗りこなし、金塊を探しあてたり、時には商船を襲って金を奪ったりしていた。
 また、彼は至って慎重な人物であった。常に物事を深く考えて行動する男――正に指導者の鏡といっていいだろう。
 そんなある日、かなり裕福そうな商船を見つけた。ここ最近、金塊も探せてないし、とキャプテンは考えてから
「商船を襲え!」
 商船に向かって、キャプテンは船を動かした。普通なら部下がやるはずだが、自らやることもあった。
 すぐに海賊船は商船に追いついた。するといきなり、商船から白旗があがってきたのだ。
「罠かもしれん。野郎ども、様子を見て来い」
 キャプテンは不信がり、部下数名に調査にいかせた。しばらくして彼らは戻ってきた。
「あいつら、ガタガタ震えてますぜ! 武器も何にも持っちゃいねえ。しかもこんなものをくれやした!」
部下たちは大きな箱を持っていた。もちろんキャプテンは「まだだ。まだ開けてはならんぞ!」と部下たちをたしなめた。
「部下たちを全員集めよ!」
 キャプテンは船員全員を集め、箱の周りを取り囲んだ。何かあったときのために部下たちを一つの場所に集めたのだ。
 箱と距離をとってから、キャプテンは言った。
「誰か! この箱を開けようというものはおらんか!」
 だがしゃべるだけで誰も開けようとはしなかった。キャプテンの用心深い性格が写ってしまったといえる。
 それから何時間もああだ、こうだしゃべり続けた。
「ええい! こうなったら私が……おい! どうした!」
 海賊船が段々沈み始めたのである。商船は既に逃げていた。どうやら船に穴を開けられたようだ。
「もしかしたらこれは非力な商船の連中が我々を脅すための罠かもしれん! 皆のもの! 落ち着け!」
 結局、何の対応も取れないまま、海賊船と船員は海に沈んだ。
 生還者にいくら話を聞いても、箱の中身がなんだったのかは定かではない。


3、整形鏡

 中世ヨーロッパのある王国でのことです。王国の王女様は、大変美しい方だったのですが、もっともっと美しくなろうと日夜努力していました。なかなか自分の容姿に納得できなかったのです。例えば、目を大きくしようと瞬きを極力しなかったり、体型をスリムにしようと毎日寝るときにきつくベルトをしめたりしていました。
 そんなある日のことです。この国の家臣があるものを持ってきました。一見何の変哲もない等身大の鏡でした。
「姫。これはアラブの商人から買ったものでございますが、何しろ不思議な鏡でして」
「して、どんな鏡なのです?」
「はい。まず自分の姿をこれに映します。それでこれとこれを使います」
 そう言って、家臣は一本の真っ黒なペンと、真っ白なハンカチを取り出しました。
「このハンカチで自分の容姿の気に入らないところを消してください。そしてこのペンで書き加えます。姫のお望みどおりの姿を自分自身で作れるのです」
 さっそく王女様は試してみました。まず自分の鏡を映し出しました。
「姫、映し出してから修正を加えて、もう一度自分の姿を鏡に映してください。そしてこれでいいと思ったら、一回鏡に触れてください。そうすれば直したことになりますので」
 鏡に映った自分を見て、まず目を修正しようと思いました。王女様は自分を写した後、ペンを取って修正に取り掛かりました。
 不思議なことに鏡に映った自分は全く動きません。王女様はまず、目を消しました。真っ白なハンカチが一部黒く汚れます。そして少し大きめな目を書いたのです。その後、鏡に軽く触れました。
 ――その瞬間、突然王女様の顔が変わりました。目が大きくなったのです。その驚いた顔でまた、鏡の中の王女様はストップしました。
 普通の鏡で確認しても、やはり目は大きくなっていました。
「これはすごいです! よくやってくれました!」
 王女様はたいそう喜びました。

 
「王女様がいないぞ! 探せ!」
 あの鏡の件から三日後、王女様が行方不明になっていました。家臣たちがいくら探しても見当たりません。王女様の部屋にはあの鏡と、真っ黒に染まったハンカチが落ちているだけでした。
 自分の姿そのものに、納得がいかなかったようです。


4、四番目の鬼

 幽霊ごっこというおままごとを小さい頃にしたことがある。まだ幼稚園ぐらいの時で定かではないのだが。
 僕とケンくんとマリちゃん、それからター君の四人だったと思う。
 どういう遊びかと言えばじゃんけんで負けた人が、お昼寝用のカバーをかけてみんなを追いかけまわすというものだ。
 必ず夕暮れ時にやる――そう僕たちは決めていた。
「じゃんけん、ぽい!」
 まず鬼になったのはケンくんだった。布を被ってお化けだぞ〜とか言って走り回っていた。
 次にマリちゃん、次はター君、えっと次は……誰だったかな?
 とりあえずもう一回ター君がやったあと、僕になった。
「よ〜し、とびっきり怖くしてやるぞ!」
 僕ははさみを持ってきて、布をちょきちょき切った。円形に目の部位をつくり、細長い楕円系に口を作った。
 さあて、準備完了だ。まずは木の影に隠れているのがバレバレのマリちゃんから捕まえよう。女の子だから泣いちゃうかもしれない。
「わあ!」
「きゃあ!」
 想定どおり、かなり驚いてくれた。逃げ出すマリちゃんを追いかけた。
「待て〜」
「いやあ!」
 そのうち、段々様子が変なことに気づいた。普通、こんな遊びならマリちゃんもここまで逃げないのに、何故か必死で逃げていた。
「助けて! 先生! 助けて!」
 おいおい、ここまで泣き叫ばれては困る。僕は走るのを止めて、布団シーツを脱ごうとした。
 あれ……脱げない?
 どうしたことだ? 止まることも、脱ぐこともできない。しかもよく見ると、楕円形に切った口も円形に切った目も、三日月をひっくり返したような形になっていた。
 ――まるで笑ってるかのように。
 マリちゃんが転んだ。僕の足も止まる。先生がマリちゃんに駆け寄った。
「どうしたの? マリちゃん?」
「せ、先生、後ろ、後ろ……」
 先生が僕を見た。でも先生はそ知らぬ顔で「何もないじゃない」と笑った。

 それからしばらくして、自然と僕はみんなと遊んでいた。しばらくこの出来事を誰も思い出せなかったそうだ。マリちゃんすら「どうしてあんなに泣いたんだろう?」と疑問がっている。
 多分あの日、四番目の鬼さえ思い出せればわかるんじゃないだろうか?


5、Stay Gold!

 よく、私はアメリカ人の三人家族を目にする。いつも仲よさそうに公園で遊んでいて、公私ともに充実した一家だということがわかる。
 そして妻はよく、夫にこんなことを言っているのがわかる。
「Tom、Stay Gold!」
 Stay Goldという言葉の意味は、「いつまでも輝いていて!」という意味らしい。トムさんは確かに、見た目的にも輝いている。
 要は、金持ちということがわかるということだ。
 だが奥さんにそんなことを言われるなんて幸せじゃないか、私はそう思った。

 
 それから幾日かが過ぎた頃、公園で泣いている男の子を見つけた。それは、あのアメリカ人家族の子供だった。
「どうして泣いているんだい?」
 私は英語で話しかけると、男の子は
「……お父さんが輝いてないんだよ」
 どうやら、お父さんは「輝き」を失ったらしい。どうしたんだ? 浮気でもしたのか? 心配になった私は更に英語でこう聞いてみた。
「何があったの?」
 すると、男の子は叫んだ。
「お母さんが……お母さんが出てったんだ! お父さんは……だからって」
「ん? お父さんは、なんだい?」
 すると、男の子は予想外なことを言った。

「父さんの会社が倒産したから! お金がなくなったからって! それ出てったんだ!」

 どうやら大きな勘違いをしていたようだ。
 要はあの奥さんの「stay gold」、夫が立派でありますようにではなく、お金持ちでありますようにだったらしい。


6、地球儀 

 夢の中で、悪魔が降りてきて私に言った。その悪魔は古ぼけた地球儀を私に見せて
「お前に魔法の地球儀を与えてやろう。こいつはな、地球と連動してるんだよ。つまりお前は地球を手に入れたことになるんだ。すごいだろ? 少々もろいけどな」
 朝起きてみると、私の書斎の机に、確かに夢の中の地球儀が置いてあった。
 下らない夢だろうと思って、試しに太平洋を触ってみた。すると、まるで液体を触っているかのような感触だった。
 しばらくして
「大変です! 太平洋に謎の巨大物体発生が発生しました! 目撃情報は……」
 ニュースは大騒ぎになっている。
 なるほど、確かに私は地球を手に入れたわけだな……素晴らしい。

 それから、私は様々なことをした。
 例えば一国の首都を鉛筆で突いて滅亡寸前にしたり、紙かなんかを海にくっつけて新しい島を作ったりした。
 そのたびにマスコミは大騒ぎ。非常に面白かった。

 ある日の夜、友人と飲んでしまったせいで少し酔っ払って帰ってきた。
 書斎にドカンと座り込んでから、机に突っ伏した。
 その時だった。
 私の腕が、地球儀を弾き飛ばしてしまったのだ。

「少々もろいけどな」
 悪魔の言葉を、一瞬だけ思い出した――


7、風邪バンク
 
 僕は今、銀行の待合室にいる。ただし普通の銀行ではない。
「次のお客様、どうぞ」
 僕の出番が来た。マスクをいじりながら、受付に行った。
「今日の風邪、あずかってもらっていいですか?」
「結構です。ではちょっと失礼します」
 ここの銀行は、今僕がひいている風邪を預かってくれる。
そして自分が好きなときに引き出せる――正に「風邪バンク」である。
 今日は大事な試験日だったので、風邪を引いていては困るのだ。早朝から並んでおいて本当によかった。
「ありがとうございました」
 僕はそのまま、学校に向かった。

 それから一週間後。
 突然僕の家に、小さな小包が届いた。僕宛になってる。一体何だろう?
「なんだろう?」
 特に説明書も読まないで、僕は小包を開いた。 
 その瞬間だった。

 ――苦しい。咳が止まらない。体中の節々が壊れそうだ!
 誰か! 助けてくれ! し、死ぬ!
 どうすればいいんだ! お母さん! 
 その時、小包の蓋からハラリと紙が落ちた。
 ぼんやりした僕の視界に、文字の羅列が映ってきた。
 

「風邪バンクからのお知らせです。
 本日を持ちまして、本銀行は倒産いたしました。
 今までお預かりしてきました、全ての風邪をお返しいたします。
 今までありがとうございました」



8、僕は正常だ!

 僕は正常だ。
 異性に惹かれるし、同性なんてイヤだ。確かに同性だっていいけど、一緒になろうとまでは思わない。
 だから僕は正常だ。変わりにあれだが、異性のことは大好きだ。くっついて一緒になっていろんなことをしようと思える。
 これは間違いなく、僕は正常だと言える。
 そう、異性を愛して、同性とは少し距離を置く。あくまで仲間。異性を愛する気持ちは、人類に貢献するものをうみだすのだ。
 素晴らしいことだ。愛がそれを生み出すんだから。 
 だから同性同士が惹かれあうなんて変だと思う。

⇒To Be Continued...

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