天使サマ
作者: 夜空   2009年01月22日(木) 19時28分40秒公開   ID:BwWvD288BN.
この世には、天使もいなけりゃ悪魔もいねぇ。
神もいねぇし、仏もいねぇ。
じゃあ、いるものは何か?
目の前にいるだろ? 俺もそうだが。
いるのは人間だけだ。
すがりつくにも、助けを求めるにも、人間しかいねぇんだよ。
――少なくとも俺は、そうやって生きてきたぜ?




 いつからだっただろう?
もしかしたら、小さいころからだったかもしれないし、最近かもしれない。喧嘩っぱやい俺は体中が傷だらけだった。別に嫌ではなかったが、その傷は時々酷く痒くなる。かさぶたが痒くなるのはあたり前なのだろうが、俺の場合は違った。
 俺の傷が痒くなるのはたいてい嫌なことが起こる前触れだった。この間も、痒いなと思っていたら上級生に喧嘩売られるし、その前も怪我が疼いたと思えばかぜをひくし。
 たまたまなのかもしれないが、そういうことがよくあるのだ。
 まあ、本題に入ると今日は朝からかさぶたが痒くて仕方ない。しかし、朝から痒いのに、放課後になった今でも何も起きない。まあ、気のせいってこともあるだろうからいいのだが、なんだか気になる。おかしい。今日はなんだか朝からおかしい事の連続だ。
 俺を怖がっている女子が急に近づいてきたり、先輩に「この前はごめんな」と謝られるし、他の学校の不良の肩に自分の肩が当たったのに、逆に謝られた。
 おかしい。おかしすぎるっ! そんなこと考えながら、朝もしもの為に入れてきたカッターの入った鞄を肩にかけ、俺は教室を出て家路を歩き始めた。
 俺の帰り道は、川のある土手を歩いていって、その後奥にある川を渡る橋で川を渡り、コンビニに寄って、その後5分ほどで家に着く。だから、今から家に着くまでざっと25分くらいだ。
 さっさと家に帰ってゲームでもやるかと考えながら小走りで家路を急ぐ。そして、土手に着く。この土手から橋までの距離が長い。つきそうになるため息を抑え、俺は歩を進めた。
 土手の丁度中間くらいに着いたところで、ふっと空を見上げた。少しオレンジに染まった空が見える。一瞬綺麗だなと思い、またすぐに前を見つめ始めた。

―――きゃぁぁぁぁあ……

 ……はっ? 今空から声が……? そう思ったがすぐに首を振って自分の意見を否定する。はっ、ありえない。今は気がたってるから幻聴でも聞こえたんだろう。そう思って空は見上げずまた歩を進め始めた。

―――いやぁぁぁぁああああああっ……

 また空から声が聞こえる。……まさか? 半信半疑で俺は空を見上げた。すると、ドスっという鈍い音と共に俺の腹部に何かが落ちてきた。その反動で俺も地面に押し倒される。
 一瞬意識が薄れ息が苦しくなったが、しょっちゅう喧嘩していて腹を殴られる事など珍しくはない俺にとってはその痛みは慣れたものだった。が、慣れたと言っても痛いものは痛いし、苦しいものは苦しい。本気で今一瞬死にそうになったぞ……。俺は、自分の腹に降ってきたものを確かめようと顔を腹に向けた。そこで見たのは、
「はぅ……痛いなぁ……はぁぁ……」
「お、お前は……?」
 苦しさに顔を歪め、声を絞り出して聞く。すると俺の上に乗っているヤツはゆっくりと俺の方を見て、俺の顔をマジマジと見つめた後、元から大きな目をさらに大きく見開いた。そして、口に片手をあて、3回ほど瞬きをした後声を出した。
「あの……あなたは……?」
「あぁ!?」
 俺はムカッと来て俺の上に乗っている女をどかし、女を思いっきり睨みつけた。本当は女に手とか出したくないし、睨んだりはしたくない。……が、時と場合によってはそんなことも言っていられない。
「あなたはじゃねーよテメー! オメーこそ誰だよっ!!」
「っ! な、なんですか、あたな! 初対面の人にそんな言葉使いして! 失礼ですよ!」
 やべ……今超カチンと来たんだけど? マジで殺意沸いたんだけど? この感情を行動に起こしてもいいの? 俺はふっと口元を緩め笑った後立ち上がった。
「はっ! 初対面で人の腹に落ちてくる方がよっぽど失礼じゃねーのか? あ?」
「むっ……! そ、そうですね……。これは大変失礼致しました」
 その女は礼儀よくペコッと頭を下げ、次に顔を上げた時にはとても可愛らしい――いや、憎らしい笑顔を見せていた。
 そして女も立ち上がり、ポンポンと軽く服をはたいた後、ニコニコしながら俺の手を握り締めた。突然の事にビックリする俺。恥ずかしながら、こういう経験が高校になってもまだ慣れていなくて、つい、手が汗ばむ。
「わたしは、天使のエルフです。よろしくお願いいたしますね」
 そう言って、柔らかい栗色の短い髪を揺らしながら首を傾ける。とても綺麗な白い歯に、とても多いまつげ。普通に見たらとても美人だ。声だって綺麗だし、俺はテレビでもこんなに可愛い人は見たことがない。
 その、エルフと名のった女は、白い柔らかそうなワンピースに身を包み、裸足で俺の前に立っている。背中には小さな……信じたくないが翼がついていて、その翼さえも真っ白だ。
「……それで、あなたのお名前は……?」
「あぁ? あ、いや、俺は……斉藤……斉藤 大空だ……」
「そうですかっ! よろしくお願いしますね、たくクンッ!」
 その女……いや、エルフは、優しく微笑み「では帰りましょうか」と行った。普通に。サラリと。俺の手を引きながら。もちろんうろたえる俺。
「か、帰るってどこへっ!?」
「あなたの……たくクンのお家へですよ? それ以外にどこがあるっていうんですか?」
 体が一瞬にして固まった。開いた口がふさがらないとは、きっとこの事を言うんだろう。なんて一人で考えてしまった。
 そうだ。なんで俺の家にこの、エルフとか言う天使(?)が着いてこようとしてんだ? これはなんだ? 追っ払っていいのか? 俺がふざけんなっと叫んで切れる前にエルフが俺の手を引き始めた。
「お、おい! 離せこのクソっ!!」
「もう! そんな言葉遣いはいけませんよ、たくクン。さあ、早く帰りましょう、暗くなってしまいますよ!」
 ふ、ふざけるなぁぁぁああああッ!!
俺の心の叫びは、声に出すこともなく心の中で消えていった。
■作者からのメッセージ
お久しぶりです。夜空です。
とりあえず1回投稿します。
また内容追加していきますので、よろしくお願いします。

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