地球を侵略! |
作者:
消しゴム
2008年01月04日(金) 23時34分34秒公開
ID:gSb0P7TAWjM
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「ほう、なかなか素晴らしい惑星(ほし)ではないか」 レイが敬礼をしたのち、手元の資料をめくる。 そして自信ありげに、音読していく。 「あの惑星は水自体が全体の七割を占め、また生命反応装置が起動しているところから、あの惑星では我々の惑星と同様、呼吸も可能かと思われます」 奥に居て、それを興味深そうに聞く老人こそが、宇宙の惑星を統一しようとしている、レルシトラである。 味方の中では、常に信頼の的であって、同時に頼れる指揮官であった。 彼の唸る、その声の高さから、長年この伝達をする身として、もっと情報が欲しいのだ、レイはそう悟って、次の資料を見る。 「また、この惑星は我が惑星(くに)のライバルである、ゲルラルブ星の奴らには気づいておりません。そしてあの惑星は既に一度降り立ってる同胞がいまして、言葉の訳も容易かと……」 レイはさらに止めのように言葉を突き刺す。 「そして……、我が隊長が既にその惑星に潜伏しております、後は命令の一つがあれば、あんな星、一分も経たずと制圧して見せましょう」 レルシトラがしばし唸って、顔を上下に振ってみせる、再び上に持ち上げた後、彼は呟くように返答を返した。 「まあ、取り合えずお前らの隊長は……?」 「シトラー様、でございます」 渋るようにレイが答えるとレルトシラは頷いて、 「シトラーに任せるとして、暫くは様子見だな」 「はあ……」 レイは曇ったような表情をしながら、無理やり意見を受け入れた。 暖かい陽気に包まれる中、シトラーの襟元でレイの曇り曇った、声が聞こえる。 「隊長〜……、なんというか、一応始動らしいです」 「はあ!?」 曖昧な出撃命令にシトラーは思わず聞き返す。レイがおずおずと先程の会話の解説を入れると、今度はシトラーが嫌そうに尋ねる。 「何だよ……、レル(レルトシラ)様、ご乱心か? 取り合えず私は、ここの惑星の者達と交流を重ねようと思う」 そのあまりの衝撃的な発言に、レイは驚き、うろたえた。 「ちょ、隊長? まだここがどんな星なのか見当もつきません、そんな事で隊長のお命に関われては……!」 レイが必死にその場に留めようとするが、シトラーは行く、と意見を変えなかった。 「それにな、何もいきなり攻撃するはずがあるまい、この通り擬態も済ませたし、音声変換も済ませた、十分この星で情報を集めれる」 誇りに満ちた声に押され、レイは仕方がなく、それに応じた。この隊は主に伝令が仕事で、当然潜伏、という関門も少なくは無かった。 無論隊長ともなれば、その業はかなりの物になる。しかし、それはどれも行った事のある星がほとんどだった。 今回のように全くヒントがないようでは、対策も練りづらい。隊長の押しがあってこそ、認めたのだ。 ちなみにこの隊は、上下関係にあまり厳しくない、というせいで、どの隊にも半人前の人間しか居ないと言われていたのを、シトラーは知っていた。 実際この潜伏にほとんど意味は無い。シトラー個人による、昇進が目的だった。そんなことも知らないレイが、心配して一言付け加える。 「あの、一応隊長の銃送っときますんで、必要だったら使ってやってください」 そう言い終わると、シトラーの前に一丁の拳銃が出てくる。 「おう、すまんな。では、行ってくる」 そういうと彼は先程から座っていた、公園のベンチをたって歩き出した。 時刻は明朝、四時だった。 おかしいな、シトラーが思ったのはこれでちょうど三十を回った頃だった。 時刻はちょうど七時、平日である今日に限って、その抜けた隊長はのそのそと歩いていた。 初めはよかったが、そのうち人が変な風にこちらを見てくるのだ。 (擬態はちゃんとしてるし、肌の色もあってるんだがなあ) ちょっと不安になって、首をまわして背中を見たりしている光景は、かなり不気味だった。 それもそのはず、彼はマントとズボン以外は穿(は)いていなかったのだ。 上半身裸の男が、黒いマントをつけ、なおかつ挙動不審ときたもんだ、首を回す仕草のせいで、睨んでいるんだ、と錯覚する人も居た。 しかしそれは全くの逆だ。彼は何故皆がそんな、汚い物を見るような目をしているのか、分からない。 わけが分からず、通りすがりの若い女性に尋ねてみるも、悲鳴を上げて逃げていくから、なおのこと分からない。 この通り擬態は完璧、音声も良好。 ただ一つ疑問の言葉しか浮かばない。 (おかしいなあ……) こんなことは一度も無かった、どこの惑星で潜伏してもバレることは無かった。 まさか! 私は既に奴らの術中にハマっているのか? 不安は募る、そのせいで余計に足元がふらつく。彼らにバレた。何故! 擬態も音声も、出発前からあんなに調整を施したと言うのに! シトラーは、このままどこかに連れてかれて、それこそスパイとされて捕まって、殺されたらどうしよう? 潜入捜査で彼がそんな事を思ったのは初めてだった。涙目になりながら、フラフラと当てもなくさまよう。 すると肩にポン、と手が当てられる。瞬間彼は全身からこみ上げる喜びに、思わず泣きそうになった。 (こんな私に! 誰かが話しかけてくれるのか!) しかし喜びはすぐに、抑制する。先程の回想が頭を巡る。殺されるかもとか、死にそうになるまで尋問される可能性が……。 彼はびくびくしながら振り向くと、そこには一人の警察官が居た。 呆れるような顔をしながら、肩にのせた手を引っ張る。 「困るなー、露出狂の奴はこれだから……」 なんといわれているか、単語が分からいシトラーだが、その表情から、侮辱されてる事だけは分かった。 「何だと、この野郎。というかそのイカれたファッションは何だ!」 と警察官に一喝。無論警察官としては、そんなもの開き直りにしか聞こえなかった。 「君こそなんだね、その変態っぷりは。見てて寒気がするよ」 警官が身震いしてみせる、シトラーは隊長としての意地か、単なる張り合いか、先程レイに送ってもらった銃を見せ付ける。 そして、自信たっぷりに奇声を上げながら、銃口を警官の頭に向ける。 「もう怒ったぜ! コイツで貴様の息の根を止めてやる」 しかし、様子が変なことはすぐに分かった。銃口を向けられて警官が笑っているのだ。 怒りは頂点に上り、銃口を警察官に押し当てる。 「殺されたいのか!」 「殺せるかよ!」 警官が笑いをこらえて叫ぶ。シトラーの手には水鉄砲が握られていた。鉄砲をもつ、彼らとしてはそんなものの違いは容易に分かった。 第一デザインが凄い。銃口の前にはリボンが飾られ、引き金には髑髏のストラップがついていた。 「おい、いいのか、死ぬぞ?」 実は彼らの星で、塩水とは非常に相性が悪かった。そこに住むものたちは、塩を浴びると、たちまち溶けて消えてしまう。ナメクジのように。 怒りに満ち満ちたシトラーが、思いっきり引き金を引く。 ああ、初めての星でこんなにそうそう、殺してしまうとは、潜入捜査としては大失敗だな。 シトラーが悔やみながらも、仕方が無いよな、と心を入れ替え、顔を上げた。 するとあくまで笑顔の警官の顔が見える。 「ばっ、莫迦なああああああ!」 思わず絶叫、何なんだ、この惑星は。コイツは何者だ。次々と言葉が浮かんでくる。そして行き当たる。 こんなやつらに敵うわけない。確信に近い気持ちがシトラーの胸に突き刺さる。 警官が一歩、こっちに近づいてくる。シトラーとしては悪魔が近づいてくるような気持ちだった。 (こんな星……、こりごりだ!) シトラーは急いで逃げる。もといた公園のベンチに行き、茂みに隠れ、襟元のマントで通信を取る。 「こちら伝達隊隊長のシトラー、今すぐこの惑星から逃げるよう、要請してくれ」 通信を聞いたレイが驚いたように、問いただす。 「こちらレイ。一体どうしたんですか、隊長。こちらには既に核爆弾などを所持して向かおうとしていると言うのに」 「何をばかな! そんなちゃちな物でどうにかなる相手なものか!」 シトラーが大声を張り上げる。レイは思わず肩を狭めて、耳を傾ける。 「あいつらにはな! 塩水が効かなかったのだぞ? それどころか笑ってこっちを見下しやがった」 レイが驚愕する。 後日、彼らは宇宙船でシトラーを無事助け出し、地球侵略を諦め、去っていった。 |
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