闇の暗殺者A |
作者:
消しゴム
2007年10月26日(金) 23時09分16秒公開
ID:AEfTpL95rG2
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〜A・鳩の爆炎〜 泉は他の皆より遥かに秀でていた。怜治や栄斗を始め、誰もが彼に敵わない。 栄斗は学年で上位の順位を持ちながらも泉のほうが賢く見える。 授業で難問をスッスッと解いてゆく、まるで解答でも持ってるんじゃとその場に居る皆が思うくらいの滑らかな動きだった。 それだけでも男子にとっては不評なのに、体育の時間でさえ、もはや彼の独り舞台になりつつある。 授業内容は持久走、運動部が張り切りあう中、一人余裕そうにスニーカーの靴紐を整える。 泉である。始まった直後からトップは泉。全くペースの落とず、ただ彼の走りに何度も背中ばかり見つめている運動部たち。 「……おい、何なん、だ?……」 栄斗が肩で息をしながらの怜治に栄斗は目で泉の背中を見ながら尋ねた。怜治も落ちてくる汗の雫をおさえるのに必死になりながらも、 「……もう、一種の…天才とし、か思えない」 お互い聞き取りにくい会話をして未だ息を切らすどころかニコニコ笑って汗すらほんのりしか滲んでいない、泉を睨んだ。 「もう、あり得ないだろ……」 栄斗が泉に対する不満を述べた。 怜治もまだ虚ろな目で泉を見た。怜治にはやはり、偽者の笑いに見えた。 「変なもんだよな〜」 初授業を終え、夕刻、この紅西(あかにし)高校も生徒は去っていくばかり。 屋上のフェンスにのって呟く少年、泉だ。 「あんな簡単な問題解いて、ただ走ってるだけなのに……、なんであんなに騒ぐんだろ?ねぇ、分かる?ヘル」 すると、その言葉に反応した、ヘルと呼ばれる鳩が彼の肩に乗りさも当たり前のように 「それは啓が賢く、逞しいからですよ」 と答える。天に響くような綺麗なソプラノ声が、その小さな喉から発せられる。 また、泉自身もそれを当たり前に受け取る。あの程度で?お世辞でも受けたかのように彼は苦笑する。 「アレ?動いたよ。レイヤ」 「あららら。どうやらそのよーですね……」 泉の驚いた顔に対し、少し首の辺りを曲げるヘル。 「う〜ん、死なれたり、捕まえられたりしたら困るんだけどな」 「どうします?啓、なんなら私(わたくし)がちょっと追いかけてみましょうか?」 ヘルミアの提案に泉は首をかしげう〜んと唸って 「ヘルが良いと思うなら、それがきっと正解だよ!」 と綺麗な顔で笑った。小さな鳩ははええ、と返答し大空を舞って行った。 学校の帰り道、いつまで経っても泉に対し愚痴を言ってくる栄斗。 怜治は時折どう思う?と言われた際の微妙な顔の違いで適当に相槌を打っていた。 やがて栄斗別れを告げ自分の家に帰るだけ……という時だ。 突然、辺りが暗くなった、正確に言えば夜になったと言うのが正しい。 周りにいたはずの人もいつの間にか消え、ただ建物だけが聳え建っていた。 月夜に照らされる怜治、いきなりの場の変動に面食らった。 「へ?へ?…なな何?」 暗闇に微弱な光を送り続ける月。周りにあったビルはその微弱な光さえ遮断する。 ビルの陰からスウッと人が現れた、がその姿はとても普通には見えなかった。 顔に数多くの傷跡、二メートルを軽く越す長身で、目の視点があってなかった。 こんな関わりたくないような人に話などしたくなかった怜治だが、突然変わったこの風景に対する不安感から閉めていた口を開く。 「……だ、誰…ですか?」 怜治はおずおずと尋ねたが、それは答えない。しかし言葉が聞こえたのか、少しずつそれは近づいてくる。 (逃げなきゃ!) 視点の合わない目でこちらを見られた、様な気がした怜治は何かに操られるように一心不乱に走り始めた。 第六感が働く、全身に電気を走らせたようなビリッとした様な感覚。 言い表せない恐怖が怜治を襲う。走り続け、やがて体力も切れ掛かって後ろに目をやった。 何か分からないものがたくさん、さっきの奴がいっぱい、そこらじゅうから湧くように出てくる。 とても逃げられるようには思えない。 が、既に体力も足の疲労も怜治にとって限界だった。 恐怖、困惑、色々な思いがぐちゃ混ぜになって今すぐにでもここから逃げ出したい、と怜治は思った。 すると、突然辺りに小さな爆発が起こる。的確に一匹ずつ、先程の人間の頭部を爆破、そしてそれは爆発を喰らって倒れていった。 「間に合って良かったですね」 とても綺麗なソプラノの声が辺りを包んだ。 現れたのは一羽の鳩。どこか気品のある雰囲気を感じさせ、怜治はその鳩に見とれた。 どこもおかしな部分は無いのだが、その鳩にはどこか気品を感じさせるものがあった。 が、それは目の前に現れた一羽の鳥の感想であり、未だ怜治の頭は困惑しかなかった。 (ええ、何?さっきの爆発って?なんで鳩がしゃべってるんだ?) 怜治にとっては極めつけ、更なる困惑の種がまかれた。 |
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