風魔の如く2〜月夜の歌姫〜 第2話
作者: カロカロ   2007年08月29日(水) 18時52分20秒公開   ID:8XrF0XrWMRE
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歩く事数分、俺達は家にいた。
この家は小さいが、一人と一匹で暮らすなら十分な大きさだ。
まあ、今日は二人目がいるから少し小さいけど。
「んじゃあ、適当に椅子にでも座っててくれ」
「は、はい!」
「別に緊張する事ないって。そうだ、メツとでも話していてくれ。こいつ、話し始めると止まらなくってさ」
メツは、俺じゃなくても分かるほど露骨に嫌な表情をしてきた。
でも、言った以上はこっちとしても引き下がれないし、実際料理をする時メツがいると邪魔になる。
それに、メツは今日あまり働いていない。この位はしてもいいと思う。
「メツ、文句言うと飯抜きだぞ?」
「え〜。めんどい」
「おし、飯抜きな」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!分かったよ〜」
不満そうに言いつつも、メツは少女の方へと飛んでいく。
俺も、キッチンへと向う。
「おし、作るか」
今日は何を作ろう?
結局、家に着くまでは色々あって決めていなかった。
もしかしたら冷蔵庫の中身でも見れば決まるかもしれない。
俺はキッチンの一番奥にある野球ボールのような球体を触る。
すると、球体に入っているものの一覧が映し出される。
この球体が冷蔵庫だ。
昔は機械製だったから人一人分ぐらいの大きさのあるものもあったらしいが、今はそんな非効率的な事をせず、空間を縮小した球体を利用している。
式の力を応用して作られているらしいが、はっきり言って俺には詳しい事は分からない。
分かるのは恐らく俺の幼馴染みである礼夢(らいむ)ぐらいだと思う。
色々と悩んだけど映し出された一覧の中から豚肉、牛肉、タマネギ、もやし等を選んだ。
少し間をおいて、球体から選んだものがポンポンと出てきた。
今日はハンバーグ、サラダ、ご飯にする事にする。
男でも栄養バランスとか気にしない奴とかいるけど、俺はバランスを第一に考える。
長生きするためにも食べるものには気を使わないといけない。
「んじゃあ、まずはタマネギ…」
包丁を用意し、早速タマネギを調理する。
料理はスピード、技術、経験で味が決まってくる。
リズム良くタマネギを切ると、早速フライパンで炒める。
半透明になるぐらいまでやるのがコツだ。
二人とも腹を空かせて待っているはずだ。調理のスピードをあげることにしよう…。
☆ ☆ ☆ ☆
美味しそうな香りと、音がキッチンから聞こえてくる。
いつもの俺なら、この音や香りで気分が上昇しっぱなしなのだが、今日はかえって下降気味だ。
チラリと俺は俺達についてきた少女を見る。
いつのまにか、あの物騒な銃は手になっている。さっきまでしていた式の臭いもしない。
どうやら、こいつは俺のような式とは別の存在のようだ。
「んじゃあ、俺も神玖に言われたからには話でもしないとな。アンタの名前は?」
「キブンって言います」
「キブンね〜。んで、年齢は?」
「は、はあ…一応は16ですけど」
「一応?」
キブンは、コクリとは頷くが詳しく説明しようとはしない。
人間なら、ここで「気持ちを察して…」だとか「聞かないようにする」だとか甘い行動をするのだろうが、俺はそんな事しない。気になれば分かるまでしつこく聞く。
そのせいか、よく野次馬と誤解されてしまうけど…。
「その一応ってどういう事だ?」
「いや、何と言うか説明しにくくって…」
またキブンは黙り込んだ。
なんだか、段々とイライラしてきた。俺は神玖とは違って気が短い。さっさと話してくれないと、限界が来てしまう。
「おし!出来たぞ〜」
振り向くと、神玖が料理を運んできていた。どうやら、結構長い間沈黙していたらしい。
その証拠にメンチカツも消化し終わってお腹の中は空っぽだ。
神玖は料理をおき終わるとメツを見る。
『んで、何かわかったか?』
『まあ、こいつが16歳でキブンって名前って事は分かった』
『それだけ?』
『仕方ないだろ?相手だんまりなんだから』
神玖は溜息をつくと、席につく。
「んじゃあ、まずは食べよう。キブンさんも遠慮せずにね」
「は、はい!」
おいおい、キッチンに行く前よりも緊張してるよ…。
俺はメツが何をしたのかを想像してまた溜息をついた。
食事もなんというか最初から空気が重かったせいで無言。
やっと暗い食事も終わり、話のできる状態になる。
「それでキブンさんはどうして追われてたの?」
「え、えっと〜」
あからさまに相手の方から視線を外す。
どうやら、よっぽど言いたくないらしい。でも、ここまでしてもらっておいて話さないと言う訳にもいかない事は相手自身一番分かっているはずだ。
「言っとくけど、ここで言わないとか無しだから」
「ウッ…!仕方ない…ここまでしてもらってからには言わないと言う訳にも。えっと、事の始まりは今から一週間ほど前になるのですが」
それからゆっくりとキブンは語り始めた……。
☆ ☆ ☆
事の始まりは一週間前、森に隠されるように建てられた建物。
建物には合計40名ほどの式学者、科学者などが出入りしていた。
彼らは王国からある一つの研究を任されていた。
それは式と人間の融合。
本来、式を人間は交わってはいけない存在。同じ世界に存在しても、まるで石と砂のように近いが異なるものだ。
しかし、故に二つが一つになった時には強力なエネルギーが放出される。
現在、この世界にあるもの全ては基本的に瞬間的にその動作を行う事で作動し、半無限的に作動する。
ならば、二つを最初から一つの固体として存在させれば強力な力を持つ人間と式のハーフ、ヒシを作れるのではないかと王国は考えていたのだ。
勿論、そんな事が容易くできる訳もなく、完成には数年を要した。
そして今から一年前、ついに最初の完成した固体であるキブン達五人が作りだされた。
予測どおり、キブン達の力は今までの式の常識を覆す程であったが、その力を欲する者達が現れた。
何処からか漏洩したキブン達ヒシの存在は、反王国組織に感知され、今から一週間前に建物が襲われた。
なんとかキブン達は逃げ出せたものの五人はバラバラになり、反王国組織に狙われるようになったのだ。
そして追いかけられている最中、神玖達に出会った。



一通り説明し終わると、キブンは俺達の顔色を伺った。
こう言っては何だか、にわかには信じられない内容だ。勿論、キブンがここまでその場しのぎの嘘が上手くつける人間にも見えないし、さっきの奴らからして恐らく本当なのだろうが、反王国組織が引っ掛かった。
現在、世界は風魔と呼ばれる王によって統治されている。
式が世界に広まってから、どこの国も対応に困り、終わって行った。
そんな中、日本から一人の少年が王として名乗りでて、葉菊という絶大な力を持つ式によって見事に統治したのだ。故に彼の力は絶大、さらに彼に仕える四大家の力も絶大なため、誰一人として反乱を起こそうなどと思う奴もいなかったし、そもから彼が統治してから世界は全体的に豊かになったので、不満も起きないはずだ。
だから、どうも反王国組織というのを信じられない。
まあ、信じる信じない以前に俺の考えは決まっていたが…。
俺がそんな事を考えているとも知らずに、キブンは俺とメツを交互に見る。
「あ、あの、それでお願いがあって……お二人ともとても強いし、できればあいつ等がいなくなるまで居候させてくれませんか?」
「いなくなるまでって…どの位だ?」
「えっと、恐らくは一年とかそのぐらいで…」
「長ッ!神玖、お前まさかコイツをかくまう気か?」
メツは俺を睨む。
どうやらメツはキブンを気に入らなかったらしい。しかし、俺にとってはメツがどう思おうとも関係なかった。困っている奴を見捨てるのは下衆のやる事だとオヤジさんに昔教わった。ここは助けるべきだろう。
と、昔のことが頭をよぎる。
昔もこうして一人助けたことがあった。でも、その時は…。
…また、あの時のように自分の無力さを痛感するのだろうか?
あんな想いをする位なら、最初から関わらないほうが良いんじゃないだろうか?
どうせ、俺は小石なのだから…。
「いや、悪いが俺もそこまで面倒を見る気はない。悪いが、明日になったら出て行ってくれないか?迷惑だ」
「えっ」
キブンは、一瞬何を言われたのか分からなかったのか戸惑うような表情をした。
俺だって、本当はこんな事を言いたくない。でも、これが本当に両方のためなんだ。
そうに決まってる。どうせ、俺は最後には何も出来ないんだ。
だったら、お互いまだ知らない内に別れた方がいい。
もう、昔みたいなのはこりごりだ。
俺は、さらに力を込めて言う。
「何度も言わせるな、お前を居候させる気はない。大体、強いんだろ?」
「あっ、あはは。そりゃそうだよね。まだ会ったばっかりだし、私がどうかしてた。ごめん、変な事言って」
「別に」
それから風呂に入ると俺達は早々に寝た。
夜も深まり午前一時になった頃、夏の暑さのせいか俺はノドの乾きを感じて起きたてしまった。
横を見ると、メツがしきりにクネクネと動いている。
一応、人間で言うなら寝相…なんだと思う。こういうのを見ていると今まで十六年間メツと暮らしてきたが、コイツが本当に式なのかと思ってしまう。
でも、今はそんな事よりも水だ。一刻も早く飲んで、寝てしまいたい。
今日は普段ならありえない事がおこりすぎた。それに昔の事も思い出したから、かなり疲れている。
ベッドからメツを起こさないように出ると、風が自分の頬をなでた。
「おかしいな。窓は閉めたはずなんだけど…」
もしかしたら寝ぼけているのかもしれない。だとしても自分の性分として、確認しに行かない訳にはいかなかった。
暗闇の中、足音をたてないように窓のある所へと記憶を頼りに歩いていく。
しかし記憶とは不確かで、途中で段差に足をひっかけた。
でも、段々と目が慣れてきて窓の見えるところにつく頃には物の輪郭がそこそこわかるようになっていた。
「あれは…キブン?」
キブンは、俺が見ているのに気付かず窓を開けて外を見ていた。
その目は何処か寂しそうでぼんやりとしている。
『皆…』
どうやら、話していた仲間達を思い出しているらしい。
きっと心配で仕方がないんだ。でも、むやみに動き回るとさっきの奴らが来るから動けない…。
それなのに、今俺はそのアイツらから隠れる場所さえも奪おうとしている。チクリと心が痛んだ。
はやく寝よう。いつの間にかノドの乾きも癒えている。ここで、ずっとキブンを見続けている事は、今の俺にはできない。
ベッドに帰るのには目がなれた事で苦労しなかった。でも、ベッドの中に入ってもメツの異常に悪い寝相と、重い罪悪感でなかなか寝つけなかった。


―翌朝―
「えっと、お世話になりました」
「あ、ああ…」
時間は午前五時半、メツは寝ていて、道にも人気はなく、静かだ。歩いているのは新聞を配り終えて帰っていく新聞配達ぐらいだ。勿論、ここの道自体そんなに人気があるわけじゃないけど、それでも九時にでもなればそれなりに人気はある。
「わざわざ目立つ時間に出て行かなくてもいいんじゃないか?」
キブンは、一瞬キョトンとしたが、笑いながら答えてきた。
「あはは、確かに。でも、このぐらい人気が無いと他の人巻き込んじゃうから」
「そうか…頑張れよ」
「勿論!んじゃあ、そろそろ行くね」
キブンの身なりを見ると、寝袋とか食糧とかそういう旅に必要なものが一切ない。
これじゃあ、行き倒れが目に見えている。
でも、俺の家には寝袋みたいな物もないから、あげる事はできない。
となると、俺のできる事は……。
「あっ、ちょっと待てろ」
「?」
俺は、急いでキッチンに行く。確か昨日のご飯が少しあまっていたはずだ。
冷蔵庫を見てみると、確かにご飯が丁度オニギリ三つ分余っている。
急いでオニギリを作り、包んでキブンの所まで持っていく。
「これ持っていけ」
「これって?」
「ああ、俺が握ったから美味いかは分かんないけど、腹が減ったら食べるといい。少しは膨れるはずだからさ」
「……」
キブンは、驚いたような顔で俺を見つけてくる。
そんな見方をされると、作ってきた事がなにか悪かったのかと不安になってしまう。
「な、なんだよ?」
「いや、何ていうか…意外と優しいんだなって思って」
「と、とにかく頑張れよ?」
「あ、うん!オニギリ貰ってくね。それじゃあ」
元気に言うとキブンは家を飛び出ていった。昨日の寂しそうな雰囲気は全く感じられない。
暫くキブンを見送っていると、唐突に横から声がした。
「あ〜あ、いっちまったな」
「お、メツ。起きたのか?」
「そんな事よりも、神玖いいのか?」
「何がだよ?」
「あのキブンとかいう女だよ」
メツはギロリと俺を見ると、フワフワと飛んで机の上に乗っかる。
どう見ても不機嫌だ。自分からキブンをかくまう事に反対していたくせに、何故か視線が俺を責めている。
自分としても不本意ながらキブンを追い出してしまった事に罪悪感を感じていたから、余計不愉快になる。

⇒To Be Continued...

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