鍋村 | |
作者:
麒麟
2007年12月31日(月) 00時30分31秒公開
ID:Hemxxth6dso
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地方のどちらかと言うと田舎にお住まいの皆さんはいらっしゃいますか? もしくは、自身の祖父母の家がある田舎へ、子供時代に遊びにいったことのある方でも構いません。 少し、その時の記憶を思い起こしてみてください。 自然あふれる田舎には、豊かな作物を実らせる畑がありますよね。 そのたくさんある畑のどこか1か所でもかまいません。 そこに、錆びた小さな鍋があるのを見たことはありませんか? 捨てられているのか・・はたまた、その畑の主が何かの目的で畑に置いているのか。 おっと、話がちょっと面倒になりそうですね。 実際にこのお話は、この先をご覧になっていただいたほうが早いでしょう。 少し寂れた村がある。 季節はこれから冬がやってこようという時期で、田んぼなどは寂しいくらい何もない。 ただ、そんな村には似つかわしくないものがそこにはあった。 「先生・・なんか変ですね」 「そうね。似つかわしくない・・って言うべきかもしれないわね」 畑の前で立ち尽くす30歳くらいの女性と、20代前半くらいの男性の2人組は、畑の前にある黄色のテープを眺めていた。 「この畑で、人が1人・・」 「生々しいといえばそうね」 警官が1人だけ、彼らの後ろに立っている。村の駐在のようで、自転車とともに突っ立っているだけだ。 「あの・・彼の話に関して村の人は何か?」 「いやぁ・・それが先生。彼らは何も知らないって言ってるっちゃね。そりゃあそうやろうけどね、私もそんな話は信じられねぇなと思ってるんで」 女性に対して先生と言った駐在は、そのように述べた。話は少し遡ること1か月前だ。 ・・1か月前 これまた30歳くらいの男性だった。 男は単身、この片田舎を自分の第2の故郷にしようという面持ちでやってきた。 「いやぁ・・ついに念願の田舎暮らしだ!」 男はどこにでもいそうな普通の男性だった。 どうやら彼は、友人に常日頃から、自分は田舎で無農薬のおいしい野菜をいっぱい作って、それを都会で売って、人々の笑顔を見るのが夢なんだと語っていた。どうも、無農薬栽培をする農家に憧れていたらしい。そして野菜をつくるなら田舎だろう!という安易な発想から、つい数か月前にこの村に越してきた。 いやしかし、何でこうそろそろ冬がやってこようなんて季節に?と我々は思ってしまう。まぁ、男にもそれなりの事情があったのだろう。一応これでも男は、以前まで有名な大企業に勤めていたそうだ。脱サラと言えば聞こえが良いのかもしれない。 「うーん・・さすがにこの時期から野菜を作るのはちょっと中途半端かなあ?」 などと言いながら、自身の今の古ぼけた日本家屋と一緒に買った畑の土地を見ながら呟く。ちなみに、この日本家屋は数十年前まで誰かが住んでいたらしい。中古物件というものか。 「ま、最初はこれくらいの小さい畑で十分か。いずれは野菜で得た収入でもっと土地を買って大きくするんだ」 それにこの男、一応1人身である。1人じゃ作業もままならないだろう。というより、結婚が大変そうだ。 「うーん・・まずは畑を耕したりとかだな」 と言いながら見渡すほど広いのかも分らないが、そこそこは広さのある畑を眺める男は、ふとあるものを見つけた。 「ん・・鍋か」 やや土に埋もれかけていたそれを取り出す。若干錆もある。 「うーん、なんでこんなもんが畑に?前の持ち主が捨ててたのか?」 一瞬、洗ったら味噌汁を作るのに使えないかと思案したが、すぐにその案は切り捨てたようだ。何にせよ、錆もそうではあるが、さすがに捨てられていた鍋を料理に使うのはいかなるものかと思ったのだろう。 「捨てとくか」 男はそれを持ち帰ると、月に1度か2度の回収がある不燃物のごみ収集日に備えて、不燃物ゴミをまとめていれている大きめのゴミ箱に、その他の不燃物ゴミと一緒に捨ててしまった。 ・・4日後 そんなこんなで、畑を耕したりと様々な準備をしていた男だったが、最初に畑を見に行ったあの日から4日が経った。 「1から1人で作るってのは大変なもんだなぁ」 とか言いながら、今日はそろそろ作業を切り上げて帰ろうとした日の出来事。 「ん・・?」 畑の隅に何かが埋もれていた。ただ、埋もれていたと言ってもそれはほんの一部に過ぎず、大体は地上にその金属のような肌を露出させていた。 「鍋か・・」 別に新しいものというわけではなく、若干錆や使い込まれたような形跡から、これまた古ぼけた鍋だということが分かる。 「こんなの、前にあったっけな?」 そう思うのも無理はない。4日前に捨てた鍋とは明らかに違うものでもあるし、違う場所にもあったのだが、ここには4日前までは鍋はなかった。 「・・捨てとくか」 何を思うわけでもなく。もっとも、何も不思議に思うこともなく。彼はそれを持ち帰り、家の不燃物ゴミをまとめていれているゴミ箱にそれを再び捨てた。以前捨てた鍋と今日捨てた鍋が、ゴミ箱の中でガシャリと金属音を立てる音だけが聞こえた。 ・・2日後 その日は雨だった。 何となく雨の日は作業ができないので、籠りがちになりそうな男のここでの生活ではあったが、雨の日の村を知っておきたいという気持ちでも持っていたのだろうか?傘をさして散歩をしていた。 その散歩コースの自身の畑もいれていたのか、畑まで歩いてきた男は、畑に捨てられているその調理器具の1つを見つけた。 「あぁ・・鍋か」 畑に入って手にしたそれは、やっぱりちょっと古くて錆びていた。そしてまたしても小さめのもの。 「おっかしいな」 さすがに3つ目の鍋の存在に首をかしげ出した。 そんなこんなで、帰宅した男は家に入る前に、外に置いてある例のゴミ箱に鍋を捨てた。捨てた鍋が以前捨てた鍋にぶつかり、3つの鍋が以前よりも大きな金属音を立てていたが、雨の音で男はそんなの気にもとめなかった。 ・・翌日 さすがにこの日ばかりは自分の目を疑った男がいた。 畑のど真ん中に今度はあった。古くてちょっと錆びている例の鍋が。まぁ、デザインなどを見れば違う鍋であることは分かるのだが。 「昨日はなかったな」 最近の男の日課は、畑を耕したりして野菜を育てる下準備をした後に、敷地内に捨てられている鍋を拾って、持ち帰ったのちに家の前のゴミ箱に捨てる・・と言ったものになっていた。 鍋を拾って律儀にも持ち帰って捨てるという妙な部分を除けば、ごく普通の農家生活だろう。 「あれだよな。1つ捨てるとまた1つ次の日に捨てられている気がする」 とまぁ、誰もが思うことをここで初めて男は思った。しかしまぁ何より、そんなことは畑仕事の次に考えることなのだろう。深く考えずに今日もゴミ箱に捨てる。これで入れられた鍋は4つ目だ。この日初めて男は、鍋を捨てた時の金属音の響きが、若干大きくなっていることを感じた。 ・・その翌日 この日、その考えで間違いなかったと男は思った。 作業を終えて帰るその手には、農作業用具と古ぼけた鍋があった。 「おっかしいよな。誰かが捨ててんのか?」 だが、そう思うとちょっと変な部分があると男は思った。何故なら、捨てられている鍋は錆びた古いものだ。 「誰か、使わなくなった鍋でも捨ててんのかな?」 だとしたら冗談じゃない!と思う男。畑がゴミ捨て場・・もとい鍋捨て場にされているのだ。嫌がらせみたいなものだ。そんなわけで男は夜、庭でひっそりと『ゴミ捨て禁止』と書かれた手書きの看板を作っていた。 そしてその次の日の朝、畑仕事へと飽きずに今日もまた行くついでに、その看板を担いでいった男は、やっぱりかと天を仰いだ。言うまでもない。また鍋があったのだ。 ・・その日の夜 男はその日。いつものように鍋を捨てて居間で夕食を食べていた。漬物をかじりながら頭の中で考えることは、どうもここ数日から畑作業や無農薬野菜の栽培よりも、畑に捨てられている鍋のことに変化しつつあった。意外なところで悩まされつつある。 「鍋ねぇ」 としか、考えたところで言う言葉はなかった。仕方なく味噌汁を口にする。すすりながらふと、その味噌汁を作る時にも鍋を使っていることを思い出す。 「いや、それは当り前のことじゃないか」 もっともな話だ。味噌汁を作るのに鍋を使うのは当り前のことだ。味噌汁を作るのに鍋を使わない人間がいるのなら、男にご一報を・・ただ、私(筆者)の母は真面目な話、味噌汁をフライパンで作ったところを見たことがある。これは言っておくがノンフィクションな話だ。 「ただ、誰かが畑に鍋を捨ててるとしても、いつ捨ててるんだろうな」 当然の疑問が男の頭の中で渦巻き始める。いつ、そして誰が鍋を捨てているのだろうか?ついでに言うなら、そんなに捨てる鍋をどこから持ってきているのか?というオマケ的な疑問もつけておくことにしよう。 「明日、朝早く畑に見に行ってみるか・・」 様々な疑問はそれこそ、無限にわき出してくるが答えは見えるはずもない。何となく、早朝と言う時間帯から畑を見に行くことで決着をつけようと考えたのか、男はそれでいつものケロリとした表情に戻って、夕食の後片付けを始めることにした。 ・・翌朝の午前4時頃 翌朝と言っても話が極端すぎるのではないか。と誰もが言ってやりたい時間に男は外にいた。 この時期の午前4時はまだ夜も同然の暗さだ。日の長い夏であっても午前4時はまだ暗闇だ。しかし気になって気になって仕方がなかったのだろう。朝5時前にセットした目覚まし時計がなる前の午前4時前に目が覚めた男は、結局寝れなかったので懐中電灯を持つと、1人畑へ向かって歩き出した。 時刻は午前4時6分だった。 男は驚愕した。驚愕以上の表現方法が存在するならば、それを今の男に当てはめてやると丁度いいだろう。何故かって?言うまでもない、もう鍋が捨ててあったのだ。 ・・昼 昼御飯を食べながら男は思った。 「鍋はつまり、夜に捨てられているということなのか?」 至極当然な話だろう。午前4時頃に畑にいったらすでに捨てられてあったのだから、夜中に捨てていると考えてまずは間違いないだろう。これで鍋は7つ目だ。これらの鍋が使えそうな新品ならまだよかったのに・・と男は思う。 「7つあっても多すぎだけどな」 そういう考えもできるだろう。しかし、この問題は少し深刻であったらしく、今日の男の仕事はその鍋のことで頭がいっぱいになったせいで何もできなかった。結局、今日は何もせずに昼間からこうして何やら考え込んでいる。 「夜に誰か捨ててるなら、誰か確かめないとな」 男はその日の夜、畑で見張りをすることにした。 ・・午後9時頃 さて、男はしっかりと防寒対策をして畑へとやってきた。 懐中電灯であたりを照らす。まだ鍋はなかった。ということは、これから何者かが捨ててくるのだ。 男はあくびをしながらも、畑の隅で地面に茣蓙を敷くと、その上に体育座りで小さくなった。 長い長い夜が始まった。皆さんは分かるだろうか?経験したことがある人なら周知のことではあるだろうが、田舎の夜とは早い。午後9時を過ぎればもうあたりは暗闇である。ついでに言うなら朝は極端に早い。そして何もない。 「・・今何時だ?」 何もない暗闇で過ごすというのは、とてつもなく暇なものでもある。時間の流れがただでさえゆっくりに感じる。そうしてもう、何時間も見張っている気がするのに、実際には1時間・・もしくはそれ以下しか時間が経っていない事実に愕然とさせられるものだ。 「・・日付が変わるな」 それでもこの時間まで粘っている男は、かなりの忍耐力を持ち合わせているのだろう。尊敬に値する。今の日本人から失われつつある力である。もっとも、ここで男をそうやって褒めたところで何も出てこないので悪しからず。 「ね、眠い・・」 しかし眠いのも無理はない。この田舎の村で住み始めて、男も以前より規則正しい・・というよりも早寝早起きが習慣づいてしまっていた。よって前まではなんともなかった午前0時が、今ではとても眠いのだ。 「・・・・」 気づいたら男は爆睡してしまっていた。しかしまぁ、よくもこんな寒い夜に外で眠れるものだ。 ・・朝 気がついたら朝だった。男は飛び上った。 「し、しまった!!」 こういう時に人間が発する言葉は、いつも決まってそうである。いや本当に、物語とはよくできたものである。でもって、皆さんにはもう、この次にどんなことが起きているか想像ができているであろう。 「やられた!!」 そう、こうして寝てしまった時に限って、その決定的瞬間とは見逃されるものなのである。ちなみに、念のために言っておこう、何の念押しか私にはもうよく分らないが一応だ。 ⇒To Be Continued... |
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