追憶〜アオイとアカネ1
作者: 露骨さん   2017年04月01日(土) 19時05分14秒公開   ID:UQhfvgQyrlU

辺境の村に仲睦まじく暮らすある家族がいた。
父、母、子がいる普通の家族だった。
父はアグリ、母はカメリア、子はアオイ。
カメリアはもう一人の娘を授かっていた。

その少女が、のちのアカネである。

アオイ 母様。アカネはいつ産まれてくるの?
カメリア お医者様がいうには、あと数日ですって。
アグリ そろそろ病院に泊まり込んだほうがいいんじゃないか?
カメリア えぇ、でもギリギリまで家にいるわ。アカネが生まれたらアオイはお姉さん、今のうちにこの子をめいっぱい可愛がらないと
アグリ 無理するなよ
アオイ 私は大丈夫よ、母様。母様と産まれてくるアカネに何かあったら大変だわ。
カメリア アオイは頼りになるわね、きっといいお姉さんになるわ。間違いない。
アオイ えへへ、私お姉さんとしてがんばるからね

その会話をした晩、カメリアは陣痛を訴え、病院へ搬送された。
そして、この会話がこの家族揃っての最後の会話となった。

カメリアはアカネを産むと、息絶えてしまった。
カメリアが、命をかけて産んだ赤ん坊は人間では無かった。
神に祝福された子≠ツまりヴァルキリーである。

アオイは一人家で両親と妹の帰りを待っていた。帰ってくるはずのない母を。
家の外でなにやら祝うような、祭りのような声が聞こえた。
「神の使いがこの村にも来たぞ!」
今日は祭りごとはないはずだと知っていたアオイは何が起きているか分からなかった。
父が間もなく生まれるらしいから、と病院に行って1日が経とうとしていた。
こんなに時間がかかるのか。母は2度もこんな体験をしているのか。
何時か自分もするのか。
大きな不安と妹に早く会いたい期待を持ちつつ、アオイは外に出た。
ちょうどアグリが帰ってこようとしていたらしい、家の前にいた。
だがしかし、父は泣いていた。周りには、母も妹もいなかった。
アオイ 父様、母様とアカネは?まだなの?
アグリは、口を開きかけたがまた閉じた。
父の目には大粒の涙があった。
アオイは幼いながら、何かを悟った。
だが、しんじたくなかった。

母と妹は死んだのかもしれない。

アオイの胸から不安と期待は消え、ただただ絶望というものが浮かび上がってきた。
その時、村長が赤子を抱いてアオイのそばに来た。生まれたての赤子である。
村長は「お前の妹だ。」といった。
アオイは、父の涙は嬉しさの涙だと思った。なんだ。嬉しすぎたのか、では母はきっと疲れて寝ているのかなにかか。安心した。
その安心を打ち壊すものが目に写った。
花に囲まれた母が、動かない母がいた。顔は白っぽくなり、村人達は母を崇めるかのように手を合わせている。
何も言わなかった父が口を開いた。
「カメリアは、死んだ。アカネを産んで死んだ。」

目の前が真っ暗になった。嘘だ、嘘だ!
死んだのかと思うだけのときと明らかに死んだと言われた時とで彼女の中に蠢く思いは違った。母が死んだ?妹は生きている?どうしてそんな事がある?妹はなぜ生きているのに母は死んだ?訳が分からなかった。

カメリアの葬儀は村で大きく執り行われた。先代の村長の葬儀より規模がでかかった。
沢山の果物、豪華な料理、煌びやかに装飾された棺桶。
アカネは神のように扱われた。アオイは分からなかった。アカネは教会がひきとるだろう、などとも聞こえた。
どうして?神は母だけでなく、妹も私から奪うのか?
その時である。
アカネの背から、光の羽が出てきたのは。
村人は、おぉお…といい、父も素晴らしい…というのみである。
村人はそれが何か知っていた。素晴らしいものだと知っていた。
だがアオイには分からなかった。

あの光り輝くものが、母の中で、飛び出したとしたら?母はあの羽が刺さって死ぬだろう。

つまり、母を殺したのは…アイツか?
最愛の母を殺したのは妹だったのか?

あのバケモノが母をコロシタ。

アオイは近くにあった果物ナイフを手に取り、アカネへと走りよろうとした。

アオイ 母様を返せェ!お前が!お前がァアアアアアアアア!

アオイは村人に取り押さえられた。
村人は怒りと哀れみの目を彼女に向けた。
父もそうであった。

こいつらは母を殺したやつを庇うのか!バケモノを!正気じゃない!!

村人 アグリ!この子はどうしたんだ!
アグリ ……カメリアの事が大好きだったからきっと、悲しみからこんなことに…
村長 しばらくすれば落ち着くだろう。檻に入れな少し待とう。

アオイは檻に入れられた。それが更に彼女の怒りと狂気を増幅させた。あいつらは狂っている。あのバケモノをはやく殺すか逃げないと私が殺される!

村人が迎えに来ても、アオイはバケモノ!殺してやる!と言い続けていた。
村人達はなんとしても神に祝福された子≠守らなければならなかった。

村人はアオイを危険と判断。殺そうとした。
だが、アグリが抵抗した。こいつは私の子だ。私が処断を決める。と。

そしてアオイは遠い遠い暗い森の中に一人置いていかれた。

眠らされていたアオイは目覚め
アカネと村人達への復讐を抱いて彼女は一人動き出した。
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