青い紙飛行機 2
作者: ヒリマ=モナ   2007年10月07日(日) 14時41分45秒公開   ID:Vx7Ae10f1ro


涙なんてでない。






青い紙飛行機 2






笑ったはとりを見たのはあの時が最初で最後。そしてはとりの姿をみたのもあの日が最後だった。
机の上に散らばった折り紙を六枚だけ何とはなしに抜き取った。
それらを慣れた手つきで紙飛行機をするりと畳んでみる。
今ではその姿がはとりと重なった。

涙なんてでない。涙なんか流れない。
出来上がったものを両手に持ち、ゴミ箱の上へと手をかざす。

バサ――

次々と、ゴミ箱に吸い込まれたようにして落ちていく。
赤、黄、黒、緑、茶、そして最後の一つを落とした。
すべてが落ちていく、そう確信して目を閉じたが、運が良いのか悪いのかゴミ箱のふちに当たり床の上に落ちた、青い紙飛行機。

涙なんてでない。涙なんか流れない。
もう一度入れ直そうと、それをなんなく拾い上げゴミ箱の上にかざした。
目を瞑って、

「はとり」

その顔は鮮やかに私の瞼に映し出される。
涙なんて――


ポタッ…


目の奥から、身体中から、なにかが突き抜けるように一滴、床に落ちた。
紛れも無く、頬を通ったそれは涙であった。

性格が明るいなんていっても所詮私は犯罪者。
そんな私に、こんなにも人間染みた感情が眠っていたなんて信じられなかった。
いままで被っていたポーカーフェイスの仮面が一気に砕けて、空気となっていくのがわかる。


「はとり」


もう一度口にしてみた。
同時に愛しいという感情に気づき、
同時にいないという事実に気づき、泣いた。

どうしようもない感情に押し潰されそうになって、
けれども、どうしようもない事実がさらに私を押し潰す。

このまま潰されて潰されて消えてしまおうか――
そうすれば、どんなに楽か。


ふと、青い紙飛行機が目に入り、ハッとした。
何かの衝動に駆られて、机に向かって、ペンを抜きとった。
そして、紙飛行機をただの青い折り紙に戻して、白い面にペンで手紙を書いていく。
一字一字、思いを込めながら――

書き終わったら、もう一度それは青い紙飛行機となった。
それを持って外へ、一面緑の場所へ、ゆっくりと歩んだ。


適当な場所で歩みを止め、俯いていた顔を一気に空へと仰ぐ。
青い、空だった。
今までこうも真剣に眺めたことはなかっただろう。
その青さが私の手の中の青と重なる。


青い、青すぎる空に今にも地の果てへと落とされるような、そんな心持になって、叫んだ。今までよりより一層、形の無い何かに胸をさされてしまうようで、
嗚呼、はとりがいないと私は駄目だという事に気づかされた。

途端にまた涙がでてきたが、そよそよとふく風にかき消されて、流れていった。



青い紙飛行機を空へと構えた。
静かに目を閉じる。
脳裏を駆け巡る、思い出。

出会いから別れまで、繊細に、これほどまでに鮮やかに映し出される、愛しい人が、もう二度と会えなくなるなんてと思うと駄目になりそうで、壊れていく音が聞こえるようで、
怖い。


寂しくて、けれども、あの頃のように縋れる人はもういない。


はとり――


ゆっくりと、目を開ける。
それは何かを振り切ったような心持ちで、暫く風になびかれてから、



勢いよく空へと、飛ばした。



はとりが私の手を持って、隣にいるかのような気持ちになった。

青い空へと飛んだ、青い紙飛行機の白い部分から手紙の一部が見える。



はとり



遠くまで飛んで、見えなくなるまで眺めた。



今まで、ありがとう



そして、くるりと後ろを向いて数歩行ったところで振り向き、



大好きだよ



空を仰いで、駆け出した。



バイバイ




  

  *fin*



■作者からのメッセージ
青い紙飛行機終了!
出来上がるまではすごい時間がかかって、何度も書き直したりしてましたからね…(その割には大したことないですが)
ここまで読んで頂有り難うございました!!

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