完全自殺防止プロジェクト | |
作者:
麒麟
2007年11月08日(木) 05時48分27秒公開
ID:vwMtiCpyPYk
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自殺は人間本来の生存本能に反する行為である。 では何故、人は自ら命を絶つ行為ができるのだろうか? 生きることが医療技術の発達でできる一方、死とは自殺などでこれまた簡単にできる。 いつしか生と死は、人間が野生だった頃よりも格段にその境界が曖昧となってきている。 ではここで皆さんには、少々時間旅行をしてもらいまして その生と死が最早分らなくなってくる世界を見てもらいましょう。 時は今から何百年も先の西暦2X4X年。 某近未来国家では、度重なる民族・宗教紛争の影響による世界大戦で、 国民の大多数が疲弊していた。 爆弾、核、生物化学兵器、大量殺戮マシン・・高度文明により開発された数々の兵器は、 世界中で多数の死者を出したことはまだ記憶に新しい。 その忌々しい世界大戦が終戦を迎えて早9年。 人々の受けた心身の傷は癒えず、高度な兵器によってもたらされた被害はいまだに回復しない。 生きる希望を失った人々が多数を占めるこの近未来国家は、 いつしか自殺者数世界一という不名誉な記録を打ち出してしまう。 2位の国家の100倍近くは自殺者数の多いこの国家。 ペースとしては10分に1人は自殺でこの世を去っている。葬儀屋は大儲けだ。 もっとも、その葬儀屋も自殺をしているという問題点は存在しているが・・ 国としては、国際的な立場も兼ねて、これ以上の自殺者数増加は何としても防ぎたかった。 そこでこの国は、その独自の高度な科学技術を自殺防止作戦へと注いだ。 もはや戦後復興は二の次・・そして遂に、最強の自殺防止国家が誕生した。 「いやぁ・・自殺防止プロジェクトも大きな成果を残しましたな」 「まったくだよ、今年は自殺者0を達成しましたからな」 某国の大統領官邸で、大統領と科学技術庁長官が話している。 「これで我が国の急激な人口減少も歯止めがかかるでしょう」 「いやはや、まったくだよ」 とここで、扉を開けてもう1人の入ってきた。 「大統領、共和国が軍備を増強しているとの一報が!!」 「何だって!?」 入ってきた男は国防大臣。 「共和国はもしかしたら、この戦後復興が未だに進まない我が国に対して、今がチャンスと見て攻め込み、300年前から続いているT島の領土問題を武力で解決させようとしている線が濃厚で・・」 「つまり合衆国の情報は正しかったわけか」 大統領は自身の椅子に座って頭を抱える。 「この事態を防ぐためにも、何としてもこの国内の自殺者問題を落ち着かせて、復興を成し遂げなければ・・」 国内問題の鎮静化。それが戦後9年たったこの国の最優先課題だった。 ここで物語の舞台は大きく変わる。 大統領官邸のある首都からやや離れた街。 1人の男が自室で頭を抱えていた・・。 「うぅ・・アケミ・・お前が死んじまって、俺はどうしたらいいんだ」 愛する女性を病気で失った男。部屋にはたくさんの酒瓶が転がっていた。 「もう、俺・・生きる自信ないよ。死にたい・・お前のところに行きたいよ」 そう言って、今ここで手首を切ったらどれだけ楽だろうかと考える。傍にあるカッターに手を伸ばそうとする男。だが・・ここでいつものあの気配を感じる。 「・・!!」 またである。男のアパートの窓から、あの忌々しい浮かぶ球体のマシンがこちらをカメラのレンズで睨んでいる。 「死にたくても、あいつがここ数日ずっと、俺の部屋の前にいる」 自殺防止のためのこのマシン。男は知っていた。正式名称・自殺者探索防止巡回浮遊機。球体であることからいつしか、別名・ゼロと呼ばれていた。 「・・くそっ」 カッターに手を伸ばすのをやめる男。今すぐにでもカッターで手首を切ろうものなら、あの球体はレーザー光線で窓ガラスをぶち破ったのち部屋に侵入し、男に向けて催涙ガスを発射。下手すればカッターをレーザーで撃ち落としてしまうだろう。 「前に聞いたことがある・・首を吊ろうとしてもあのマシンがその縄を切っちまうんだ!」 球体はジッとこちらを外から眺めている。いや、監視している。 「どうやったら・・どうやったらアイツのところへ行けるんだ!!」 頭をクシャクシャにしながらのたうち回る。生きる気力を失い何も食べずに部屋で倒れていた1ヶ月前。男はこのまま死にたいと切に願っていた。 「なのに・・なのに!!なのに何だよあれは!!」 玄関のドアをぶち破ってきたゼロが、この男の口を無理やりこじ開け栄養剤を流し込んだことは言うまでもない。とてもあの小さな球体からは想像できない性能である。あくまで今の時代では・・ 「くそっ・・くそっ・・だったら今すぐ死んじまえばいいんだ!即死だったらいいんだ!!」 男は立ち上がると、外にあのマシンがいるか確認した。案の定まだ見張っている。男は窓をふと開けた。 「あ、あんな遠く離れたところで自殺志願者が飛び降りようとしてるぞ!!!!」 そう白々しく叫んで、遠く晴れた鉄塔を指さす男。自殺と言う言葉に敏感に反応したゼロは、すぐさま鉄塔へとすっ飛んだ。 「はっ!馬鹿な機械め!だいたい自殺に敏感すぎんだよ!!」 窓を閉め鍵もかける。ガスの元栓を抜いてガスを部屋に充満させる。だが、窒息するまで待っていたらゼロを窓をぶち壊し、すぐさま部屋の換気を始めるだろう。ならばだ。 「球体野郎め!まだ見えねぇから大丈夫だ!」 外を確認した男は、ライターを取り出した。そう、この部屋で火をつけて爆死するつもりなのだ。 「これなら即死、絶対死ねるはずだ・・待ってろ、アケミ」 ライターの火をつけようとした男。だが、この高度な科学技術を誇るマシンは見逃さなかった。 ・・バシュン!! 刹那、ライターが木っ端微塵に吹き飛んだ。 「へ・・?」 気がつくと、窓に小さな穴が開いていた。それは以前見たことがあった。ゼロがレーザー光線を発射した跡だ。 「嘘だろ・・あの4キロは離れてる鉄塔からだぞ・・」 口をパクパクさせるしかない男。しかしゼロの行動はそれだけではなかった。その4キロ離れた場所から今度は、窓を何度もレーザーで攻撃し打ち破ったのだ。しかもこれまた親切に、男には照射されないように威力が調節されている。恐るべし近未来科学技術だ。 「畜生!だったらアイツが来る前に!!」 男は割れた窓を開け放つ。下はコンクリートで舗装された地面だ。部屋はちなみに3階。飛び降りるには十分すぎる。 「待ってろ!アケミー!!」 そこまで死にたい男も珍しいと言えば珍しい。窓から勢いよく飛び出した男。この早さならゼロも止められまい。 ・・バサッ!! 「へ?」 刹那、男の体はフワリと・・それこそコンクリートとは程遠い肌触りを感じた。 「っておい!なんじゃこりゃ!?」 男はコンクリートではなくクッションの下に落ちていた。正式名称・飛び降り自殺者自動防止巡回式クッション。別名・クッションである。そのまんますぎるが・・ このクッションは巡回しているゼロから指令を受けて現場へと急行する仕組みになっている。半径50メートル以内に5つは設置されており。普段はクッション機能を隠して、ステルス迷彩で姿を消しているとも言われている。移動スピードはとにかく半端ない。 「ソコノ男。直チニ自殺行為ヲ止メナサイ。応ジケナケレバ、自殺志願者強制更生所ヘト連行スル処置ヲ下ス」 いつの間にかゼロが頭上にいた。男は完全に自殺行為を読まれていた。 「更生所だと・・ふざけんな!あそこに連行された奴らは皆、『生きてることって素晴らしい☆』って言いながら笑ってるだけじゃねぇか!!」 更生所・・という名ばかりの洗脳行為が行われている匂いがするのは、読者だけではないはずだ。というか怖すぎる。 「ソノ通リ、生キテル事ハ素晴ラシイノダ」 「冗談じゃない!!」 傍から見ればどちらもメチャクチャである。むしろ男が間違っているだろう。 「くそっ!こうなったら是が非でも逃げきって死んでやる!」 逃げきって死ぬ・・これ程までに違和感を感じる言葉は未だかつて聞いたことがない。がしかし、話はそんなことはお構いなしに進んでいく。 「ソコノ男!待チナサイ!」 男は走り出す。ゼロの追跡が始まる。しかし男の脚力ではどう足掻いてもゼロの速度には敵わない。そこで、通りすがりの自動車の前に飛び出した。 ・・キキィーー!!!! 車がありえない止まり方をした。というか、見えざる力で強制的に男の目の前で止めさせれたというべきか。これがこの国の全自動車に設置された、正式名称・自殺飛び出し防止自動強制ブレーキ機能。別名・強制ブレーキである。というか別名が必要なのかが私には分らない。 「何だてめぇ!いきなり飛び出してんじゃねぇよ!!」 強制停止させれた自動車は、大工の軽トラックだった。 「悪い、だけど今やばいんだ!とりあえず俺を乗せろ!!」 男は大工の言うことなど気にせず、助手席に無理やり乗り込んだ。 「ソコノ車!直チニ停止シテ男ノ身柄ヲ引キ渡セ!」 そこでゼロの存在に気づいた大工は目を丸くした。 「てめぇ、自殺しようとしてんのか!?」 「だからなんだ!?今すぐ車を発車させろ!!」 その言葉の血の気を失う大工。 「てやんでぇ!ふざけんな!それでもし自殺されたら、俺が改正自殺幇助罪で逮捕されちまうじゃねえか!!悪いことは言わねぇ、生きろ!!」 改正自殺幇助罪・・自殺幇助をした人間は問答無用で死刑に処する。内容はそれだけである。 「うるさいな!じゃあお前は降りるんだ!!」 男は運転席の大工を外へ押し出した。と同時に、ゼロから男に向って超強力催涙ガスが噴射される。 「あの洗脳更生所送りになるくらいなら・・絶対死んでやる!!」 しかし男が運転席のアクセルを踏む瞬間のほうが早かった。間一髪催涙ガスを逃れた男は車を走らせて逃走を図る。 「どうしよう・・どうするか!?樹海に入って死のうかと思ってたが、今じゃニュースで樹海自体が焼き払われてなくなってると言ってたし・・」 自殺防止とは言え、貴重な酸素排出源である緑を焼き払う近未来国家・・恐るべし。きっとこの時代は地球温暖化などと言う問題は解決してしまっているのだと信じたい。 ・・ファン、ファン、ファン しかし男のそんな思考回路も吹っ飛んだ。 「そこの軽トラック、直ちに止まれ!!」 目の前の道路を無数のパトカーが占拠していた。 「お前を“自殺実行罪”で逮捕する!!」 スピーカーから聞こえてきた警官の言葉。自殺実行罪。自殺を実行しようとした者で、特にその実行具合が酷い場合、1年間の自殺志願者強制更生所送りとなる刑だ。それでもダメな場合、自殺志願者は一生自殺できない管理下に置かれた、自殺志願者特別収容拘置所で終身刑となる。 「くそっ、警察にも俺も捕まえようっていうのかよ!?」 ゼロは警察に自殺者志願者が暴走した場合、それを伝達する機能を持っているという噂である。とにかく、この近未来の情報システムには少し興味が出てくる私である。 「どうすりゃいいんだ!?このまま突っ込むか!?そしたらいっそ死ねるんじゃ・・いや、強制ブレーキが作動して突っ込めねぇか・・・・でも待てよ?」 男はふと考えた。もの凄いスピードで進んでる車・・ここで停車前に運転席から飛び降りたら何とかならないかと。 「けど、この道じゃ飛び降りても死ねるかどうか・・そうだ!」 男はパトカーが道を封鎖している脇にあった小道へと、ハンドルをこれでもか!と言わんばかりに回すと、その脇の小道へと侵入した。 「あ、こら待て!!」 スピーカーから聞こえる警官の声は無視。警官たちが必死になってパトカーで追跡を始める。上空からゼロがしきりに停止命令を叫んでいる。 「もうちょっとだ・・!!」 男が目指した先、そこは首都高速の入り口だった。がすでにここも、警官の連絡があったのか道路交通公団が首都高入り口を封鎖しようとしていた。 「頼むからどいてくれぇぇ!!」 公団のパトカーにぶつかると、事故死の恐れがあるので強制ブレーキは作動する。だったら激突しないようにするしかない。そういうわけで男は必死にハンドルをきり避けながら、封鎖されかけた首都高入り口に滑り込んだ。 「よし、何とか首都高に侵入できた。ここなら・・」 軽トラの最高時速を思いっきり出す。これならコンクリートに激突して死ねる。この勢いなら絶対に死ねる!男はそう確信した。背後から迫るパトカー、頭上のゼロ。 「はは・・勝った、これで勝てたぞ!」 勝利が自殺・・何を間違えばそうなるのか甚だしく疑問だ。 「アケミ・・これでやっとお前の元に・・!」 ⇒To Be Continued... |
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