風魔の如く〜始まりの紅月〜
作者: カロカロ   2007年08月25日(土) 16時01分44秒公開   ID:qL75K9Ot0tc
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《プロローグ〜紅い月〜》
ガキンッ!カキンッ!
秋風吹く夜、二つの影法師が金属音と共に、幾度もぶつかり合っていた。住宅街が近くにあるせいか、遠くからは犬同士の呼び掛け合いが聞こえる。
徐々に二つの影法師の動きが激しくなり、それに合わせるように、金属音と犬の声が頻繁になっていった。
ガキンッ!カキンッ!キンキンッ!
『ワオ〜ン!』
何処かの犬が取分け大きく吼えたその時である。
グジュァ!
一方の影法師を、細長い影が貫いた。舗装されたアスファルトの地面に紅い液が飛び散る。
「グハッ!」
一方の影法師が怯む。その間も、地面には絶えず紅い液がとめどなく流れ出る。
「これで終わりだな・・・・」
もう片方の影法師の良くとおる声が冷淡に言い放つ。
しかし、よろめきながらも、影法師の目には、絶望の色は無い。
「マダダ・・・マダ負ケテハ、イナイ・・・・・」
そう言うと、陰法師は、服の中から何かを取り出し、地面に叩きつける。
「なっ!」
辺りに霧のようなものが広がり、視力を失わせる。
視力を取り戻した頃には、紅い液を垂らした影法師の姿は消え去っていた。
「ちっ!逃がしたか・・・」
そう言いながら、影法師は先程まで、相手のいた地面を見る。
そこには、影法師の流した液が、点々と寝静まった住宅地へと続いていた。
「虹ヶ丘市・・・。よりにもよって、ここに逃げ込むとは・・・」
そう苦々しげに言うと、影法師は紅い液をたどっていく・・・・
溜まった紅い液の中には、月が紅く輝いていた・・・

《全ての始まり》
秋・・・それは、多くの人々にとって、身の回りの環境が変化していく季節である。
好きだった番組が終わる。気になる人が出来る。新しい環境に慣れて居心地が良くなる等等、人によって様々ではあるが、何かしらの変化が有るものである。そして、それは本作の主人公にとっても例外ではなかった・・・
「あ〜、いよいよ今年も、後半か〜・・・」
虹ヶ丘高校二年、神野晶(17)は、秋空を見上げながら、しみじみと言った。
ここは私立虹ヶ丘高校の屋上、今は昼休みである。
晶が暫く、ボーっとしていると、横から声がした。
「何、言ってんの。それが、ここで毎日、季節を感じてた人の言う事?」
晶が起き上がると、そこには、パンを持って立つ、少し童顔な女の子がいた。
「なんだ、桜井か・・・」
「何だとは失礼ね〜」
そう、少し不満そうに言うと、桜井杏子(16)は女子らしく、床のホコリを掃い、横に座った。晶と杏子は、中学生からの同級生である。この杏子、顔は中々なのだが、持ち前の男気ある行動のせいで、クラスの男性陣からの人気はからっきしだが、女性陣からの人気は、かなりのものである。しかしながら、マイペースで『女、男は関係ない』をモットーにしている晶にとっては、気軽に付き合える友人である。
杏子は、持ってきた『学内限定あんぱん・デラックス』を開けると、食べ始めた。
辺りに甘い匂いが漂う。
暫く食べると、杏子は食べる手を止める。
「どうした?もう食べないのか?」
「ううん、そうじゃないけど・・・」
そう答えると、杏子は黙り込む。
辺りに、なんともいえない気まずい空気が漂い出した。
(居心地悪いな・・・)
「なんだよ?お前らしくない」
少し考え込むようにすると、杏子はいきなり、とっぴよしのない事を言い出した。
「ねえ、妖怪って信じる?」
暫くの沈黙が訪れた。流石に、マイペースな晶でもこれにはビックリしたのである。
妖怪なんて、今時、小学生だって信じていない。
「えっ?何、お前って不思議ちゃんキャラだっけ?」
「違うわよ!ちょっと昨日、変なもの見て、気になっちゃって・・・」
「変なものって?」
杏子は、神妙な面持ちで語り出した。
「学校裏の小屋って知ってる?ほら、あの青い屋根の」
「ああ、あれか・・・」
晶の頭の中で映像が展開される。
湿っぽい林の入り口にある窓ガラスが割れたり、腐ったりしている使われなくなった物置小屋である。昔は、学校の資料とかを入れておいたりしたそうだが、今は、もっぱら怪談や暇を持て余す時の、話の種になっている。この学校の生徒で知らない者はいない。
「昨日、見たのよ。偶然なんだけど、割れたガラス戸の向こうに、紅い眼が二つ、光って、こっちを見ているのを・・・」
「馬鹿らしい。怪談話の聞きすぎだろ?」
「違う!確かに、あれは眼だったの!」
そう言うと杏子は、見た状況について熱弁し出した。元から、男気が有るくせに、お化けとかは苦手なので、こうなると、杏子は信じるまで話しを止めない。しょうがないので、晶は、話を合わせることにした。
「分かった。そんなに言うなら今日、放課後に見て来てやるよ。それで、いなかったらお前は諦める。いたら俺の負け、それでいいだろう?」
「でも、襲われるかもよ?」
「何言ってるんだ。俺が前、空手やってたの知ってるだろ?大丈夫だ」
「本当?」
杏子が晶の目を覗き込む。
その時である。休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
キーン、コーン、カーン、コーン!
「ほら、そろそろクラスに戻るぞ?俺が調べといてやるから」
「うっ!分かったわよ・・・。それじゃあ、お願いね?」
「ああ・・・」
二人は、屋上から降りていく。それとは入れ違いに、屋上に降り立つ者がいた。
「虹ヶ丘高校・・・あとはここだけか」
そう言うと、その者は髪の毛を掻き揚げる。綺麗な紅の髪が、まるで川のように流れた。
「全く、本当に厄介なものだ・・・。民間人に知られないようにしないといけないなんてな・・・」
次の瞬間、その者は屋上から飛び降りていた・・・
――放課後――
「あ〜、すっかり暗くなっちゃったな・・・」
晶は一人、学校裏に向かいながら言った。手には安物の懐中電灯が握られている。
時刻は六時過ぎ、この季節、もはや日が沈もうとしている。
暫く行くと、目的地が現れた。
木で作られた扉は、いたる所に黒いシミが出来、常に半開きで風に揺れている。
その扉が入り口となる物置であった物は、晶が記憶していたよりも、傷みようが酷かった。
取り付けられていた古い窓ガラスは、全て割れて地面に散らかり、ベニヤ板で作られた壁は、所々に歴史の跡をうかがわせる傷と穴が空いていた。
晶は、その外見に少し、薄気味悪さを覚えながらも、扉に手を伸ばす。
「・・・!」
晶は、扉に伸ばした手をとっさに引っ込める。誰かの視線を感じたのだ。
辺りを見回してみるが、誰の姿も無い。
(ま、まさかな・・・こんな所に誰も居る訳ないしな)
しかし、そうは思ってみるものの、なかなか見られている感じは拭いきれない。
(な、な〜に、ここを開けて、中を確認すればそれで済む事じゃないか、何を俺は戸惑ってるんだ?)
そのうち、脂汗が出てきた。脂汗で滑る手を、晶は拭った。
晶は意を決して扉の取っ手を押す。
ギギー・・・
軋む扉を開けると、そこは、ただの使われなくなった物置である。
それを確認すると、晶から一気に脂汗が引いていった。
「な、なんだよ。何も無いじゃん。杏子の奴も怖がりだな〜」
晶は物置小屋の中に足を踏み入れる。何も無いと分かった以上、何も怖がる事は無いのだ。
ベニヤ板の床は、晶が歩くたびにギシギシと悲鳴を上げた。
晶が小屋の奥まで来て、戻ろうとすると。
ギギー、バタンッ!
小屋の扉が、いきなり閉まった。外からの光が遮断され、小屋の中が途端に暗くなる。残った光は、晶の手に握られた頼りない懐中電灯だけである。
やがて、その懐中電灯の光も、頼りなく点滅し始める。
「お、おい!ちょっと待てよ。電池、交換したはずだぞ!?」
しかし、晶を裏切るように、懐中電灯の光は止まった。
たちまち、小屋の中は完全な闇と化した。晶の焦りが頂点に達し、先程引けたばかりの脂汗が出始める。
「そ、そうだ。入り口から出よう」
そう言うと晶は歩き出す。しかし、晶には、いくら歩いても扉に近づいていないように思えた。やっと晶の手がドアノブに触れようとした時である。
『ギョゴロロロ!』
小屋中に獣とも、人間ともつかない雄叫びが響き渡る。我慢できなくなり、ドアノブを引くが、扉はビクともしない。晶は混乱した。入ったときは確かに、扉を押したはずである。しかし、出ようとして引くと開かない。次の瞬間、晶は理由を自分のすぐ横で見つけた。暗くて良くは見えないが、何か大きな物が扉にあたり、開くのを妨げていたのである。
やがて、それが身体を登ってくる。辺りに鼻につく臭いが広がる。除除に晶の意識が朦朧としていく。
(ヤバイ・・・このままじゃ・・・・)
晶が完全に意識を失いそうになったその時である。
「そこまでだ!」
物置小屋に外の新鮮な空気が流れ込む。
それと同時に、晶の身体の束縛が解ける。晶はその場に倒れこんだ。
「ゲホッゲホ・・・」
晶が顔を上げると、一人の少女がいた。歳は同じくらいであろうか?紅色の髪をしていて、手には鎖のような物を巻いている。不思議な事に、その鎖はまるで意志を持っているかのように、蠢いていた。少女は晶に目もくれずに、一点を睨んでいる。
その視線の先には、ローブとフードで姿を隠した人間がいた。しかし、両腕は途中から、黒々とした毛並みの狼へと変わり、紅い血を流している。少女は、良く通る声で怒りを露わにしていた。
「この化け物め・・・お前達の仲間でも、増やすつもりだったのか?」
『ソレハ、ココデ死ヌオ前ニハ関係ノ無イ事・・・』
そう言うと、狼が少女に襲い掛かる。少女が避けると、狼は伸び、しつこく追い回す。
「ちっ!しょうがないな・・・・・黄泉の糸!」
少女はそう叫ぶと、鎖を放す。すると、鎖は蛇のように地を滑り、相手の動きを封じ、締め上げ始めた。
『ギョアアア!』
相手の悲痛な叫びが響き渡る。その間も、鎖はギシギシと音を立てながら締め付け続け、やがて相手は動かなくなった。
「黄泉の糸!」
少女が叫ぶと、鎖は相手から離れ、少女の手の中に静かに戻った。
束縛するものが無くなると、相手は力なく倒れる。
少女は、哀れなものを見るように、その者を見下ろした。
すると、見る見るうちに相手は、砂へと変わり、風に流されて跡形もなく消え去った。
見届けると、初めて少女は晶に声をかけた。それは先程とは違い、優しい声である。
「混乱しているだろうが、お前にはこれが見えるか?」
そう言うと手を突き出す。手の中には、先程の鎖がゆらゆらと揺れていた。
晶は、混乱しながらも、一応答える。
「ま、まあ・・・そんな事よりも、さっきの奴なに?っていうか、この鎖なに?」
晶の答えを聞くと、少女は頭を押さえる。実に困っているようである。
「はあ、やっぱり適合者か・・・」
それだけ言うと、少女は携帯を取り出し、何処かに連絡を入れる。所々、会話が聞こえて来た。
「・・・・はい、私です・・・適合者が出て・・・・分かりました。」
少女は、携帯を切ると、晶を立たせた。
「すまないが・・・私と一緒に来てくれないか?」
「は、はいい?」
「これは君の命に関わる事でもあるんだ」
「えっ、いや、ちょっと待って・・・」
「いいから!」
そう言うと、少女は答えも聞かずに晶を引っ張っていった・・・

《時の風》
晶は、少女のなすがままに歩かされていた。日は完全に沈み、人影の少なくなった道を、先程会ったばかりの美少女と歩いている・・・・普通の状況なら、晶でも胸躍ったであろうが、今の晶はその代わりに混乱を味わっていた。
すると、さっきまで無言であった少女が口を開く。
「・・・止まれ」
晶が言われたとおりに止まると、そこには大きな日本屋敷があった。
晶の目が暫くそれに奪われていると、いつの間にか少女の姿が消えていた。
「あっあれ?どこに行ったんだ!?」
晶が探していると・・・
「何してる・・・早く来ないか」
少女がいつの間にか屋敷から顔を出し、晶を呆れ顔で見ていた。
晶が渋々屋敷の中に入ると、人気が全く感じられない。晶はいきなり、怖くなった。
(良く考えれば、何でここまでついてきたんだ?『命に関わる』って言っていたけど、さっきの化け物を倒した、名前さえも知らないこの少女と居る方が危ないんじゃないのか?
 もしかしたら、人目のつかないここで、俺をさっきのみたいに襲うつもりなんじゃ・・・)
晶がそう思って恐る恐る少女を見ると、睨み返してきた。その眼差しは正に、獲物を狙う鷹の目である。
(こっこえ〜!)
晶はもう、逃げ出したかった。いや、むしろ逃げ出そうとしていた、その時である。
「ああ、来てる、来てる〜」
気の抜けた声が屋敷に響く。
晶が声のしたほうに目をやると、そこには二十代後半と思われる赤毛の男がいた。
手には布で包まれた物を持っている。男に気付くと少女は姿勢を正す。
「大樹さん!」
どうやらこの男、大樹というらしい。大樹は布で包まれたそれを手で弄びながら、晶に近付いて来た。
「君が、ミキ君が報告した適合者だね?」
「適合者?何の事だ、俺はコイツに無理矢理連れてこられただけだ。説明しろよ。」

⇒To Be Continued...

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