Treasonable Children -ep2-
作者: 世界の住民   2007年08月27日(月) 16時19分37秒公開   ID:X3VGA/8VXOs


 
 ――君たちは退学だよ――



「なんだか、怖いな、こういう真っ暗な校舎」
 祐樹がつぶやく。言い出したのは誰だっつうの……行彦は黙ったままだし、俺のテンションは落ちていくばかりだ。
「そういえば、途中、トイレがあったよな?」
 行彦が思い出すように言う。確かに社会科教室前に普段誰も使わないようなトイレがあったことを、俺も思い出した。
 無論、祐樹の顔がどんどん、不安そうになっていく。昔からこういうところが苦手な奴だったが、高校生にもなって……
「と、トイレってさ……なんかいるのかなあ?」 
 祐樹は震えながら俺に聞いてきた。「知らん」と一言、返しておく。

 まっすぐ歩いていると、曲がり角にさしかかった。ここを曲がれば、社会科教室は目の前にある。だが、その曲がり角の真正面には……そう、トイレだ。確かに、この時間帯だとさすがの俺でも怖い。祐樹は言葉を失い、行彦ですら、笑顔が消えた。
「は、早く行こうぜ!」
 少し声が震えてる行彦であるが、祐樹に比べればマシだ。立ち尽くしたまま、何もしゃべらないし、動かない。俺は祐樹の腕をつかんだ。
「行くぞ!」
 だが、祐樹は動かない。肩をたたいてみると、突然俺を見る。ガチガチを歯を鳴らしている様が見える。
「……どうした?」
「あ、あれ……見ろよ……」
 指差すその先は、トイレだった。ドアが開いている。真っ暗で何も見えないはずなのだが……
「おい、何か、動いてる?」
 行彦がつぶやく。確かに、真っ暗だが、何かが動いてるのがぼやけてだがわかる。しかもゴキブリとかじゃなく、もっと大きい……人間くらいかな?
「これ、ちょっとやばいかも……」
 かれたような声で、祐樹がつぶやいた。行彦は黙ってうなずく。俺はというと、実はこういうのは嫌いじゃなかったりする。
「……わかった。俺が見てくる。待ってろ」

 全く、まだ幽霊には少し時間が早すぎるというのに……心の中で愚痴を言いながら、ゆっくりとトイレに近づく。心臓が高鳴るのを感じた。
 そして、ドアの前で、止まる。明らかに何かが動いている。半開きでもわかるから、思いっきりドアを全開にすることで、正体を明らかにしようじゃないか。
「おい、誰かいるのか?」 
 まずは呼びかけ。でも、応じる様子はない。故に、人間の可能性が消えた(かなり問題発言だが)では、何なのだろうか?
「大丈夫かよ、明仁?」
 後ろから友人の声。どちらかはもう、どうだっていい。 
 ドアのぶを持つ。もちろん、半開きだから重みはない。正直、怖い。
「く、くそ!」
 勢いよく、ドアを開けた……そこにいたものを見て、俺は思わず言葉を失った。


「なんでお前があんなとこにいるんだよ!」
 今、我々4人は社会科教室の目の前の柱に隠れている。
「仕方ないでしょ! ……そもそも、アンタが悪いんじゃない!」
「はいはい、陽子ちゃん、怒らない怒らない」 
 行彦が俺たちをなだめる。そう、トイレで見つけたものとは、陽子だったのだ。


「く、くそ!」
 俺が勢いよく扉を開けた。俺はすぐに逃げ去り仲間たちと合流する。そして、威勢よく叫んだ。
「誰だ! いやなんだ! 出てこいよ!」
 さらに追い討ちをかけるように、鞄から消しゴムを取り出し、投げつけた。物体は少しビクっとする。
「おい! 反応しやがれ! この化け物!」
 もう一発、お見舞いする。そしたらその影は突然立ち上がった(のように見えた)。そしてこちらに近づいてくる。
 俺は半狂乱の状態に陥る。とりあえず、鞄を投げつけるという愚行に出たというのは覚えているのだが。一方、我が友たちは変にあせり始めていた。
「おい! お前らも何とかしろ! 早く!」
「いや、よく見てみろ、明仁」
 気まずそうに行彦は指をさす。どんどん近づいてくるその物体は、正体が明らかになっていくのであった。まず、スカート、そして、特徴的な髪型、毎日見慣れた、それこそ見飽きた顔が、俺の視界に入ってきた。
 それを見た俺は、絶望した――


「……俺が悪いとは言え、あそこまで殴んなくてもいいだろうが!」
 あの後、陽子に往復ビンタを食らった。まだ、頬がひりひりする。理由をたずねると、どうやら陽子も社会科教室から声が聞こえたらしい。その調査のため、トイレに隠れていたとか。まあ、今となってはどうでもいい。
「……時は今しかない、議長、行きましょう!」 
 祐樹が急に元気になる。さっきまでびびってたクセに……陽子も大きくうなづく。とりあえず、のろのろやっててもしかたない、という行彦の意見に全員が賛成した。
「行くわよ! ……ドアの前まで」 
 おいおい、突入じゃないのかよ、と心の中で突っ込みながら、すばやく向かうことにした。今、いる位置から、音を立てないようにドアの前まで来る。そして、耳を押し当てたのだが……
 このあと、衝撃の内容を耳にすることになる――


「……バカどもはほっとけばいいでしょ? 会長?」
 俺らが耳を当ててから、まず飛び込んできた声は俺のクラスの役員、上原優のものだった。
(し、信じられん、あの上原が……)
 隣を見ると、なにやら陽子が自分の鞄をあさっている。そして、何かを取り出した。
「これ……一人ずつ使って。よく聞こえるから」
 ラッパ上のものが俺らに配られた。これは何なのか、そう、補聴器のたぐいだろう。だがおかげで聞き取りやすくなった。
 会話の声は、明らかに生徒会役員ばかりである。俺らそれぞれのクラスに散らばっているようで、お互いに情報を補充しながら会話を聞く。
「どうせ教師は俺らが頼めば大丈夫だよ、きっと」
 少し野太い、男の声がする。
「あの声……うちのクラスの田村だよ、副会長だろ? 確か」
 行彦が伝える。陽子は真剣に聞いていて、聞こえてないようだが。
「バカね、あたしたちだって生徒は生徒なのよ、そう簡単にこの問題を受け入れてくれるかしら?」
 今度は少し大人っぽい女生徒の声がした。
「会計の高倉ね、私と同じクラスよ」
 陽子がつぶやいた。それだけ言って、また口を閉ざして会話に聞き入っていた。
 ガタ、という誰かが立ち上がった音がする。
「やれやれ、これじゃ拉致があかないよ」
  聞きなれない声がする。だが、陽子はワナワナ震えている。
「……須藤啓太。生徒会会長よ」
 
 その後しばらく、彼らの会話は続いた。印象的だったのは上原のキャラの激変だ。クラスではおとなしい奴なのに、ここではもう別人だ。
「バカばっかよ、うちのクラス。まあ、私たち以外は基本、バカだけど」
 他の奴も同じだった。どこのクラスでも生徒会役員は目立たない生徒なのだという。
 
 話は1時間以上続いた。帰ったら怒られることは明白だ。もう真っ暗で、周りがよく見えない。不思議なことに警備員は来なかった。
「ところでさ、君たちは気づかないのかなあ」
 生徒会長が突然、話の最中にこんなことを言い出した。他の役員は「何が?」と聞いたが彼は続けた。
「さっきから、ドア越しに話聞いてる連中だよ」
 突然、俺らの存在知ってました発言が飛び出した。俺はすぐに補聴器を片付ける。陽子だけが動かない。
「へえ、生徒会の役員会を盗み聞きねえ」
「どうしてやろうかしら?」
「いい度胸してんじゅねえかよ、へへ」
 カツカツと、扉に迫ってくるのがはっきりわかる。俺ら3人はすぐにでも逃げられるが陽子は動こうとしない。顔は汗まみれだ。
「まあ、待ちなよ。君たち」
 会長が静止する声が聞こえる。足音が止まった。
「誰が聞いてるのかはわかってる。だからさ、僕たちと勝負しないか?」
 陽子が固唾を飲む音が聞こえる。俺も陽子の近くにいく。
 そして、会長はこうも言った。

「……僕らがやろうとしている企画を、暴いてみせなよ。できたら、総退陣しようじゃないか。一ヶ月以内だよ。もし暴けなかったら……」
 ここで、会長は衝撃の一言を放った。

「君たちを……退学にするよ。生徒会の力で、ね」


 帰り道、4人で暗い道を歩いていた。
「退学、だってよ」
 行彦はため息をつく。俺は、やっと実感がわいてきたって感じで言葉にならなかった。祐樹はやる気満々な感じだ。
「でも、僕らが勝てば、生徒会は我々人民議会のもので……」
「そしたら、会長はもちろん、あたしよね〜」
 陽子が冗談まじりに言う。だが、俺は知ってる。こいつがバカみたいにはじけてるというのは、辛いというSOSなのだと。
 ――やれやれ、こういう日は一緒に帰ってやるか。

「……一緒に帰るか? 陽子?」
 軽く陽子がうなずく。行彦と祐樹は「以外だ……」と口をそろえてつぶやいていた。

 夜の電車の中で、陽子は俺の隣に座っている。客はこの時間帯はもういない。そのためか何となく、寂しいくらいである。
「……ねえ、退学になっちゃうのかな?」
 陽子が不安そうにつぶやく。
「ま、可能性は否定できないな。多分、あいつら俺らのことはキャッチしてたろうし」
「どうしよう……」
 陽子の頭に、ポンと手をのっけた。

「ま、議長様なんだから。弱気でそうするんだよ、俺らも協力するからさ、な?」
 少し、陽子が笑った。まあ、こんなもんで明日は大丈夫なのだろう。もともと、陽子は塾で一緒のころから、辛いことがあると俺と帰ってた。例えば、彼氏に振られた時とか。 どうしても、恋愛感情まで発展しないのが、俺らの特徴である。陽子と俺のこの、付き合いのはじまりについては、おいおい話していくとしよう。
「まあ、俺も真面目に活動しないとな。退学にはなりたくねえし」
「じゃあ、今までは真面目じゃなかったの?」
「え? ああ、いや、それはだな……」


 家に到着すると、まだ親は帰っていなかった。親父は検事で、お袋は親父の事務官である。そのせいか、家にいないことが多い。俺にとっては好都合であるが。
 すぐに飯を食べる。なんかチンしておけ、とだけ書かれたメモ紙みるとマジで悲しいのは俺だけじゃないだろう。 
 さて、飯を食い終わってから、すぐに電話をする。実は別れ際に祐樹が「家に着いたらすぐに電話して欲しい」と言ってたからだ。ちなみに奴の家は全校生徒の中で、最も高校と家の距離が近い。歩いて5分だ。
「もしもし、祐樹いるか?」
「ああ……いろいろ調べてみたよ。まずは、悪い知らせから行こうか……」
 いきなりかよ! と突っ込みたくなるが、それはやめておこう。
「まず、生徒会は一般生徒を退学させることは可能だ」
 予想通り、でも信じたくなかった、そんな事実である。ただ、うちの生徒会はとにかく強いことで有名だ。前にも、理由不明の退学者が続出した時代もあった。確か、理事会にも厚い信頼を寄せられているとかなんとか。
「基本的に、奴らは変な理由をつけて理事会に報告する。それでドカン、だ」
「ちっ……で、他には?」
「ああ、こちらはいい情報だが、おそらく奴らは俺らのことを知らないな」
 こちらは予想外の事実である。詳しく聞いてみることにしよう。
「生徒会役員会の会議を盗み聞きしたものは、その場で退学に出来るんだ。と、いうよりしなくちゃいけないんだ。必ず。だから、連中は把握しきれなかったんだよ、僕らのことを。でも、目星はついてそうだけどね」
「何故?」
「上原だよ。途中ですれ違っただろ? だから僕らを注意深く見張るだろうな」 
 そこだったか……上原は確かに役員の一人だ。俺らの存在は報告してるんだろうな。
「……最後になるけど、「役員組」の連中には気をつけて行動しろよ」
「役員組? なんだそれ?」
 聞いたこともない組織の名前だった。後で陽子にも連絡しておこう。
「役員組ってのは、生徒会の顧問やってる草野のクラスにいる、生徒会派の連中だ。僕らの学年に運悪く、今年はなった。だから、連中も僕らのことを見張ってる。それに各クラスにも、何人かいることを忘れるなよ! じゃあな!」

 この後、陽子にこの事実を報告した。明日の朝早くに、駅の喫茶店で落ち合うことを約束し、これらの対策を話し合うことにした。行彦には祐樹から話し済みであるそうだ。
 ベッドに寝転がりながら、少し笑みがこぼれた。

(……案外悪くないな、こういうのも)


 いよいよ、生徒会と俺らの戦いが始まる。明日から一ヶ月間で奴らの計画を暴く。そして、生徒会を乗っ取る。
 だが、もちろん、そこには多くの試練が待ち受けていた……


 ――to be continued――
■作者からのメッセージ
 
 世界の住民です。自分自身でも驚くほど筆が進んでいて、非常に楽しく執筆しているところです。まあ、一時期、全くアイデアが浮かばないこともありましたし……
 また、アルバム用に小説がひとつ、完成しました。この調子でもう少し執筆してからアルバムを製作したいと思います。
 それでは、感想・批評をお願いします。

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