妖怪退治屋 鬼百合姫子3
作者: カロカロ   2007年08月25日(土) 15時23分57秒公開   ID:BoY2g5jOBiE
【PAGE 1/5】 [1] [2] [3] [4] [5]


《プロローグ》
それは三日月の夜、とある高校で起きた・・・・
コツコツ・・・
もう夜だというのに人影が一つ、廊下を歩いていた・・・
その者は顔をフードに隠してまるで何かを恐れるかのように足早に進む・・・
いくつか階段を下り、足が一つの扉の前で止まった。
・・・・ここか・・・・
それだけ言うとその者はドアを開けて中に入っていく・・・・
扉の先には二つの大きな結晶が浮かんでいた。
結晶の中には何かが蠢いている。
それを見るとその者は嬉しそうに微笑み、言った。
・・・やはりここにあったか、その中から出たいか?・・・
水晶の中の何かが答えるように蠢く。
・・・そうか、ならば逃がしてやろう・・・
途端に水晶が砕け散った。
中に入っていた何かが床に落ちる。
何かは天井を見上げ声を上げた。
・・・ウヲヲヲヲヲヲヲヲ!!・・・
それらは夜空へと飛び出した。
・・・ふふふ、そうだ、その雄叫びで愚かなる人間どもに恐怖と苦しみを与えるがいい・・・
夜空に響いた雄叫びはこの世の全てを呪っていた。
・・・憎きは全てなり・・・
やがてそれらは闇夜の中に消えていった。

《第一の巻 新たなる危機の余響》
今は秋、木の葉は紅葉し、夏は消えていく。
にもかかわらず、ここ、私立虹ケ丘高校は季節外れの話で盛り上がっていた。
「ん?なんだって?一樹」
高1の坂上正志(16)は友人の青山一樹に聞き返す。
「だからさ!最近流れてる噂の七不思議に進展があったんだって!」
「進展って言ったってたかが噂に進展も何も無いだろう」
正志はその噂の七不思議を思い出した。
確かこのような七不思議だったはずだ・・・
壱、 なぜ校長は片目に眼帯をしているのか
弐、 なぜ保健室の時野なで子先生はいつも煙草をふかしているのか
参、 夜中になると理科室の黒板が濡れる
四、 ここは昔、墓場で今でも幽霊が出る
伍、 この学校の地下にはでかい宝石が埋まっている
六、 トイレに五回連続で一人で行くと百人目の人の恋が上手くいく
七、 学校には夜中になると人影が蠢く教室がある
と言うもので、どれも大体見当は付く。
しかし、一樹は思いもよらぬ一言を言った。
「それがさ、七不思議にあと二つ加わったんだって!」
「二つ加わった?」
「ああ・・・」
そう言うと一樹は訊いてもいないのに勝手に話し出した。
「一つ目が梅林の悪魔の風」
「悪魔の風?」
「ああ、この高校の裏に雑木林あるだろ?あそこがさ夕方に梅ノ木だけになってんだってさ」
「そんなの見間違えかもしんないじゃないか」
「いや、ここからが凄いんだよ。その林の中に入るとな、『お前は敵か?』って訊かれてな、早く答えないと『お前が!』って声の後、風が吹いて体が引裂かれるんだって!」
「そいつは穏便じゃないな・・・」
「だろ!あと一つが季節が早まる廊下!」
「廊下?」
「ああ、夜になると3のBの廊下で『あなたは敵?』って訊かれて、答えないといきなり吹雪が吹いて凍え死にされるんだって!」
一樹は興奮しながら言った。
正志は何を馬鹿な・・・と言い返したが、調べてみようと考えていた。
実を言うと正志は妖怪退治屋、後ろの席の姫子と二人でタッグを組み、ここ、虹ケ丘市を守るのが仕事なのである。
毎月、妖怪退治屋連合というところからその仕事の報酬が出ている。
そんな中、終業のチャイムが鳴った。
それに合わせて正志は姫子に近付く。
「姫子、終業しだいで悪いが後でいつもの公園まで来てくれ」
「いいわ、仕事ね?」
「ああ・・・」
その時、クラスの長からの連絡があった。
「みなさん!後十日で虹ケ丘祭です!明日から準備に入るのでそのつもりでお願いします!」
              *
正志と姫子は公園に来ていた。
いつもここで二人は仕事の打ち合わせをしているのである。
「なるほどね・・・・つまり正志はいきなり七不思議が増えるのはおかしいって言うのね・・・」
「ああ、いきなり二つも、しかも、他のに比べれば怪談として成り立っている。これは、もしかしたら妖怪が絡んでいるのかもしれないからな・・・」
その時である。
いきなり二人の間にでかい頭が出てきた。
毛で覆われているところを見ると恐らく化け鼠だ。
「キシャ―!」
鼠は正志を襲った。
しかし、鼠の攻撃は空しく空を切った。
正志が吼える。
「黒椿!」
その瞬間、正志の手の中の銀色の棒が金の刀に変わった。
「ハアー!」
ブス!
鈍い音を立てて刀が鼠を貫いた。
鼠は元の大きさに戻り死んだ。
刀を元に戻すと正志は姫子に言った。
「今日はやめておこう、何か嫌な予感がする・・・」
「え、ええ・・・正志がいいんだったらいいけど・・・・」
「それじゃあ、今日は帰るか・・・・」
「そうね・・・」
そう言うと二人は公園を後にした。
しかし、さっきの正志の行動を見ている者がいた事までは気付かなかった。
「なんて事なの!これは大スクープだわ!」
               *
次の日の朝、魔術研究会会長の水野杏(高二)は魔術研究会、通称魔研のメンバーを集めて議論をしていた。
「さて皆さん!今日呼んだのは他でもあるません!この魔研に何としても入会させたい生徒が見つかったからです!」
それに会員の大池菊(高一)が質問をする。
「はーい!質問で〜ス!その生徒は誰ですか?」
それに最もだと言わんばかりに杏が答える。
「いい質問です。その生徒は・・・四ヶ月連続、男子付き合って欲しい人ランキング一位の坂上正志さんです!」
その一言にしばし、女子郡が騒ぐ、それを宥めるように魔研、副会長の鳥宮歩(高二)が言った。
「は〜い、静かにしてくださ〜い。その人を入会させるかどうかは皆さんにかかってますからね〜」
そこで大和勇(高1)が質問する。
「入会させたいのは分かったけどどうしてだ?」
それに杏が笑顔で答える。
「はい、それはですね〜、正志さんが魔術を使っているのを会長である私が目撃したからです!」
さらに騒ぎ出す。
「それは本当ですか?」
森カンナ(高二)が訝しげに言う。
会員の中に波紋が広がる。
そんな中、歩が大声で言った。
「は〜い!会長は今まで嘘をついたことがありますか?」
会員たちがいっせいに首を振る。
「では、会長の言った事は本当です。では、多数決に入りたいと思います!入れたい人は手を上げて!」
すると全員が手を上げた。
それを見て杏が朗らかに言った。
「分かりました・・・それでは、これより会の規定によりあらゆる手を使って入会させることにします!しかし、あくまで本人の意思を尊重させる事にしましょう・・・・」
それから十分後、正志が学校に登校してきた。
すると、いきなりアナウンスで呼び出しが下る。
「一年の坂上正志さん。至急、理科研究室まできってください」
放送を聞いた一樹が正志を茶化す。
「おい、お前、何かやったんじゃねーのか?」
一樹の目にはふざけているのか笑いがある。
「何かやったってどんな?」
「例えば、夕方、女子を襲ったとか・・・」
次の瞬間、一樹の腹に右手のパンチが入る。
こういう所では正志は加減が無い。
一樹はよろけながら言った。
「冗談だって、冗談」
「冗談だとしてもたちが悪い・・・」
「まあまあ、そんなに怒りなさんな・・・そんな事より行かなくていいのか?」
「あ、ああ、そうだったな・・・」
正志は席を立った。
正志はクラスを見回す。
姫子の姿は無い、どうやらまだ来ていないようだ。
今の正志にとってはその方がむしろ都合がいい。
「それじゃあ、一樹、行ってくる。」
「ああ、気を付けてな・・・」
「気を付けるも何も、学校でそんなに危ない事って無いだろ・・・・」
すると、いきなり一樹が真顔で言った。
「いや、人生何が起こるかわからないから・・・・」
「・・・どうしたんだ?一樹、お前らしくないぞ?」
一樹は苦笑いをした。
「いやさ、やっぱ正志には隠せないわな・・・まあ、あんまり重要な話でもないから戻ってからでも遅くないだろ?」
「まあ、お前がそう言うんだったら・・・」
正志は教室を後にした・・・・
                *
「ねえ、先生、もう大丈夫だからそろそろ教室に行かせてよ!」
「ダメだったらダメ、しっかり休んでなきゃ体に毒!」
姫子は保健室のベッドの上にいた。
白いカーテンの向こうには保健室の先生である時野なで子がいる。
長髪でスタイルがよく美人なので、男子に人気がある。
唯一、ダメな所と言えばこの男口調という所か・・・
まあ、そこが姫子は好きだったりもするのだが・・・
「大体からしてねー、あんな道端で倒れてて大丈夫なわけないだろ!」
「そんなー、だから何度も言うように寝不足だっただけなんだってー」
「寝不足だって立派な病気!それになんでそんなに教室に行きたいんだ?どうせいったってつまらない勉強が待っているだけだぞ?」
「そ、それは・・・」
思わず姫子は口を濁す。
その様子を見て何か感じたのか、なで子が言った。
「なんだ〜?まさか愛しい人が教室にいるのか〜?」
姫子の顔が途端に赤くなる。
「な、何言ってるんですか!」
「ははは、冗談だよ、やっぱりガキをおちょくるのは面白いな・・・」
その時、いきなり保健室のドアが開いた。
そこには時野蘭(高1)がいた。
「姫子、大丈夫なの?」
「え、ええ」
「良かったー、そっくり意識不明の重体かと・・・」
「いや、蘭、ありえないから・・・」
この時野蘭という生徒、姫子の大の親友にして、保健室の先生こと、時野なで子と姉妹なのである。
かなりのボケ体質だが根はいい奴だと姫子は思っている。
そのボケ体質の蘭が急いでいるように言った。
「そうだ!姫子、早く来て!」
蘭が姫子の手を引っ張る。
「え?ど、どうしたの欄?そんなに急いで?」
「兎に角!早く来て!」
「え、ええ・・・」
「ちょーっと待ったー!」
なで子が二人の前に立ち塞がる。
「何よ、お姉ちゃん!」
蘭となで子の間に火花が散る。
「何は無いだろ、ここは私の仕事場、しっかりと急いでいる理由を説明してから出ていきな!」
欄が溜息をこぼす。
「ハァ〜、あのね、お姉ちゃん、そうやっていつも私の前に立ち塞がって邪魔するの止めてくれる?私の事を心配してくれているのは分かってる・・・・でもね、今は親友のピンチなの、分かってくれる?」
なで子は煙草をポケットから取り出し火をつけた。
「フー・・・・」
煙が保健室に広がっていく・・・・
「まあ、今回はお前の親友なら見逃してやるしかねーな、でも次は無いからな」
「ありがとう、お姉ちゃん・・・・」
「礼はいい、さっさと行きな・・・」
「うん、ホラ行くよ!姫子!」
蘭が姫子を引っ張って行った。
「・・・・ありがとう、蘭」
「いいのよ、友達でしょう?」
蘭は笑顔で答える。
「でも良かったの?お姉さん騙して・・・」
「別に騙したわけじゃないわ、私は『早く来て』と、『親友のピンチなの』としか言ってないわ。事実、姫子に来てもらわないと寂しくて困るし、あのまま、保健室に半ば監禁みたいに閉じ込められる事自体、私からすればピンチよ。それに、勝手に勘違いしたのはあっちだし・・・」
そう言うと蘭は小悪魔的な笑いを浮かべた。
こういう所で蘭は妙に頭がまわる。
その時、二人の前を人影が通った。
一瞬の事ではあったが姫子には見当が付いた。
今のは・・・正志・・・?
いきなり、蘭が声をかけてきた。
「うわー!今の人、かっこよかったねー、何処のクラスの人だろう?」
「何処も何も・・・うちのクラスじゃない・・・」
本当にびっくりしたのか蘭が声を荒げる。
「え!嘘ー!ぜんぜん気付かなかった・・・ねえ、姫子、あの人と知り合い?」
「え、ええ、まあ・・・」
知り合いどころか毎日、一緒に仕事をしているぐらいだ・・・・
「それじゃーさー・・・」
「何?」
蘭がモジモジし始める。
「うん・・・もうすぐ虹ケ丘祭近いし、紹介してくれない?」
「ヘ・・・・?」
「だから・・・紹介してもらいたいの!」
「ま、まあ、いいけど・・・・」
姫子に一抹の不安が過ぎる。
もし、正志が蘭をこれで気にするようになったら・・・
しかし、すぐにその不安もいつもの正志ならまず無いだろうと消えていった。
一方、蘭の方はまるで、盆と正月が一緒に来たような喜びようである。
そんな中、正志は危機に陥っていた。
「ねえ、正志く〜ん?いい加減、この入部届けにサインをしてくれないかな〜?」
ここは、理科研究室兼、魔研の部室、正志は魔研の部員、六人に囲まれていた。
しかし、正志はあくまで冷静である。
「嫌です。例え、先輩方の頼みであろうと入部はしません」
杏は深い溜息をこぼすと言った。
「いいでしょう・・・私としても無理強いは好みません。」
「会長!」
勇が割り込む。
「いいのよ勇、正志さん、気が向いたらでいいんですがもう一度、ゆっくり考えてください。期限はといません。いつでも言いに来てくださいね。」
それを聞いて正志は笑顔になる。
「ええ、その気になったら来ますね。」
そう言うと正志は席を立つ。
正志が部屋を出ると杏が含み笑いをしながら言った。
「ええ、本当に・・・その気になったら来てくださいね・・・」
少し経ち、カンナが憤って言った。
「ちょっと会長!本当に何を考えてるんですか?」

⇒To Be Continued...

■一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集