青春 ―儚くて透明な1日が―
作者: カンタービレ   2014年02月18日(火) 21時19分38秒公開   ID:2vm/aJErdVs

「詩子(うたこ)、バッカじゃないの。そんなこだわり要らないの。思うがままに生きればいいの。」
志乃(しの)に言われた。
あたしは、志乃に口じゃ勝てないから反論はしなかったけど。

あたしは、図書室が好きだ。
落ち着くし、本の題名がズラッと並んでるのを見るのが楽しい。
いろいろな世界に出会えた気分になる。

それを志乃に言った。
そしたら、まさかの『バカ』扱いだ。最悪。



志乃は、一緒にいるとウザく感じる。
嫌味ばかり言ってくるし。人のこと考えないし。

でも、楽しい。
一緒にいると、なぜか笑えてくる。笑顔が増える。
嫌味ばっかいうくせに。なんかズルいって思うけどさ。

・・・志乃には、「人を魅了する力」があるのかもしれない。



あたし達は高校2年生。あと少しで3年生になるという冬。
これから、就職か大学に入学か。それを決めなきゃなんないのが嫌だ。
あたしにはやりたいことがない。大学は嫌。勉強嫌いだから、行きたくもない。
ただ、担任にもそろそろ就職先や志望大学決めとけって言われた。
音楽は好き。歌唱力もあるって自分で思う。だけど、歌手になりたいとは思わない。


志乃は、アニメ系専門学校に行くらしい。そこに行って、声優になりたいらしい。
「なんで?」って聞いたところ、「面白そうだから。」っていう、ぬるーい答えが返ってきた。
多分、嘘。志乃って確かにめんどくさがり屋だけど、中途半端なことはしないからさ。



次の日。志乃が担任にアニメ系専門学校に行くって言ったらしい。
そしたら、なぜかあたしのところにこう言ってきた。
「詩子、あの曲歌ってよ。」
「え、なんで。」
あたしはそう返事すると、「早く」とでも言いそうな志乃の目を見て、歌を歌った。


♪ それで満足?
叶ってないのに満足?
叶うまで諦めるなよ
叶うまで前向いて進めよ ♪

♪ それで終わり?
叶ってないのに終わり?
叶うまで信じ続けろ
自分が追いかけたその夢を ♪


私が作った曲だった。題名は考えてない。
「夢へ」とか「run through」がいいんじゃない?っていうのが、志乃の意見だった。



♪ そこで終わりじゃない 未来はある
走れ 夢に向かって 走れ 夢を信じて
気持ちで負けるな 輝くために
run through 走って走って輝くんだ ♪



歌い終わったとき、志乃に言われた。

「昔もさ、こういう風にこの歌ってくれたじゃん。そんときの成り行きって覚えてないけど、あんたが歌ったことだけ。
 ただそれだけは、覚えてる。」
昔も、何度か今の歌を歌った。確かに、なんで歌ったのかは覚えてない。でも、歌ったことだけは確実に覚えてる。
「周りの思い出は儚くて色あせるけどさ、なーんでか知らないけどその歌だけは儚く見えても儚くない。透明だけど色あせてない。」

そうか。志乃は、もうこの時間が2度とやってこないことを知っている。
もう、一緒にいる時間が短いことを知っている。
だからこそ、あたしの歌を歌を聞きたかったのかもしれない。



青春は、とても儚い。
1日、1日がただの1日でしかなくて。この日が大切、なんて思わない。
でも、同じ日は1回もこない。だから、1日がとっても大切なんだ。
儚いけど、大切。透明だけど、色あせてない。

これが、青春なんだ。




あたしは、志乃に言った。
「あたし、やりたいこと決まった。」
「ふーん。よかったね。言いたいことはこれだけだから。またね。」
またねって言う限りでは、志乃はあたしが取る行動がわかるんだろう。
「またね。」
急いで家に帰った。
家に帰って、どこの専門学校行くか決めるんだ。パソコンでホームページ印刷しよう。



次の日。あたしは志乃に自分のやりたいことを言ってみた。
「いいんじゃん。担任に報告しなよ。」
賛成。嬉しい。自分の夢がかなったわけでもないけどさ。


「先生、あたしやりたいこと決まりました。」
「お、やっと決まったか。どこに行く?」
あたしは、息を吸って先生にパンフレットを見せた。



「音楽専門学校行きます。シンガーソングライターになりたいから。」



歌を歌いたい。
みんなを笑顔にさせたい。
これが、あたしのたどり着いた夢だった。



もうすぐでこの楽しい時代は終わる。
進むしかないんだ。戻ることはできない。
明日には、この気持ち忘れてそうなほど儚くて透明だけど。


進んだ明日も、この気持ちは忘れてないだろう。


忘れない。
取りあえずでしかないけど、進む。
でも、忘れない。


儚く見えるけど消えない。透明だけど色あせてない。


そんな1日が、大切だ。
もう戻ってくることはできないけど、この思い出を胸に。頑張るから。



♪ 戻ることができない青春時代
儚くて透明なただの1日でしかないけど
きっと忘れることはない思い出
儚く見えて消えない 透明だけど色あせない
これが、あたしたちの青春時代 ♪



明日のあたしは、どうなっているのだろう。
たとえつらい1日でも、きっと大切な思い出になっていくはず。

それを気付かせてくれて、ありがとう。志乃。


■作者からのメッセージ
小説の途中に出てくる歌詞は、自作なのでちょっとおかしいですね…
あと、まだ高校生じゃないのでよくわかってない部分もあるかもしれません。
すみません!

最後まで読んでくれてありがとうございました。

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