妖怪退治屋鬼百合姫子2 | |
作者:
カロカロ
2007年08月25日(土) 15時17分22秒公開
ID:BoY2g5jOBiE
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《プロローグ》 それは、数年ぶりの来客であった。 だが、明らかに人外の存在、禍々しき者。 それは、まるで紅い月のような目で我等を一瞥し、言った。 ・・・・・助けてやろう・・・・ その一言を聞き、我等は歓喜した、これでようやく、この狭い牢から出られると。 次の瞬間、我等は呪縛から解放された。 ・・・・・グヲヲヲヲウ!・・・・・ 数年ぶりに我等の声が闇に轟いた、数年ぶりに目にする外の世界、我等は歓喜し、大空へと飛び出した。 ・・・・・ふふふ、これで後六体・・・・・ それは紅い月の夜の出来事だった。 《第一の巻 宿泊券と清音荘》 「あ〜あ、どうしてこんなに今年は暑いの〜?」 今は初夏、誰に向けてでもない疑問を空に向かって少女、鬼百合姫子(15)はベンチに寝転んで叫んでいた。 すると、その横に立っている少年、坂上正志(15)はあきれ顔で言った。 「お前な〜、そうやって適当にやってるから式神までしか召喚できないんだぞ、少しは真面目にやれよ、退治屋としてどうかと思うぞ?」 そうなのである、正志と姫子はコンビで妖怪退治をやっていて、ここ、虹ケ丘の区分を任されている。 元々、この退治屋と言うのは、組織化していて、世界中に退治屋がいる、ちなみにここ、日本でも組織はあり、名前を妖怪退治屋連合と言い、ここから姫子たちは毎月、倒した妖怪と、その妖怪のレベルによって報酬が支払われる。 姫子はたいしてスペースも無いベンチの上を、細く、しなやかな体を上手く使い、ゴロゴロと転がりながら言った。 「そんな事、言ったってしょうがないじゃない、いくらやっても召喚一つできないし、暑くなる一方で何もできやしない」 正志はため息をつくと言った。 「はあ、この調子じゃいくらやっても意味がないようだな、今日はここまでにするか」 それを聞くと姫子は素早く起き上がり自分の妖怪退治に使っている道具、四天雷を制服のポケットに滑り込ますと言った。 「ねえ、正志、家まで送ってくんない?」 正志はもう一度、ため息をつくと言った。 「お前な〜、わざわざ送らなくても家まで行けるだろ〜?」 「そんな事言ったって最近、物騒だし、この前だって、それで二人であいつに勝てたんじゃない!」 「そんな事言ったってなー、いくらなんでも、毎日送るのはさすがに疲れるぞ?」 しかし、姫子は一向に引く気配を見せない、正志は大きくため息を吐いた。 「ハア〜、わかったよ、送ってけばいいんだろ?送ってけば」 「やった〜!ありがとう正志!それじゃあ早速帰ろ〜よ!」 正志は四回目のため息を吐くと姫子との出会いを思い出した。 あれは高校の入学式の日だった。 その日、正志は遅刻しそうになったので朝食抜きで家をとび出した。 そして、いくつか角を曲がり、もうすぐ虹ヶ丘高校という所で、正志は妖怪と出くわした。 それで退治しようとしたのだが、空腹のため、思うように力が出ず、絞め殺されそうになっている所を姫子が来て助けてくれたのである。 それからというもの、2人は力を合わして数々の妖怪を倒してきた。 しかし、どうも最近になって姫子の様子がおかしい。 姫子の強さなら、正志に送り迎えしてもらわなくても、たいていの人間に襲われても撃退なんてたやすい。 にもかかわらず、最近は執拗に一緒にいようとする。 まあ、それはそれで妖怪を倒すには良いと言えば良いのだが・・・・・ 考えていると姫子がいきなり声をかけてきた。 「ねえ、正志、これ見て」 「ん?」 正志が姫子を見ると、もう姫子の家に着いていた。 どうやらかなりの間、考えていたらしい。 姫子の手には一通の封筒が握られていた。 「姫子、これがどうしたんだ?お前宛の封筒だろ?そういうのは自分の家で見ろ」 「そうじゃなくてこの手紙、連合から来てるのよ」 「連合から?」 「うん、それに受取人の所に正志の名前も書いてあるの」 正志が姫子からその手紙を受け取ってみると確かにそこには自分の名前も書いてあった。 「とりあえず、開けてみよう」 「うん」 そう言うと正志は封筒を開けてみた。 そこには連合のマークのついた手紙とチケットのようなものが二枚入っていた。 正志たちは手紙を広げた。 そこにはこう書いてあった。 ・・・・・拝啓 鬼百合姫子殿 坂上正志殿 この度、貴殿等は封印されし十二邪神、妖姫の完全復活阻止を成し遂げられました事、連合よりお祝いいたします。 つきましては御二人方の昇格、増給をいたしましたのでここにご報告いたします。 鬼百合姫子殿、中襟より上襟へ昇格 坂上正志殿、上襟より大上襟へ昇格 給料については窓口にてご確認ください。 妖怪退治屋連合総合取締役 現太祐ひさしより 追伸 この度の業績に感謝し、御二人方に有給の休暇を支給したいと思います。 有給休暇につきましては同封した新装開店致しました退治屋専用旅館『清音荘』の一週間宿泊券をお使いください・・・・ 「えっと、つまり休暇とっていいって事?」 「そういう事になるのかな・・・・」 それからはもう大変であった。 姫子は大騒ぎするし、同業者の佐藤美咲、紅柳たかしの二人組に自分たちのいない間の仕事を頼んだりなど忙しく手紙が届いてからの一週間が凄い速さで過ぎていった。 そして一週間後・・・・ 正志たちは新幹線の中にいた。 「ふう〜、休暇って言っても用意だけで結構疲れたな〜」 「そおね、でもこれから一週間はゆっくりと休めるんだしこの旅行楽しまなくっちゃ!」 「それもそうだな、旅館は特に妖怪もあまり出ない所みたいだしゆっくりとするか・・・」 「そうこなくっちゃ!」 それからの新幹線での旅はかなりゆっくりと過ごせた。 旅館は結構な山奥にあるそうなので途中で新幹線からバスに乗り換えなければならなかったが、バスは意外と快適でクーラーがついていた。 すると唐突に窓の外を見ていた姫子が歓声を上げた。 「うわー!」 その声に釣られて正志も窓の外を見る。 窓の先にはうっすらと霧がかかり、朝日を浴びた山々があり一番近い山の端に小さく和式の建物が見えた。 どうやら、あそこがこれから一週間泊まる清音荘らしい。 それから20分後・・・・・ 姫子たちは清音荘の前にいた。 外観からするに、相当古い建物っぽいが決して汚らしい感じは無く、建築物の古さの良い所だけ集めた様な感じの建物である。 二人が清音荘に入ろうとしたその時である。 いきなり正志が前に吹っ飛んだ。 「正志!ど、どうしたの?」 姫子が正志を見てみると正志の腰に佐藤美咲がくっついていた。 どうやらさっき、正志が吹っ飛んだのは美咲が後ろから抱きついたかららしい。 しかし、姫子にとっては今はそれよりもどうして美咲がここにいるのかの方がびっくりした。 美咲たちは姫子たちのいない間、虹ケ丘を見回るはずである。 そんな事を姫子が考えていると、いつの間にか自分の横に紅柳たかしがいた。 「ハァ〜、美咲、正志さんが嫌がっているだろう、そろそろ放してやれ」 「あ、あの〜、なんで紅柳さんたちがここにいらっしゃるんですか?」 あまりにも不可解すぎて姫子は思わず丁寧な言葉遣いになる。 たかしは少し考え込むと説明をした。 「う〜ん、話すと長くなるんだが、実を言うと僕は無理やり美咲に連れてこられたんだ。どうやら美咲が君たち二人で温泉に行くことに腹を立てたらしくて、二人がいない間の留守を頼まれたことを言ったら、『あの女と一緒だと正志が何されるかわからないわ!』とか言って美咲が無理に休暇を取って来ちゃったんだ」 「・・・・・と言うことはつまり、虹ケ丘には今、退治屋がいないって事?」 姫子は顔を青くして言った。 なぜなら、土地に退治屋がいないことはその土地に住み着く妖怪を野放しにする事を意味している。 これがどういう事なのかというと妖怪は直接には常人には直接的には被害は出さないものの、妖怪のいる土地の地脈が歪み、土地に悪い影響を及ぼしたり、妖怪は異界より鬼門を通じて現世に出てくるため、閉まっている鬼門を無理やりに出入りする。 結果、鬼門が壊れて現世と異界の仕切りが無くなり、現世と異界が混ざり合ってしまう、これが起きると現世のものが異界に吸い込まれたりし、異界と現世の破滅に繋がるのである。 そんな事を考えて顔を青くしている姫子を見て、たかしは言った。 「そんな顔をしなくても大丈夫だよ、しっかりと代わりを送ってもらってあるから」 それを聞いて姫子の顔は安堵の色に変わった。 その時である、いきなり弱々しい助けを請う声が聞こえた。 「・・・・・姫子・・・・・助けてくれ・・・・・」 そう言うと正志は完全に燃え尽きて動かなくなった。 そこに美咲が抱きつく。 どうやら姫子たちの会話中、正志は逃げていたのだろう、体中かすり傷だらけである。 実を言うとこの美咲、ちょっとした事で正志と出会い、それから正志に恋をしているのである。 しかし、正志の方は全くその気が無く、美咲から逃げ回っているというわけだ。 それから、どうにか二人がかりで美咲を取り押さえたが、もう清音荘の玄関先に来て二十分も経っていた。 それに気付き、たかしが言った。 「・・・・・そろそろ入った方がいいな」 「え、ええ、そうね」 そう言うとたかしは美咲を捕まえて、姫子は正志を起こして清音荘の門をくぐった。 その門の先には広いロビーが広がっていて、見事なシャンデリアが輝いていた。 外見とは大違いに内装は見事な洋風で不自然である。 しかし、一番不自然なのが自分たちの前に立っている髪を纏めた、同い年と思われる華やかな着物を着た落ち着かない少女である。 その少女の左右には仲居と思われる二十から三十代の中居達がいた。 正志たちがその不自然さに眉をしかめていると、急に少女が顔を赤くし、俯いて言った。 「・・・・・あ、あの、退治屋専門旅館、清音荘によ、ようこそ! え、えっと、私はこ、この旅館の女将をやっております清水楓と申します! 私たち従業員一同、誠心誠意頑張りますのでよろしくお願いうし、します・・・・」 どうやら緊張しているらしく、モジモジとしている。 しかし、その事よりも正志たちが気になったのは清水楓の一言であった。 思わず美咲が聞き返す。 「ちょ、ちょっと!あなた今、女将って言った?」 それに楓はさらにモジモジとして言う。 「は、はい・・・・女将をやっておりましゅ」 どうやらあまりに緊張しすぎて口がまわらないらしい。 ついに見かねて横の仲居が言った。 「すいません、女将はまだなってから日が浅いもので口がまわらないんです。」 「そういう問題じゃないでしょう!なんで女将がこんなに若いのよ!」 そう美咲が言うと、仲居が頭を下げながら言った。 「すいません、それには何とぞ触れないでやってください。 女将はまだ16ですがサービスはしっかりとしておりますので・・・・・」 「そ、そんなこと言ったって!」 「まあ、いいじゃないか、彼女には触れられたくない事があるんだろう。 美咲にもそういう事の一つや二つあるだろう?」 そう言って正志が宥めに入った。 美咲は不服そうな顔をしたが、深くため息をつき言った。 「正志がそう言うんだったらしょうがないわね・・・」 仲居が深々と頭を下げ申し訳なさそうに言った。 「ありがとうございます。それではお部屋にご案内いたしますので坂上様と姫子様はこちらへ・・・・」 すると美咲が慌てて言った。 「ちょ、ちょっと待って!なんでこの女と正志が一緒の部屋なの!?」 それを聞くと仲居は怪訝そうな顔で言った。 「何でと言いましても・・・・正志様と姫子様は二名様での宿泊ですので・・・」 「で、でも、男女が一緒の部屋なんて不謹慎なんじゃ・・・」 どうやら美咲は姫子がこの宿泊によって正志に何かするのかと心配らしい。 しばらく仲居は考えると女将である楓に相談し始めた。 「わかりました。」 仲居は楓と話した後、淡々と言った。 「それでは、正志様方は二つの部屋に分かれてもらいましょう。 よろしいでしょうか、正志様、姫子様?」 すると正志は最初からそのつもりだったと言った。 しかし、姫子の方は反論しないまでも不服そうに呟いた。 「いいけど・・・不謹慎って何よ、不謹慎って・・・・」 「それではお二方のそれぞれのお部屋にご案内いたしますのでついてきてください。」 そうさっきの仲居が言って正志たちを連れて行った。 後に女将である楓と美咲たちが残された。 しばらくの沈黙の後、楓が顔を真っ赤にして言った。 「そ、それでは、お部屋にご案内します・・・」 美咲はそんな楓を心の中で苛立たしく思いながらついて行くのだった。 一方、その頃、正志はと言うと、自分の部屋である椿の間でテレビを見ていた。 特にやることも無いからなのだが逆につまらなく感じてくる。 だからと言ってここの景色を楽しもうにも、季節外れだからなのか夏の熱気にやられたのか木々に活気が無く、枯れているかのように感じてくる。 正志は深くため息をついた。 ・・・・何でここに来たんだろう・・・・ ⇒To Be Continued... |
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