貴方ニ復讐シマス |
作者:
カロカロ
2007年09月14日(金) 22時37分49秒公開
ID:2IjY0.Z5nJA
|
『……貴方ニ復讐シマス。 例エ貴方ガ正シイトシテモ、貴方ニ正義ト言ウ後ロ盾ガアッタトシテモ。 私ヲ貴方ガ侮辱シタ事ハ何一ツ変ワリハシナイ。 痛ミハ必ズ貴方ニ戻ッテクル。 刃トナッテ……。』 夏が過ぎ、秋風が吹き始めたある夜、一人の男はこの文章を全く偶然目にした。 しかし、偶然ながら彼は必然的に起きた事だとも思った。 なぜなら、この文章を彼が目にした場所は彼が一日一回は見ている小説投稿サイトだからだ。 小説投稿サイトとは言っても小説の方はオマケのようなもので、サイト全体としてはゲーム等他の娯楽を中心に組まれている。 とは言っても小説の投稿自体は一週間に二回程はあったので、見る側の彼としては左程 オマケという意識はなく、存分に楽しめた。 彼の楽しみ……それは勿論、投稿された作品を読むことでもあるが実際はもう一つあった。 他人の小説に対する評価である。 実は彼自身、少し前までは投稿する人たちのように小説を書き、掲載をしていた。 ある程度知識もつき実力や評判もついてくると彼は自分の力を過信してしまい、偏った主観で多くの作品に評価をしてしまった。それにより、ある者は誤解に満ちた解釈をし彼に感謝の言葉を述べた。またある者は彼の評価に憤怒し、サイトを去っていった。 去っていく者を見た時、彼の言う事はいつも一つ。 「思ったよりも脆かったな」 無論、本人は本当に相手の事を思って評価をしているつもりである。 だが彼の批評自体を見た他の人の書き込みは、いつも何とも言えない歯がゆいものだった。 「言っている事はあってるけど……トゲが」 「そこまで言う必要ないと思う」 本人は、この言葉の意味に気付いていなかった。いや、気付こうとしなかった。 彼の世界の中心は常に自分だからだ。 自分の言っている事は正しい、間違っていない、去っていくのだって脆い相手が悪いからだ……。 こんな事をしていたから、自分を全く悪く思ってはいない彼にとっても自分に見せるため、作者のコメントという誰もが目にしてしまう場所に書かれた文章だと分かったのだ。 しかし人間悪い事を書かれていい気がするものではなく、書いた相手の名前だけでも把握しようと思い、『戻る』のボタンをクリックする。 少し間をあけて画面が切り替わる。最新投稿作品のページだ。 作品名の横に作者名が表示されるため視線を横へと走らすと、作者名が入るはずの部分には味気なく二文字だけが書かれていた。 『無名』 ふざけるなと彼は思った。ここまでしておいて今更名前を伏せるなんて、卑怯者だと感じた。 だが怒りをぶつけたい相手は名前が分からないからどうしようもない。溜息をつくと、彼はパソコンの置いてある机から一旦離れて飾り気のない自室を出て一回の台所に向う。 台所に着くまでの間、少し不気味さと怒りを感じながらも一体誰がやったのかと思考をめぐらす。 あの文章からして間違いなく昔自分が『評価』したことのある人のした事だろう。でも、だとしたらどうして今頃に?……頭の中に疑問符だけが増えていく。 そして、台所についた頃には疑問だらけで頭が一杯になっていた。 さほど考える事でもないのに、何を考えているのかと自分に対して思いつつ、彼は蛇口をひねる。水が出なかった。逆にひねってしまったのだろうか? 極自然な動作で彼は今度は逆方向にひねってみる。水はやはり出てこなかった。 もしかしたら、どこかで水道管が破裂しているのかもしれない……そんな思いが彼を襲う。 だが、もう夜だ。今電話しても水道会社は出ないだろうし、夜に電話するのもと、いつもなら神経質に気にするのに何故だか今夜だけは気にはしなかった。 もう一度階段へと向おうと振り向くと、そこには赤ら顔をした男が包丁を振り上げていた。 男は生まれて初めて本当に恐怖と危険をその身で感じとった。 一体どこから入ってきたのだろう?どうして自分が狙われている?そんな疑問が浮かぶが、頭は混乱して逃げろという指示をださない。足はガクガクといつの間にか震えていた。 包丁を持った男がそれに気付き、唇を卑しく曲げる。 「書イタダロウ?痛ミハ必ズ貴方ニ戻ッテクル。俺ハ、オ前ノセイデ死ンダ。ダカラ、オ前モ死ヌベキダ」 「う、うわあああぁあぁああぁあ!」 やっと脳が足に逃げろと指示を送った。しかし、彼が一歩踏み出すよりも早く包丁が男のノドぼとけに食い込み引き裂いた。 たちまち、彼から出た血で部屋中は血の海になる。 倒れ込み、意識が朦朧としている彼に、男は包丁を持ち替えてニヤリと笑った。 「思ッタヨリモ脆インダナ」 彼の意識と命は、この瞬間途切れた……。 |
|
■一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集 |