僕のため
作者: 消しゴム   2007年12月15日(土) 15時14分07秒公開   ID:gSb0P7TAWjM
一目惚れだった。彼女があまりに魅力的だったから。
 でも彼女と言う存在は遠すぎた。
  ならせめて、僕は君に近づきたい。
   いつか、思い出したとき、ああ、こういう人が居たなって程度でいい。
    僕は君の中で生きたい。ねぇ、君は僕をどう見てる?


瞳に映る僕

彼女と初めてあったのは小学生の頃。ただ席が隣だったってことくらいだけど、
僕は君の事を強く強く、一日一日とてもよく覚えていた。
彼女にとって僕はきっと隣人にも満たない、ただの小5の男子にしか見えなかっただろう。
君の親が転勤したせい、僕はずっと君の父のせいにしていた。
5年生のあの夏。君は茨城に引っ越してしまった。
さよならなんて言えなかった。周りの目が気になってしまって。
ただ、皆と一緒に「今までありがとう」と話しただけ。
言えなかった。そんな勇気、僕には持ち合わせていないんだ。
今まで居た隣が急に居なくなる、初恋の相手はもう居ない。
悔やんでも悔やんでも、今さら遅い。
「もう会えないんだ」自分自身そう言ったら泣けてきた。
それが僕と君の初めての出会い。



これは運命だ。そう僕は強く思えた、希望が持てた。
寒い冬、ずっと外にも出ずひたすら勉強した甲斐もあり、入りたかった高校に無事入学。
すっかり受験でなまった身体を少しでも動かそうと、河川敷にやってくる。
そこで見た、彼女を。一目見た瞬間から思った。なんの根拠も無いのに確信していた。
少女は体育座りで川を見ていた。桜がまるで小さな船のように下へ流れていく。
あの幼いながら確かに思ってた、彼女の事を。嬉しさより先に涙が出る。

――きっと彼女は自分を覚えていない

そんなこと知ってる。だって彼女にとってはきっと僕はただの隣人。
そんなもの覚えているはずが無い。ならせめて、彼女に近づきたい、と思った。
春のさわやかな風が頬をなでる。彼女に近づき、できるだけ初対面のように声をかけた。
忘れられてる事が怖い。しかしそれ以前に彼女が別人かもしれない。
「こんにちわ。同じ学校ですね、僕は笹川、宜しく」
思い続けた人にそっけなく言わなくてはいけない、辛かった。
そして僕のカンは当たっていた。綺麗な笑顔で答える。
「こんにちわ。私西村、宜しくね」
風に流れる彼女の綺麗な長髪。喜べない。
やはり彼女は忘れていたのだ。もちろん覚悟はしてたけど、やっぱり苦しい。
無理やり作り笑いをして彼女と向かう。
言いたい、自分が君を好きだった事を。
でも君は忘れてる。昔のことを思い出せるとは僕は思わない。
何の特徴も無い男子を、ただ隣だったというだけの理由で覚えてられない。
せめて、彼女に近づきたい。どんな形でもいい。今度こそ、彼女と、せめて……会話したい。



筆箱をあさってる君を見た。隣から。僕は彼女を見ていた、授業なんて聞いてるより、彼女を見てたかった。
それを彼女は気づいてただろうか?気づいてたとしてもそれは恥ずかしいが……いつも君を見ていた。
消しゴムが見当たらないんだ、僕はすぐ直感した。
あってるかどうかは知らないけど、おずおずと左手を出す。
「貸そうか?」
短く、小さく彼女に言った。「ありがとう」と消しゴムを手に取り念入りにノートを消していた。
そんなことも、きっと彼女は覚えていないんだろう……。



僕はついている。ここに来て神は僕の味方になったようだ。
彼女と同じクラスになったのである。そして僕らは隣同士の席になった。
今度は彼女からすぐに声をかけてきた。
「ね、同じクラスになれたね?」
優しい、女神のような微笑だった。それでも素っ気無い態度をとるしかなかった。
年を重ねてもなお、他の皆に何か言われそうで、それが怖い。
「そうだね」
短い返事をし、ようやく気づいた。
自分は変わってない、このままじゃ、また小学生の時みたいに、きっと彼女は遠くへ行ってしまう。
自分の出せるだけの勇気。彼女に言う。
「友達になってくれませんか?」
きっと声は震えていただろう、聞き取りにくかっただろう。
彼女は柔らかくふわりと答える。
「いいよ」
これだけの会話なのに僕のテンションは高くなる。
彼女ともっと親密になりたいなんて思ってない。
別に彼氏になりなんて大それたことは思ってない。
ただ、近くにいたい、彼女の近くに行きたい一心だった。
やがて彼女にも彼氏が出来る。やはり僕は恋愛対象に入ってはいないようだった。
でも、僕は君に触れるそいつが嫌いだった。いつも見てた。
どんなに見るのが辛くても、僕は君を見ていたかった。

二人の仲は壊れた。それは僕のせいだ。
そうなるように仕組んだのだから、別に驚く事もない。
ただ僕は、彼が思ってる事を素直に彼女に伝えただけ。
脆い物だ、見てて痛感した。
悲しみにくれる彼女に僕は声をかける。
きっと涙を見られないようにと走ったんだと思う。
そして交差点。一瞬何がそこにあるか気づかなかった。
頭が理解したのはそれを見て数秒たった後。
彼女に向かう大型トラック、当たれば死ぬであろう、その大きな異物は彼女を潰そうとする。
僕は走る。何故そうしたかは分からない。
ただ走ってる最中思った事はこのまま行かなければ僕は……一生後悔するだろう。
思いっきり彼女を突き飛ばす。一瞬の安堵、そして衝撃。
自分が浮いたような錯覚にとらわれそして空を見る。
仰向けになって、見えるはずは無いのだが、確かに思えた。
赤い、生暖かい液体が流れる。彼女が僕を見ていた、確かにそう思えた。
それが……僕の、最期。

「彼女のためだったんだろうか」

真っ白な世界で、僕に問いかける。首を振る、違う。と強く叫ぶが、声は出ない。

でも、切ないほど、強く思った。



身代わりになったのは、ほかでもない僕のため。

■作者からのメッセージ
これ一体いつ書いたんだっけ?
でも、読み返しても別に悪いとこ見つからなかったし、
そういう意味では批評辺り欲しいな、と思いまして。

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