トモダチ
作者: 夜空   2008年11月10日(月) 19時01分41秒公開   ID:BwWvD288BN.
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思い出してみれば、いつからだっただろう。
私の隣にはいつでもあの子がいて、
あの子の隣にはいつも私がいた。

思い出してみれば、どこで間違えたんだろう。
あの子がいれば何があっても平気だった。
何があったって、平気だと思ってた。

深く足を突っ込みすぎたのかもしれない。
だから、親や友達の忠告に耳を貸せなかったのかもしれない。




xxxx年 x月 x日

悲しい事件が起こった。
被害者はxx歳の少女・綾音
犯人は、xx歳の少女・未華
死亡者はxx歳の少女・3名

私にとっては、忘れようにも忘れられない事件だった。
だって、確かに記録上では、私は被害者。でも、事実上ではきっと、私が犯人。









 私には嫌いな子がいた。その子は、私の元親友だった。でも、関係が友達とはいえなかった。
 その子が命令・わがままをいい、私がそれを聞く。言う事を聞かなきゃ、暴力で言う事を聞かせる。
 その暴力だって、最初は軽くで笑いながらだったから、私もついノリで乗ってしまい、向こうと仲良くなってしまった。
 普段は優しいのだが、日が経つにつれ、私への命令もわがままも、暴力も遠慮がなくなっていった。

 そんなその子に嫌気が指した私は、他の友達のところに逃げてしまったのだ。

 その友達は、自分の入っているグループに私を快く迎えてくれて、私の体のあざを見て泣いてくれて、私を守るからっと言ってくれる、最高の友達だった。
初めて、親友というのが、友達というのが、学校に通うのがとても幸せで楽しいということに気づけた気がした。
 私は幸せだったが、あの子は省かれ友達がいなくなった。当たり前だ。ゆいつの友達の私がいなくなったんだから。
 あの子は私に付きまとうようになった。私に優しくするようになった。暴力を降らず、話しかけてくるようになった。


 全ては、自分の下へ私を連れ戻す為。


 行くわけがなかった。
 知らないフリをして、その子を虐めることにも協力していった。







 ある日、私は友達の綾に誘われてゲームセンターに行く事になった。そのゲームセンターは、人通りの少ないところにあり、お客さんもいるかいないかだったが、とても安く、普通100円のゲームが50円で出来るようなところで、私たち子供の間でひそかにうわさになっていた。
「あーやーねーッ! 何ボーっとしてんの! 早く行くよッ!」
「あ、うん! 今行くからッ!」
 放課後、一度家に帰ってから遊びに行かなくてはいけないという校則をやぶり、私たちは小走りでゲームセンターへ向かった。
 よく考えてみれば、あんなに安いゲームしか置いていないのに、よく店が成り立っていると思う。まあ、成り立っているのだから考えるような事でもないと思うが。



 明らかに怪しい道を通り、ゲームセンターへ着いた。皆それぞれやりたいゲームへと走っていく。今日来たメンバーは、私を含めた女子4人だった。皆ゲームに夢中になる。
 が、私は寂びれていて気味の悪いこの場所に落ち着かなくて、近くにあったゲーム機のイスに腰掛けていた。
 そうしていると、学校での事がふっと頭を横切った。――そういえば今日、あの子に遊ぼうと誘われたんだ。
 でも私はもちろん無理だと断って、今日このゲームセンターに来ていた。塾があるからと、嘘をついて。

「綾音ッ! ココ、プリ取れるよッ!」
「あ、マジで!? この間は取れなかったのに……」
 この前来たのはもう2週間も前だ。まだ3回しか来た事がないのでよく分からないが、まあ、お店の人が直したのだろう。
 皆のいるプリクラの撮影機に行こうとした時、ギイッという音がして、ゲームセンターのドアが開いた。ふっと何気なく目を向けると、そこにいたのは













「……ッ! ……み……か……ッ……!」







「綾音……見つけたよ……」






 未華は手に握った包丁を私の方に向けながらゆっくりと微笑んだ。
「どうして。……嘘ついたの? 今日は、塾なんでしょう……?」
「ああ、あ……あああ、ああ、あ……ッ!」
「綾音! なんで来ないの! ッ!? ……未華……ッ!?」

 未華の目がゆっくりと、でも確実につりあがっていく。しかし、口元は異常なほどに笑っていた。包丁を握った手を下ろし、笑う。



「あは、あはははははッ! あッはははははははははははははははははははははははは!!!」




 その様子にひるみ、体の震えが止まらない私と、友達。
 その様子を見て、未華は嬉しそうにゲラゲラと笑う。笑う。笑い続けた。

そしていきなり笑うのをやめ、真顔になって、私の友達を見る。皆プリクラの撮影機から出て、お互いの顔を見合わせている。


「……はぁ。笑いつかれた。ところでお前っ」



 友達の一人、ミミに包丁を向ける。ミミは、私をグループに入れてくれた、一番の親友だ。
 そのミミの方に包丁を向け、ニッコリ笑った。


「お前が……あたしから、綾音を取ったんでしょ。……どうして?」


「……どうしてじゃないッ!! あんたが綾音を傷つけたッ! だから、それを見ていられなかっただけッ!」
「黙れよッ! お前がいなければ……お前等がいなければああああああああああああああ!!!」




 そう叫ぶと、未華はミミの方へ全力で走って行った。ミミはビックリして動けない。他の3人も、もちろん私も動けなかった。
 未華が、ミミを押し倒して包丁を振り上げた。




「死ねぇぇぇえええぇぇえええええええええええええええッ!!!!!」

「ぃゃぁっ……!」




 その瞬間、ナオがミミを庇って未華を突き飛ばした。
 ナオは、私を一番気遣ってくれた優しい子だった。そのナオがミミを突き飛ばし、代わり自分が包丁で刺された。
 声にならない悲鳴を上げるナオ、そのナオを見て信じられないッと目を見開く私。
「あーあ……。あんた、何してくれんの? この馬鹿を殺すんだから、邪魔しないでよ」
「う……ぁあ……ッ!」
 未華は立ち上がり、汚いものでも見るかのようにナオを見下した。私は、止められなかった。
「み……ヵ……なん……でッ……?」
「はあ? お前等がいけないんだろ。あたしから、綾音を取ったから。……当然じゃん?」
「……ッ……痛い……」
 未華はしばらくナオを見下した後、クスッと笑うと、ナオの横にしゃがみこんだ。そして、ゆっくりと、包丁を振り上げる。

 ドスッ

 鈍い音がして、ナオの体に包丁が刺さった。血はたいして出ていなかったが、
ナオは泣きながら悲鳴を上げた。それを泣きながら見ていることしか出来ない無力な私。
泣いているナオを笑いながら刺し続ける未華。返り血で赤く染まった未華は、もう、私の知っている未華ではなかった。

「もう……もう、やだああああああああああああああああああああああああああッ!!!」

 そう泣き叫びながら走ってゲームセンターの出口へと逃げるマオ。
マオは臆病者だったけど、誰よりも弱い子の見方をしてくれていた。そのマオでさえも逃げ出した。
そんなの当たり前。皆にはよくしてもらったけど、私も今すぐここから逃げ出したかった。足が言う事を聞くなら、今すぐにでも……。

「どこ行こうとしてんだよ。逃げんじゃねえぞ、てめぇ……」

 ニヤニヤ笑いながら未華が立ち上がった。手には、ナオの血がベットリついた包丁。
ナオは、もう、動かなくなっていた。目を閉じて、口から血を流して――死んでいた。
私はナオから目が離せなかった。立ち上がることも出来なくて、ナオのいるところまで四つん這い状態で進んだ。



「いや……いや……ナオ……ナオ……な……お……いや……そん……なの……
いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!」



 ナオ、ナオッ! っと叫ぶ私に、ナオは反応一つ返さなかった。私は泣き続けた。泣いて、泣いて、泣いて……。
 ミミも、泣いていた。泣きながらナオのところに来て、ナオを抱きしめて泣いた。


 その時。





「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!
痛いッ! 痛いよぉッ!! ああああああああああああああああああああああッ!!」



 鋭い叫びが、この古びたゲームセンターに響き渡った。私とミミも驚いて振り向く。
そこには、泣き叫び血を流すマオと、そのマオに馬乗りになって、マオを刺し続ける未華。

「あはッ! あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはッ!!」

「やめ……てよ……ッ! やめてよ……やめなさいよぉぉぉぉおおぉぉぉぉおおおおおぉぉぉおおおおおおおおおおおおッ!!!!!」

「ッ! み……ミミッ! ダメッ! ヤダッ! ミミぃぃぃいいいいいいいいいッ!」

 私の叫びは届かず。
 ミミは狂ったように未華に向かって走っていった。
そして、拳を握り締め、未華を殴り飛ばそうと振りかぶった。








            そして、悲鳴を上げて……










            死んでしまった








「いやッ……嫌だッ……! ミミィィィィぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!」

 私は泣いた。こめかみが痛くなったけど、涙は止まらなかった。
私の涙がナオの顔にポタポタと落ちて、まるでナオまでが泣いているように見えた。
ミミは未華の上に倒れこみ、ピクリとも動かなかった。
マオも「ひぃっ」っと悲鳴を上げて、刺された腕を押さえながら後ず去った。

「後は、お前だけ。ねえ、綾音?」

 未華は優しく微笑みながら、私を見た。
私は返事ができず、「ひッ」っと声を上げただけだった。
未華は気にせず、続ける。

「もうすぐ、あたし達、元通りだよ」
「いやッ……戻る……? 戻らなくていぃ、から……ッ! マオを殺さないでッ!!」
「綾音ぇ……ッ!」

 マオが泣きながら私のほうを振り返った。
私も泣きながらマオを見つめる。
ミミみたいに殴りかかりに行きたいけど、足が動かない。
そんな私を見てマオは、もう一度顔を歪めて泣きそうになってから、
涙を拭いて、私に笑顔を向けた。
なぜ今笑うのかと不思議に思って、マオを凝視していると、マオが真顔になって、未華の方に向き直った。



「あたしを殺したいなら、殺してよ……。ただ……」
「? ただ?」
「綾音を、傷つけないで」
「……当たり前だし」
「いやッ! マオッ!」
「綾音ッ! 逃げてッ!!」


 マオはそれだけ叫ぶと、未華を押し倒して、馬乗りになった。
私は泣きながら、マオの名前を叫んだ。でも、未華は嬉しそうに顔をゆがめ、マオを――。
私は泣きながら、ゲームセンターの奥へ逃げた。ナオを、ミミを、マオを、私は――ッ!



 未華は、私を簡単に見つけ、目の前にたった。
しゃがみこみ、ガタガタと震える私を見つめ、優しく。優しく微笑んだ。
未華の顔にも、体にも、そして、握られた包丁にまでも、血がベットリとついていた。
私は気分が悪くなって、吐きそうになったが、気持ち悪いのを押さえ、キッと身かを睨んだ。

 未華はしゃがみこみ、私と目線を合わせてから、私を抱きしめた。
未華から、鉄の匂いがツンとした。これは、私が見殺しにしてしまった、ナオのミミのマオの血の匂い。
普段めったに嗅ぐことのないこの血の匂いと、恐怖と、怒りで、私はまた泣き始めた。
未華はそんな私を抱きしめながら、優しく語りかける。

「綾音? もう、あたし達の邪魔をするやつ等はいないよ。
また、友達に戻れたんだよ。あんな人間のクズどもは、もういない。みーんな、死んだよ。あたしが、殺したから」

 未華のその言葉を聞いて、私の頭の中の、理性の中の何かが音をたてて切れた気がした。
私は未華を押し倒し、その手から包丁を奪うと、未華の腕を目掛けて包丁を振り下ろした。
鈍い感触が――。















ゆるゆるした包丁が、私の横に落ちている。
その血が、誰のものなのか……。
もはや、分からなかった。














 後から聞いた話では、私たちの悲鳴を聞いた誰かが警察へと通報したらしいい。
人通りが少なく、こんな寂れた場所だったから、警察は見つけるまでに時間がかかったらしい。
警察が来た時には、ナオもミミもマオももう息がなく、店の奥の方で返り血で真っ赤に染まった未華と、
その未華の上に倒れて気絶している私が発見されたらしい。
未華は腕と、お腹を刺されていて、後少し発見が遅れていたら、かなり危険な状況だったそうだ。


 私は裁判で、「正当防衛」で仕方なく、未華を刺したと主張してもらい、無罪となった。


 そして、私は10年経った今でも、ミミ達へのお墓参りを忘れない。
お墓の前で、何度も何度も謝って、お礼を言う。










――未華が今、どこで何をしているのかは知らない。
今も生きているのは確かだ。




未華が教えてくれた。
――人付き合いは、軽く、簡単な事では無いと……。














 私はふっと目を開け、目の前のマオのお墓に向かって微笑んだ。

⇒To Be Continued...

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