青い紙飛行機 1 |
作者:
ヒリマ=モナ
2007年10月07日(日) 14時37分28秒公開
ID:Vx7Ae10f1ro
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――カミヒコーキ? 白くて細い指で正方形をするりと畳んでいく。 思わず目を奪われ、驚きと歓声の声を上げた。 『わぁ、何それぇ…』 『はぁ?おまえ折り紙知らねぇのか?』 『うん。ねぇ、なにか教えてよ。』 始めは面倒そうに渋っていたが、そのうちに満更でもないような顔をはとりはして、一つだけ教えてくれた。きっと私が喜びそうなのを考えてくれたんだと思う。 それは本当単純で簡単な―― 青い紙飛行機 1 個室のドアがにぶい音を立てて開いた。人の気配はない。しかし、そこには確実に最近まで誰かがいた跡が残っていた。今までずっと一緒にいたはとりのいた証だ。だから、できるだけ物を動かさずに部屋を移動した。私のベッドとは違い綺麗に敷かれているそれを何とはなしに触れてみる。 冷たかった。温もりはとうの昔に消えてしまったんだと実感する。 もう、このベッドを使う人はいない。温もりを感じることはできない。 ふと、あるものが目についた。机の上に散らばった色とりどりの折り紙。 ――カミヒコーキ? はとりにとって私の第一印象はウザイ女だったかもしれない。 これから任務をこなしていくパートナーとして出会ったが、明るく接する私とは違いはとりは素っ気無い態度だった。そのうち、訳もなくにはとりにちょっかいを出したりしてはそのたびに満面に嫌そうな顔をして追い払われた。他のメンバーもそれを見ていて、なんのこれっぽっちも不思議そうな顔をせずにいた。 つまり、それがはとりという人なのだ。 今まで他人に心を開いたこともなく、笑った顔なんてとんでもない。誰も見たことはなかった。 いつものように、はとりの部屋へ無理矢理おしかけたがいつものように部屋には鍵が掛かっていた。あまりに無視をされ続け、いい加減腹が立ってきたので力任せにドアをノックしまくった。すると、中から伸びてきた手に腕を引っ掴まれ中へと引っ張りこまれた。引っ張られた反動で壁に思いっきり、ステミタックルを咬ましてしまった。 それを怒ってやろうと口を動かそうとしたが、逆に先手を取られてしまった。 『テメー…俺に構うな』 冷たい目だった。冷え切った、温もりが一欠片も無いような灰色の瞳に吸い込まれていくような心持になった。 嗚呼、どうしてこの人はこんなにも―― 『…怖いの?』 ふと、思ったことを口にしただけで、別に深く考えてはいなかった。 ただ、はとりの冷めた目が微かに震えているような気がしたからである。 ドンッ―― 首に力強い手が当てられたのを私ははっきりとわかっていた。しかし、その意識も段々と曖昧になってきて真っ暗な世界に引きずり込まれそうになってきた。 嗚呼、どうしてこの人はこんなにも―― 『そうだよ!怖いんだよ!いつか必ず失ってしまうんだから、絆なんて初めから無いほうが…!』 淋しそうな瞳をしているんだろうか… その途端、意識がはっきりとした。 『私はあんたを傷つけたり、一人になんかしないよ!バカ!!』 閉められた喉から出した、精一杯の声だった。 そして、そこで意識が途切れた―― 目覚めた時の視界に入ってきたのは、真っ白な天井だった。灰色に見えないことも無い。私は何をしていたのだろうかと、先刻までの記憶をたどってみる。あー、そっかぁ〜。と心の中で呟いた。 『……!』 身体を勢いよく起こして辺りを見回した。紛れも無くはとりの部屋だった。もちろん、私が寝ていたのははとりのベッドである。 本人は何か薬品を作っているみたいだ。 『はと、り…?』 返事はない。いつもと変わらないはとりだった。いつもと、同じだった。 そんな中、唯一変わったことといえば―― また鍵が掛かってるってわかってたけれど、まるで何かに引き付けられるかのように私の足は迷いなくはとりの部屋へと向かった。 ドアノブを回した瞬間、いつもと違う違和感を感じた。 スッ ――はとりの部屋のドアに鍵が掛からなくなったことだけ 今思えばあの時、あの瞬間から、私とはとりの溝は無くなったんだ。 机の上の折り紙を見ているうちに、あの時の記憶が鮮やかに脳を巡る。 そういえば、いつだっただろうか…はとりが笑ったのは―― 時雨とボブはとんでもないぐらいに驚いていた。私が、はとりの部屋に鍵がかからなくなった事を話したからだ。 『本当か?それ?』 『たまたま鍵を掛け忘れただけとか…じゃないですねェ。』 そんな事をいっている途中でボブがあることに気づいた。 そういえば、と言うのを前提に。 『そういえば、先ほど私が行ったときは鍵がかっちりかかってましたよ…』 その言葉に私は反射的に振り向き、ボブを強く擬しした。どうゆうことだろうか、と視界をフル回転させて考えたがやはり変である。はとりの部屋に鍵がかからなくなったのは一週間前でそれから毎日部屋に行ったが、一回も鍵が掛かっている事は無かったのだ。 その私を一気に解決に導いてくれたのは時雨の一言であった。 『ナオ、開けてくれてんだよ。お前のためにな――』 ――ある時、はとりの部屋で何かを忙しそうに作業しているはとりを見ているとふと、あるものが目に付いた。 机の上に散らばった、色とりどりの折り紙。 なんというか、とにかくそれが気になって机まで移動することにした。そんな私を見て、はとりは邪魔だと思ったんだろうか、何をしているんだ?と淡々と低い声で言ったのが私の耳のなかを振動していった。 『あのさぁ、これ…』 『あぁ、折り紙か。押入れからでてきた。』 そう言いながらはとりは折り紙の束のなかから適当に一枚を抜きとって、 白くて細い指で正方形をするりと畳んでいく。 思わず目を奪われ、驚きと歓声の声を上げた。 『わぁ、何それぇ…』 『はぁ?おまえ折り紙知らねぇのか?』 『うん。ねぇ、なにか教えてよ。』 始めは面倒そうに渋っていたが、そのうちに満更でもないような顔をはとりはして、一つだけ教えてくれた。きっと私が喜びそうなのを考えてくれたんだと思う。 それは本当単純で簡単な――紙飛行機。 はとりが折っているのを見よう見まねで折っていくと、紙飛行機ができあがった。感動にひたっている私の横ではとりは立ち上がり、紙飛行機を手に持って ふわり。 青い青い紙飛行機は宙を舞いながら軽やかに着地した。 『と、飛んだぁ…』 私も真似して飛ばそうとするが、どうやってもはとりのようには宙を舞わない。 何度も挑戦するが、結果が変わることはなかった。 そんな時、スッ――。 何かとの接触を肌に感じる。顔をずらせば、思ったとおりはとりが私の手を持っていた。 『は、とり…?『いくぞ』 ふわり。 紙飛行機は宙を舞いながら軽やかに着地した。先刻、はとりが投げた紙飛行機と重なる。 『やったぁ!』 『フッ…』 その瞬間、私は耳を疑った。聞き間違いだろうか。 はとりが、笑った。 *next* |
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