風魔の如く2〜月夜の歌姫〜第3話
作者: カロカロ   2007年08月29日(水) 18時53分02秒公開   ID:8XrF0XrWMRE
「おい、見つけたぞ」
朝の静かな道を歩くキブンを、屋根から三人の男女が見ていた。
一人の手には銃が、もう一人の手にはチェーンソー、そして最後の一人は巨大な鉄球の鎖を持っている。
三人とも口にピアスをしていて、不適な笑みを浮かべている。
「ったく、本当に簡単だよな。女一人見つけるの。さてと、早速一発で決めますか」
「折角だから痛めつけない?足だけ打ってさ、三人で拉致ってリンチとか良くない?」
「確かにそれはいいね〜。俺もそれに賛成。この鉄球で腕を潰してみたいんだよな」
「二人とも焦るなって。俺たちの目的はアイツの右手にある石だ。まずはそれを確実に入手してからだろ?」
男は、片目を閉じて銃口をキブンの太ももへと向ける。
そして…
パパンッ!
小さく軽い音が朝の道に静かに響いた…。

《出会い〜銃口の先には〜》
いきなり自分の体が強い衝撃で後ろへと倒れる。
最初の内は一体何が起きたのか分からなかった。
確か神玖達に別れを告げて歩いていたはずなんだけど、何故か自分の身体は鈍痛を訴えて尻餅をついている。石にでもぶつかった?でも、この衝撃はぶつかったと言うよりぶつかられたという方だと思う。
恐る恐る目を開けてみると、自分の腰に神玖がくっついていた。
「痛たた…。何、どうしたの?」
「どうしたじゃない!さっさと逃げるぞ」
神玖は私を立ち上がらせて走り出した。
それと同時に私達を追うようにしてパパンッという軽い音が後ろから追ってくる。
でも、軽く振り返ってみても人の姿は無い。一体、どうなっているんだろう…。
「ねえ、何がどうなってるの?説明して」
「鈍い奴だな。お前、今狙われてるんだよ!お前のいう反王国組織とやらに!」
「えっ、それじゃあさっきからする音は…」
「ああ、お前を狙った弾だと思う」
話している間も、後ろから数回音が鳴る。
もう見つかった?いつもはもっと時間掛かるのに…。
小さな家のところで神玖が急に曲がる。私が続いて曲がると、次の瞬間家の外壁が鈍い音をたてて吹き飛ぶ。
それでも走っていると、不意に頭上から声がした。
「あははは、逃がさないよ〜!」
チェーンソーを持った女性が落下してきて、私達の進路を塞ぐ。
神玖と私は急いで戻ろうと振り返った。しかし、そこには鉄球を持った男が立っていた。
完全に挟み込まれた。
この状況となるとやっぱり自分の式を発動させるしかない。自分の式なら相手に隙を作れるし、この距離なら二人までギリギリなんとかできる。
私が右手に埋め込まれた石に手を伸ばそうとしたその時、足元に銃弾が打ち込まれる。
「あ〜あ、残念でした。実は屋根にも一人いたんだよ!さあ、お前の持つ石…神器を渡してもらおうか?」
「何だか分からないが…キブン、渡すなよ」
「うっさいな〜ガキ。私達さ〜、仕事でやってるんだけど?黙らないとこの子と一緒に殺っちゃうよ?」
「そうそう。お兄さん達はこう見えても優しいから、黙っていれば殺しはしないよ?」
そうは言いながらも、三人の武器は全て二人に向けられていた。明らかに殺意が感じられる。
しかし、神玖はひかない。
「冗談言うなよ?俺だって来た時点でそれなりに覚悟は出来てる。大体、子供二人に大人三人が武器使って恥ずかしくないのかよ?」
『ちょ、ちょっと神玖。あんまり刺激しない方が…』
「あんた達は結局、キブンが怖いんだろ?口じゃそんな事言ってるが、実際は今でも不安なんだ」
「なんだってガキ?」
鉄球を持った男が睨んできた。
以外と簡単に挑発にのった。これで自分に少しでも長く気を引ける。上手く行けば…。
俺は、チラリと屋根を見る。
「だから、体が大きいだけの臆病者だって言ったんだよ。悔しかったら素手で来いよ」
「このガキ、調子に乗りやがって…。そんなに言うなら、望みどおりぶっ殺してやるよ!」
「待て、今陣形を崩すな。急がなくても、俺がこのガキを打ち抜いてやるからよ」
そういうと、屋根の上にいる男は銃口を俺の頭に合わせてゆっくりとレバーを引こうとする。
次の瞬間、銃から大量の水が出てきて男の手を切り裂き、銃を粉々に破壊した。
「なっ!?」
四人が驚いている間に、俺は姿勢を低くして鉄球の男の懐へと入り込む。
そして、男の腹部に全力で拳を叩き込む。
男は「きょえ」という気の抜けた声を出して吹き飛ぶ。
作戦成功だ。実をいうとさっき囲まれたとき、屋根の男の後ろにメツが隠れていたのだ。
なんだかんだ言ってメツもキブンが心配だったということだろう。
あとは簡単で、メツと阿吽の呼吸で敵を襲ったのだ。
こういう時には長い間一緒に暮らしていた事が役に立つ。
でも、あと一人残っている。本当ならキブンにも気付いてもらい、最後の一人をしめて欲しかったが、そう上手くはいかなかった。
今殴った男は当分大丈夫だろうけど、メツが襲った男はすぐに式を召喚して攻撃してくるはずだし、女の方は無傷だから有無を言わさずくるはずだ。
ここは、こっちもメツを呼ぶ必要がある。
「メツ、あれやるぞ!」
「めんどいな〜、アレって疲れるから嫌いなんだよ。そういえばキブンって言ったよな?お前が原因なんだから加勢しろよ?俺と神玖だと大変だからさ〜」
「えっ、あ、うん。わかった!」
生返事をすると、キブンは右手の石に触れる。
石はまるで触られるのを待っていたかのように発光し、光りは彼女の右腕を包み込んだ。
そして、光が消えると腕は前に見たことのある巨大な大砲に形を変化させていた。
自分もゆっくりとはしていられない。メツがこっちに来ると同時にメツの腹部にあたる部分を持つ。するとメツは段々と色を失っていき、透明な水の斧になった。
「行くぞメツ!」
『へいへい』
勢い良く跳躍して家の屋根へと登る。屋根には予想通り、壊れた銃と男がいた。
しかし、男は自分の手を掴んで「痛い」だの「くそ」だのと言っていて戦える状態には見えない。
でも、それならそれでいい。むしろその方が好都合だ。
いくら相手が怪我をしているとはいえ、式同士の戦いなら自分よりも相手の方が数段上だろうし、あんまり時間をかけるとのびてる男の方が目を覚ましてしまう。
俺は小さく息を吸いながら男との距離を詰める。男もやっと気付いたようで後ろに跳んで距離を稼ぐ。
確かに武器の攻撃範囲から逃れれば攻撃はうけないし、相手としては式も召喚できて一石二兆だろう。だが、俺には無意味だ。
「メツ、あいつを捕まえるぞ」
『疲れる〜』
「…飯抜きにして欲しい?」
『すいません。喜んでやらせて頂きます』
「いい加減にしろよガキがぁ〜!!人が後手になってりゃいい気になりやがって!これでもくらいやがれ!」
後退していっていた男はいきなり何処からかナイフを取り出して襲ってきた。
当たる寸前で避けたが、ナイフが頬をかすって血が滴ってくる。
俺とメツが話している間に用意が出来ていたらしい。
「クククッ、この馬鹿が!戦いは最後まで気をぬいちゃいけねーんだよ!」
男は軽いステップで俺との距離を詰めてナイフを振るう。
なんとか避けたりメツで弾いたりして当たらないようにはしているけど、どんどんと後退させられる。このままだと屋根の終わりが来て落ちるか、転んでとどめをさされるのは自分自身分かっていたが、ナイフの細かく速い動きはなかなか隙ができない。
「くっそ!」
「大体、お前みたいなガキに何ができる?所詮は力のないガキじゃねーか!テメーは小石以下だよ!」
「小石だと…?」
昔の記憶が頭をよぎった。
初めて出来た家族、幸せな日々、病気で倒れた家族、そして何もできない自分に向けられた「小石は黙っていろ」という一言…。
俺の中で何かが弾けとんだ。
「お前なんかに…お前なんかに何が分かる!!」
相手のナイフを勢い良く弾く。ナイフは回転しながら孤を描き、屋根から落ちていった。
でも、今はそんな事は関係ない。ただ俺はコイツを倒したい。アイツと同じように俺を小石と呼んだコイツを!
自分でも驚く程素早く怯んだ相手の懐へ入り込む。そして、斧と化したメツを勢い良く相手の腹部目掛けて振り上げる。
『ちょ、ちょっと待て神玖!このままだとコイツ死ぬぞ!』
「知るか。こいつは…こいつは絶対に生きて返さない!」
『落ち着け!コイツはあいつとは違うんだよ!』
「……」
俺は、斧を勢い良く。相手の腹部へと叩き込んだ。鈍い音と、骨の数本折れる感触が手に伝わる。
相手は泡を吹いて後ろに倒れる。外見的には傷ついている様子はない。
「メツ、俺が殺すと思ったか?みねうちだよ」
『ったく、心配させやがって。でも、あの感触からすると本気で入れただろ?肋骨が数本いってたぞ?』
「こっちだって命がけだし、その位はいいだろ?大体、俺相手に『小石』って言ったんだからこの程度は仕方ない」
『…時々、俺にはお前が鬼に見える。まあ、小石なんて言ったコイツも運がなかったんだが』
「それよりも、キブンの方見に行くぞ?心配だ」
『ヘイヘイ』
屋根から下りてキブンを探すと、さっきと同じ場所にいた。
しかし、あの女が見当たらない。
逃げた?でも、あれだけ威勢の良い事を言っておいて逃げるはないだろう。
だったら何処に行ったのかとキブンに訊いてみると。
「ふえ?ああ、あの人なら隣の家の屋根で気絶してるよ?」
自分がいた方と逆の屋根に上ってみてみると、そこには粉々になって原型をとどめていないチェーンソーの残骸とあの女がクレーターのような凹みの真ん中に倒れていた。
「げ、激戦だったんだな」
「そ、そんな事ないよ。私、五人の中だと弱い方だから逃げ回ってて、上に跳んで逃げた時に軽く打ったのが偶然当たっただけ」
赤面してキブンはうつむく。
思わず苦笑いがでた。
偶然、その上軽く打ったのがこの威力…確かに化け物じみている。
俺がいなくても十分勝てたんじゃないだろうか?
てか、心配してきた俺って一体…。
「で、でもどうしよう。この人たち多分すぐ起きちゃうよ?そうしたら私また襲われるかも」
いや、ここまですれば追う以前にまともに歩けないだろう。と突っ込もう思ったけどやめた。
まだ会ってから時間はそんなに経ってないが、これだけは言える。キブンは天然だ。
「そうだな…。やっぱり俺の家でお前をかくまうよ」
「えっ!本当に!?」
キブンはキラキラとした目でこっちを見る。
こんな天然を放っておいたら、奴らに追われてうっかり町一つ破壊しかねない。
それに、何故だろう?こいつとは他人のような気はしなかった。
もしかしたら、昔一緒に住んでいたアイツに似ているからなのかもしれない。
と、不意に大切な事を思い出した。
「あ!やばい!」
「どうしたの?」
「今日、仕事あったんだった!時間は…ああ!もうこんな時間かよ!?急がないと!キブン、俺の家への帰り方分かるか?」
「う、うん。覚えてるけど」
「じゃあ、俺達仕事場に行くから、家で待っていてくれ!メツ、急ぐぞ!」
だが、見回してもメツの姿は何処にも無い。
でも確かついさっきまで声がしていたはずだ。
もしかして、今日は殊勝にも先に仕事場にでも行ったのだろうか?
『おい、俺はいつまでこの状態でいればいいんだ?』
「え?」
声は、自分の手に握られた。斧からしていた。
そうだ。すっかり忘れていたが、自分がメツを握っていた。放してやると、メツはいつものヌイグルミに戻り、文句を言い始めた。
「酷いぞ。人が協力してやったっていうのに忘れるとか」
「いや、その〜悪かった!なっ?うっかりとかあるじゃん」
「俺はうっかりで忘れられるほど存在感薄い!?…ちょっとイジける」
そう言うなりメツは腹を背にして、まるで死んだ魚のような表情で小言を言いながら俺の頭の周りをプカプカと浮ぶ。かなりウザいが、自分に非があるだけに文句は言えない。
助けを求めてキブンを見ても、苦笑いで返された。
「わ、わかった!メンチカツを二つから三つに増やそう」
「本当か!?いや〜、神玖さん最高!俺、一生ついていきますよ!」
明らかにこの交換条件を待っていた。なんだかシャクに触るが、ここは我慢しないといけない。
仕事にも遅れてしまいそうだし。
「それじゃあ、行くぞメツ」
「おうよ神玖!」
こうして、俺の家族が一人増えた。
しかし、まさかこれから毎日が騒がしくなっていくとは全然予想していなかった。
そうキブンと出合った時に感じたとても面倒な事になりそうな予感…あれがまさしく当たった。それはまだ先になるけど……。

■作者からのメッセージ
これが今書いてある全てです。
良し悪しはともかくとして、今出せるものを全て出し切りました。
皆様、こんな自分ですが評価していただけたらありがたいです。

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